公認会計士試験「合格率」を検証する(4/4)
※この記事は前回記事の続きです。初めての方は第1回からどうぞ!
5.地頭、そして所属予備校(承前)
さらに大原のデータを用いて、これまでの検証方法の応用も示そう。大原の2020年度合格者399名のうち、初学者は187名、「上級者」は212名であることが公表されている。「上級者」は過年度の短答不合格者も含むので本記事の指標(短答受験者、短答免除者)と直接に対応していないが、本記事の方法を応用して鍵パラメータ$${B}$$や$${C}$$の推定ができる。
$${D=0.8}$$に加えて「短答不合格者の再挑戦率」も$${0.8}$$であると仮定し、$${初学者=P}$$、$${短答再出願者=Q}$$、$${短答免除者=R}$$と置くと$${B}$$、$${C}$$、$${P}$$、$${Q}$$、$${R}$$の5つの未知数に対して4本の式を立てることができる。これらを整理すると、
$$
B=\frac{-63.84C+171.04}{255.36C+63.84}(ただしC>0.336)
$$
という関係式を得る。これを満たす現実的な$${B}$$・$${C}$$(とそれにより一意に定まる$${A}$$と$${「C値」}$$)の組み合わせは、($${A}$$、$${B}$$、$${C}$$、$${「C値」}$$)$${=(0.728、0.665、0.55、0.416)}$$、$${(0,777、0.612、0.6、0.419)}$$、$${(0.820、0.564、0.65、0.417)}$$、$${(0.899、0.521、0.7、0.412)}$$などがある。CPAのパラメータに比べて決して劣っていないことが分かるだろう。
ちなみに$${C=0.65}$$の場合、初学者(短答受験者)が510人、経験者(短答再出願者)が274人、短答免除者が172人、うち442人が短答試験に合格して614人が論文を受験し、399人(うち、短答免除者112人)が論文試験に合格するイメージである。この推定によると、大原の$${B}$$や$${C}$$はCPAのそれと遜色無く、$${「C値」}$$はむしろCPAの値$${(0.371)}$$を上回っている。この結果は、$${「C値」}$$によって予備校の質を測定する場合、CPAよりもむしろ大原の方が優れているという結論になる可能性を示唆している(ただし、仮定も多いのであくまで参考数値に留まる。)
(なお、上の推定では短答不合格者の再挑戦率も論文不合格者の再挑戦率と同じく$${0.8}$$であると仮定した。この制約を外し、一般化のために「短答不合格者の再挑戦率」を$${d}$$と置いて条件を整理してみると、
$$
B=1-\frac{212-399D+399CD}{399d(1-D+CD)}(ただしC>1-\frac{212}{399D}かつD>\frac{212}{399})
$$
と書ける。明らかに、$${d}$$が大きくなるほど$${B}$$も大きくなる関係にあることが分かる。)
(ただし、仮に大原のパラメータ推定値が大まかには真実に近く、三大予備校とも似たようなパラメータだとすると、全体平均との乖離が非常に大きいことが気になる。仮に、三大予備校平均の$${B}$$、$${C}$$を上記推定よりも保守的に$${B=0.4}$$、$${C=0.5}$$としても、推定される三大予備校の「修了者」(短答受験者+短答免除者)は全体の4割程度しかいない計算になる。これは、合格者だけでなく出願者の過半が三大予備校のいずれかに属するという一般的な印象に反する。また「三大予備校以外」で会場受験までたどり着いた出願者のパフォーマンスも非常に低いことになる($${B}$$は$${0.07}$$くらい、$${C}$$は$${0.12}$$くらい)。
この推定結果をどう解釈すべきかが難しい。そもそも推定が大きく間違っているのかもしれないし、逆に三大予備校の効果は実際に大きく、世間で思われているよりも予備校非所属者が意外に多いのかもしれない。もしくは三大予備校に所属してはいるが記念受験で予備校の「修了者」(分母)には含まれない受験生が多いのかもしれない、等考えられるが、ここでは疑問に思ったということを記録するにとどめる。)
最後に、推定方法を変えても結論が変わらないか確認する。具体的には、いわゆる「三振制度」を議論に組み込んでみる。論文3回目の受験生からは再挑戦が生じないので、彼ら以外の論文不合格者を分母とした「再挑戦率」$${(δとする)}$$は$${D}$$よりも大きくなる。未知数が多くなりすぎるのを防ぐために$${δ=d}$$(短答不合格者の再挑戦率)と仮定し、2020年度の実績データから$${δ}$$を推定すると$${δ=0.98}$$となる(二次方程式を解くと求められる)。
CPAについて、$${C=0.65}$$、(他予備校からの流入を想定して)$${δ=1.1}$$と仮定して$${B}$$を求めると$${B=0.465}$$となる。この値は先ほどの推定($${B=0.490}$$)とあまり変わらなかった。ここで不合格者数に$${D}$$($${0.98}$$と$${1.1}$$と)の差を乗じた数を他予備校からの流入者数と考えると、67人程度となる。この半分程度(35~40人程度)が大原から流出したと仮定し、$${C=0.65}$$を固定して条件を満たす$${δ}$$、$${B}$$、$${「C値」}$$の組み合わせを求めると$${δ=0.90}$$、$${B=0.625}$$、$${「C値」=0.456}$$となる。こちらの$${B}$$推定値は先ほど$${(B=0.564)}$$よりもかなり上昇し、$${「C値」}$$推定値も先ほどの$${0.417}$$より大きくなった。(ただし、$${「C値」}$$が高すぎる(TACの優秀大学生並み)のは推定の信頼性として気になるところである。)
以上は仮定を重ねた一例に過ぎないので、CPAよりも大原の方が$${「C値」}$$が高いという強い証拠が得られたわけではない。しかし、37.1%というCPAの$${「C値」}$$(「合格率」)が、決して他予備校と比べて優れているとは言えない、という結論は、このように推定方法を変えても変わらなかった。
これまでの検証をまとめる。CPAの「合格率」を、「年齢」「学習進捗度」を考慮して25歳未満の$${「C値」}$$と比べると、$${B}$$(実質短答合格率)・$${C}$$(論文合格率)ともにCPAの方がかなり高い。この違いが「合格率」の高さを生んでいると一応は言える。
しかし、2つのパラメータ($${B}$$と$${C}$$)はともに出願者の「地頭」に敏感に反応するパラメータであり、TACのデータから見て「地頭」のインパクトは相当に大きいと思われる。地頭が良いと考えられる上位校の大学生がきちんと勉強して臨めば、短答試験はひっくるめて6割、論文試験は7割が受かる試験のようである。学歴と合格率との間に相関関係はないと断言する記事もあるが、本記事の検証は、地頭が学歴と相関する限り、学歴と合格率との間には正の相関があることを示唆している。
さらに、CPAには他予備校からの受験生流入が起きていると考えられるが、例えば短答免除生の移籍自体は「予備校の質」とは関係ないにも拘わらず、見かけ上の「合格率」を押し上げる。CPAの講師自身が、自社の「純粋培養」数が他予備校に劣るのは自明、と述べるほどであるから、指標の解釈にあたってはこの効果も無視できない。
これらの要因を勘案したとき、CPAの「合格率」は、他予備校に比べて正の「予備校効果」を想定しなければ説明できないほど高いとはいえない(大原の合格者データを検証すると、大原の鍵パラメータ($${B}$$、$${C}$$、$${「C値」}$$)がそもそもCPAを上回っている可能性もある)。結局37.1%という「合格率」からは、予備校の質について確たる結論を得ることができない。
6.結論
本記事では、「合格率」と「平均合格率」をCPA広告のように直接比較することの妥当性について検証してきた。37.1%という数値によって、発信側が期待するような「所属予備校」効果が示されたとはいえない。「合格率」的な指標の大きさによって「所属予備校」の効果を示すには、少なくとも年齢・学習進捗度・地頭(と受験生移籍)の影響を統制する必要がある。しかし10.1%と37.1%という差はこれらの要因(とくに地頭効果)で十分説明可能な範囲内であり、CPAの数値はむしろ他予備校に比べて劣っている可能性すらある。
尤も、他予備校が常に清廉というわけではない。例えば大原・TACともに、過去には合格者数の表示について公正取引委員会から警告を受けたことがある。レトリックを剥げば予備校は全て営利企業であり、小山氏が示唆するように、各予備校とも自社に都合の良い数字を(法に牴触しないラインを狙いつつ)選んで出している、ということなのだろう。
ただし冒頭でも述べたように、個人的には、「合格率」と「平均合格率」の差を前面に押す広告手法は、たとえグレーに留まっているとしても倫理的にアウト寄りだと思う。ましてや、公認会計士には高い職業倫理が要求されている。例えば、今年度の四大監査法人間協定の一節では「範囲が限定されている分析資料の提示など誤解を与える情報提供は行わない」と定めている。より直接的には、日本公認会計士協会の倫理規則に、基本原則のひとつとして「誠実性の原則」(第3条)がある。これは、公認会計士が「必要な情報を省略する又は曖昧にすることにより誤解を生じさせるような場合において、当該情報を省略する又は曖昧にする情報」であると認識した場合に、その作成や開示に関与してはならないとする原則である。CPAの行為は、(もちろん、就活や監査という場面の違いはあれ)これらのルールの背後にある規範に反している。
今後、CPAはこの広告手法を使い続けるだろうか?合格者数が増えるにつれて「合格率」も下がる可能性が高い(仮に全出願者がCPA受講生になれば、「合格率」は全体平均に等しくなる)ので、予備校の「売り」としては使いにくくなる。本記事のような批判がなくても、将来「合格率」を宣伝に用いなくなる可能性はあるだろう。もしくは、「平均合格率」との明示比較を止め、「合格率」のみ掲げて間接的に誤認を誘う広告に留めるようになるかもしれない。いずれにせよ、グレーな広告手法を用いて市場で多数派を得ようとした、という過去が消えることはない。
7.検証の限界と意義
本記事では検証を進めるためにかなりの仮定を置いているので、本記事の各推定値が真実とずれていても全くおかしくない。詳細なデータを持つ公認会計士・監査審査会や予備校側は、本記事の推定値が真実と違っていることを発見するだろうし、「合格率」等の規定要因についても、過年度のデータも利用したより精緻な分析を行っているだろう。
本記事の検証がシンプル過ぎる、もしくはロジックの立て方が誤っていると考える読者は、自ら議論を改良することができる。置いた仮定はなるべくその都度明示するよう努めたので、読者は自らそれら仮定を変えることで、別の議論を立てていく(自らの反論の立ち位置を整理する)ことが比較的容易に行えるのではないかと思う。
一方で、シンプルな議論にはシンプルであること自体の利点がある。特に、一般の受験生は、公認会計士試験「合格率」関連の詳細なデータは入手できない。そんな彼らにとって、本記事のように、限られたデータからそれなりに筋の通った推論を行える方法は、役に立つのではないだろうか。
例えば、本記事が用いた「出願者数、合格者数、属性ごとの実質短答合格率・論文合格率等が毎年一定で、長期的に均衡するように免除者数の割合等が定まる。予備校単位でも同じことが言える」という前提は、出願者数自体が毎年変動することを考えるとそもそも「誤っている」。しかし、これらを議論に組み込むと、どう変化するかを合理的に論じたり、より詳細なデータを入手したりしなければ推定が行えなくなる。不可能でないとしても、議論はよりややこしくなるだろう。
それに対し、本記事の検証方法なら、(大原の例で示したように)合格者の内訳(初学者か否か)が分かるだけで、その予備校の鍵パラメータについてそれなりの推論を行うことができる。もちろん、「それなり」の精度が重要ではあるのだが、それについては読者の判断に任せたいと思う。
(今回で完結です。ご覧いただき、有難うございました!)
