見出し画像

春待つ雪国で、旅する七草と夜の粥

 「きみがため はるでて 若菜わかなむ 衣手ころもでに ゆきりつつ」 なんて優雅な歌があるが、1月7日の北海道でこれを実践しようとしたら、遭難してしまうかもしれない。最近は冬眠しそこねたヒグマと遭遇するリスクもあって、どちらにしても命がけだ。

 野に出てもあるのは雪だけ。雪、雪、雪。スコップで掘り返しても、剣先がシバれた土に当たると手がジ~ンとしびれるのでおすすめしない。 道民にとって、七草とは「摘むもの」ではなく、スーパーで「購入するもの」になっている。

 そんな、わたしの若草物語、じゃなかった七草物語は昨年の暮れ、まだ世の中が「おせち!カニ!寿司!刺身!ジンギスカン!」と浮足立っていたスーパーの片隅から始まっていた。

フライング七草との遭遇

 年越しの買い出し中、きらびやかな正月食材の横に、ひっそりと、しかし確かな存在感で「七草セット」が並んでいたのを見てしまった。本番はまだ一週間以上も先だというのに、早すぎやしないか。思わずツッコミを入れてしまう。

 まだ食べてすらいない。まだ太ってすらいな……いや、いま嘘をついた。すでに太っていた。お詫びして訂正します。 いずれにしても、これから始まるうたげを前にして、「どうせお前、胃を壊すんだろ?」と突き付けられたような気持ちになった。

 しかも、ここは雪国・北海道。外は一面の銀世界。この緑色をした草たちは、遠路はるばる運ばれてきたのだろう。パックの中でひいき目に見ても疲れ気味に見える姿は、まるで「早く食べてくれ。とにかく寒いし、いろんな意味で限界だ」と訴えているようだった。

 このとき、雑煮にのせるセリがどうしても見つからず、「待てよ、七草セットのなかにセリが入っているじゃないか」と一瞬手が伸びかけたが、さすがに違うと思い直し、買わずに帰った。

夜に食す背徳の味

 本来は朝に食べるものらしい。だが、わたしは夜に食べる。なぜなら朝から粥ではどうにも元気が出ないし、夜に食べたほうが一日の締めくくりとして、なんとなくデトックス感が増す気がするからだ(科学的根拠はない)。

 「日頃から食生活を正せば、七草に頼る必要はないのでは?」という正論が脳裏をよぎるも、「それを言っちゃあ、おしまいよ(by寅さん)」。わたしは364日の不摂生を、この1日の、しかも1食のお粥で帳消しにしようという、図太い願いを持った生き物なのだ。

 あの年末から並んでいた七草たち(むろん、毎日新しいものが入荷しているとは思うが)が、わたしの胃袋に収まる時がやってきた。 昨年は雪深い中でも手に入るものを、と割り切ってありあわせの「三草粥」にしたが、輸送にもまれ、スーパーの片隅で年を越し、しなびてしまった七草たちに思いをはせると不憫ふびんに思い、自分の境遇とも重なり、今年は買うことにした。

▽昨年(2025年)の「七草」の記事

 しなびていても大丈夫! お粥になれば、おなかに収まればみんな一緒。 湯気に顔をうずめながら、願うことだけは真剣だ。七草たちの旅の終着点がわたしの胃袋であるように、このお粥を、わたしの新しい一年の出発点にしようと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

はなふさふみ よろしければ応援お願いします。頂戴したチップは、誰かの心が少しでも軽くなるような記事の執筆に向け、大切に使わせていただきます。