はぐき先生が噛み砕く知識ノート②🔵「口に入れてくれない」には理由がある── 食べることの発達① 口の入り口編
🔵 はじめに
前回の知識ノート①では、子どもの「食べない・食べられない」を3つのフェーズで整理する考え方をご紹介しました。
今回からは、それぞれのフェーズを深掘りしていきます。第一回は フェーズ1 ──「口の入り口の感覚と機能の発達」についてです。
「スプーンを近づけただけで顔を背けてしまう」「口を開けてくれない」「歯ブラシを嫌がって大泣きする」──そんなお悩みをお持ちの方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
🔵 フェーズ1とは?
前回ご紹介した3つのフェーズを簡単におさらいすると:

フェーズ1とは、口の入り口の感覚と機能が育っていく段階のことです。この段階で「口に入れてくれない」「口元に触れられるのを嫌がる」といったつまづきが生じている状態が、今回のテーマです。

🟠 感覚のはなし
口の入り口には、触覚・温度・圧力など、さまざまな感覚が集まっています。この感覚の育ち方には個人差があり、大きく「過敏」と「鈍麻」の2つの方向性があります。
🔹 過敏な場合
口に何かが近づいたり触れたりしたとき、それを脳が必要以上に強く受け取っている状態です。「わがまま」や「食べたくない」ではなく、口からの情報が過剰に届いてしまっているために、強い拒否反応が出やすくなります(田村,2021)。
よく見られるサインとして:
口元・顔まわりへの接触を全般的に嫌がる(歯磨き・洗顔なども含む)
スプーンや食具が唇に触れた瞬間に強く拒否する
特定の食感・温度・においに強く反応する
🔹 鈍麻な場合
逆に、口の入り口への感覚が鈍くなっている状態です。一見すると「触られても平気」に見えますが、口元の感覚が届きにくいために、食べることの発達に影響することがあります。
よく見られるサインとして:
口まわりへの刺激に反応が薄い
よだれが多く、口唇をしっかり閉じにくい
口元に食べ物が触れても気にしない様子
過敏・鈍麻いずれの場合も、口の入り口への適切な刺激を積み重ねていくことがアプローチの基本となります。スポンジブラシや指によるマッサージを通じて口まわりの感覚を少しずつ育てていく方法については、後ほど詳しくご紹介します。
🟢 機能のはなし
感覚の発達と並行して、口の入り口の動きが育っていくことも重要です。フェーズ1の段階で特に関わりが深い機能として、以下の2つがあります(金子,1987;向井,2000)。
🔹 捕食(ほしょく)
スプーンに乗った食べ物を、上唇を使ってしっかりと取り込む動きのことです。この動きが育っていると、スプーンをすっと引いたときに食べ物が口の中に残ります。捕食がまだ難しい段階では、舌で押し出してしまったり、食べ物をうまく口に収められなかったりすることがあります。
🔹 口唇閉鎖
食べているあいだ、口をしっかり閉じておく機能です。口唇閉鎖が十分に育っていないと、食べ物や飲み物が口からこぼれやすくなります。

🌱 なぜフェーズ1でつまづくことがあるの?
背景はさまざまですが、よく見られるのは以下のような場合です。
🔹 経管栄養などの医療的ケアを経験したことがある子ども
何らかの医療的な経緯から、口を使う経験が乏しかったり、ゆっくりと経験を積み重ねてきている子どもたちでは、口の感覚や機能の発達もゆっくり進むことがあります。
🔹 口元への接触に強い反応が続いている子ども
離乳食を始めたころ、スプーンが触れることを子どもが過度に不快と感じてしまい、その経験が重なることで「口に入ってくるもの=嫌なもの」という反応が生まれやすくなることがあります。一度受け入れてくれたのにその後嫌がるようになるケースも、同じような流れで理解できることがあります。
🔵 フェーズ1へのアプローチ:脱感作という考え方
フェーズ1のサインが見られるとき、私たちがよく用いるのが 「脱感作(だつかんさ)」 というアプローチです。
脱感作とは、口まわりへの刺激に少しずつ慣れていくプロセスのことです。過敏・鈍麻どちらの場合も、口の入り口への適切な刺激を丁寧に積み重ねていくことが大切です(Toomey & Ross,2011)。
具体的な一例として:
① まずスポンジブラシや指で、口の周りから少しずつ触れる範囲を広げる
② 次に、スプーンを口元に近づけることに慣れていく
③ その後、スプーンに食べ物を乗せて、口に取り込む経験へとつなげる
スポンジブラシの選び方や使い方については、こちらの記事もあわせてご覧ください👇
▶︎ はぐき先生のオススメグッズ①「口の感覚を育てるスポンジブラシ」
https://note.com/haguki_sensei/n/n58ab21b415d4
急がず、お子さんのペースに合わせながら積み重ねていくことが、フェーズ1のアプローチの基本的な考え方です。
(※ 具体的なアプローチはお子さんの状態によって異なります。実践の際は専門家と一緒に進めることをおすすめします。)
📋 フェーズ1とフェーズ2の違いは?

フェーズ2については次回の知識ノートで詳しくご紹介します。
🌱 おわりに
「口に入れてくれない」というお悩みは、口の発達という視点から見ると、少し違った景色が見えてくることがあります。
フェーズ1のつまづきは、適切なアプローチと時間の積み重ねによって、少しずつ変化していくことが多いです。お子さんと一緒に、そのペースを大切にしていきましょう。
💡 お子さんの食の状態には個人差があります。
気になることがあれば、歯科医師・小児科医・言語聴覚士・管理栄養士など、身近な専門家にお気軽にご相談ください。
〔参考文献〕
📕田村文誉(編著)『子どもとその口腔の診かた』医歯薬出版,2021 ─ 口腔周囲の過敏・感覚面の発達について参照
📕金子芳洋(編)『食べる機能の障害』医歯薬出版,1987 ─ 捕食・口唇閉鎖など摂食機能の発達について参照
📕向井美惠(編著)『乳幼児の摂食指導 お母さんの疑問にこたえる』医歯薬出版,2000 ─ 離乳期のスプーン導入・摂食発達について参照
📕Toomey KA, Ross ES. SOS approach to feeding. Perspectives on Swallowing and Swallowing Disorders. 2011;20(3):82-87. ─ 段階的脱感作アプローチについて参照
