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公認会計士試験「合格率」を検証する(3/4)

※この記事は前回記事の続きです。初めての方は第1回からどうぞ!

5.地頭、そして所属予備校

前回記事の終わりに、CPAの「合格率」に近い指標として、$${「C値」}$$を定義した。$${「C値」}$$は、「論文合格者/(短答受験者+短答免除者)」もしくは「論文合格者/(出願者-短答欠席者)」で計算できる。

まず、これまでの議論を、$${「C値」}$$に影響を与える3つのパラメータという形で再整理する。その3つとは、次の通りである。

$${A}$$:「短答受験者+短答免除者」(=出願者-短答欠席者。以下「修了者」と呼ぶ)に対する短答受験者の割合
$${B}$$:「実質短答合格率」(短答合格者/短答受験者)
$${C}$$:「論文合格率」(論文合格者/論文受験資格者)

いずれも0から1の値を取る。

(なお、論文試験にも欠席者がいるが、論文受験資格者はそれなりに学習が進んでおり、CPA「合格率」の分母に含まれると考えられる(最終段階で勉強不足を感じて欠席したとしても、予備校の模試は受験していると思われる)ので、指標の計算上は考慮しない。従って$${C}$$の分母は「論文受験者」ではなく「論文受験資格者」を採用している。)


$${「C値」}$$は、$${「C(1-A+AB)」}$$で求めることができる。CPA「合格率」の分母である「修了者」を1とすると、$${A}$$は短答受験者を表し、$${「1-A」}$$が短答免除者を表す。短答合格者は、$${A}$$に$${B}$$を乗じて求められる。 論文受験資格者は短答免除者と短答合格者との合計であるから$${「(1-A)+AB」}$$となる。論文受験資格者に論文合格率$${C}$$を乗じた$${「C(1-A+AB)」}$$が論文合格者(つまり、「合格率」の分子)となる。分母を1にしているので、この数値がそのまま求める値となる。


もう一歩突っ込んで考えると、論文不合格者の「歩留率」(=短答免除者数/論文不合格者数)が常に一定であると仮定すれば、$${B}$$、$${C}$$が決まると$${A}$$もひとつに定まることが分かる。歩留率を$${D}$$とすると、論文不合格者数は$${「(1-A)/D」}$$と書け、論文受験資格者はこれをさらに$${「1-C」}$$で割った$${「(1-A)/D(1-C)」}$$であると同時に短答免除者と短答合格者の和$${「(1-A)+AB」}$$として表せる。ふたつを等号でつないで整理すると、

$$
A=\frac{1-D+CD}{1-D+BD+CD-BCD}
$$

となり、$${A}$$は$${B}$$、$${C}$$、$${D}$$の関数であることが示された。例えば$${B=C=0.4}$$、$${D=0.8}$$とすると、$${A=0.730}$$と定まる。またこのとき$${「C値」}$$は$${0.225}$$になる。

$${D}$$は、変数というよりも定数に近いと考えられる。2020年の実績データではほぼ0.8である($${0.786}$$)ので、この後の分析では特に断らない限り$${D=0.8}$$を用いることにする。

$${A}$$が$${B}$$、$${C}$$、$${D}$$で表せることが分かったので、$${A}$$についての式を$${「C値」}$$の式に代入して整理すると、

$$
「C値」=\frac{BC}{1-D(1-B)(1-C)}
$$

という非常にすっきりした式を得られる。パラメータの変化が$${「C値」}$$に与える影響をみるために$${B}$$、$${C}$$それぞれについて微分してみると、$${B}$$、$${C}$$が大きくなれば$${「C値」}$$も大きくなるという関係にあることが分かる。これは直感的にも納得しやすい、半ば当然の関係である。


次に、これまで見てきた要因がパラメータにどう影響するのか考えてみる。「学習進捗度」は、「修了者」を分母とした(学習進捗度が低いと思われる欠席者を分析から排除した)ことで、いわば比較を始めるための前提条件となっている。従って、この後の検証で各パラメータへの影響は考えなくて良いだろう。「年齢」であるが、これまでの25歳未満と25歳以上の比較から分かるように、$${B}$$、$${C}$$の両方に負の影響を与える。年齢が低い方が、実質短答合格率$${B}$$も論文合格率$${C}$$も高くなるという関係にあるといえるだろう。

「地頭」は$${B}$$、$${C}$$の双方に正の影響を与えると考えられる。「所属予備校」も同様に、質のよいサービスの提供を通じて所属受験生の$${B}$$及び$${C}$$を高めることで$${「C値」}$$を高めると考えられる。なお、予備校に所属すると、独学と比べて$${B}$$、$${C}$$が高まることはほぼ自明であるから、「他の予備校と比べて」より大きな効果があるか、を専ら問題とすべきだろう。


大体準備ができたところで、いよいよCPAの「合格率」を直接検証しよう。


比較対象とする、25歳未満における$${「C値」}$$ほか各パラメータを再確認すると、まず「修了者」は5069人、うち短答受験者が4520人、短答免除者が549人だった。従って$${A(短答受験者/修了者)=0.892}$$である。短答受験者のうち1095人が合格したので$${B(短答合格者/短答受験者)=0.242}$$であった。短答合格者と短答免除者との合計1644人が論文受験資格者であり、うち806人が合格したので$${C(論文合格者/論文受験資格者)=0.490}$$となっている。その結果$${「C値」}$$は$${0.159}$$であった。

(なお、以前に触れたようにこの推定値には「25歳の短答免除者」を含んでいないので、$${A}$$が高めに、$${C}$$が高めに、$${「C値」}$$が低めに算出されている。仮に25歳の短答免除者を112人、合格者を34人と仮定し、これを含めて計算し直すと、$${A=0.872}$$、$${C=0.478}$$、$${「C値」=0.162}$$となる。この修正を加えた場合の$${D}$$は$${0.789}$$であった。)


続いてCPAの実績値を元に、パラメータを推定していく。「カリキュラム修了者」は919人、合格者は341人である(ここでの「合格者」は、CPAの合格者総数から定義に合わない者18人を除いた数値である)。$${C}$$(論文合格率)は0.6超であることが知られている(国見講師からの報告がある)ので、$${C=0.65}$$と設定してみよう。これにより論文受験資格者を推定すると525人、論文不合格者は184人となる。また$${D(歩留率)=0.8}$$を使うと短答免除者は147人と推定される。従って短答受験者は772人であり、また短答合格者は378人なので$${B(短答合格率)=0.490}$$となる。$${A}$$も計算してみると$${0.840}$$であった。


以上の結果を25歳未満の推定値と比較してみる。まず、CPAの$${A}$$に異常なところはない。CPAの$${C}$$(0.65)は25歳未満の値(0.490)よりも高いが、実績データでも$${C}$$(論文合格率)はかなり分散の大きい変数であり、例えば25歳以上の$${C}$$はわずか$${0.238}$$である。「25歳未満」の$${A}$$は平均的な大学生を表していると言えるから、地頭の良い優秀な大学生を主要顧客としているCPAの$${A}$$が0.65程度まで上がっても不思議ではないといえる。一方$${B}$$(実質短答合格率)は、「25歳未満」の0.242に対してCPAは0.490と2倍以上の差がある。こちらはやや開きが大きいようにもみえる。$${B}$$と$${C}$$の効果が相まって、25歳未満の$${「C値」}$$との違いを生み出しているといえる。


ここまでの検証の問題は、「地頭効果」と「所属予備校効果」とを区別できていないことである。両者とも$${B}$$、$${C}$$に対して同じ方向に作用するため、予備校効果の存在を確言できないのである。地頭効果の大きさを知る手がかりはあるだろうか。


ここで、TACが公開している数値が参考になる。冒頭で言及したように、TACも「カリキュラム修了者合格率」を宣伝に用いている。これは「会計士試験合格者の多い10大学」を対象に、論文合格者数を「カリキュラム修了者」(=本科生コースを受講かつ全国公開模試を受験した者)で割った数値であり、該当者331人のうち152人が合格したので45.9%だそうである。この数値は地頭効果を考える際、特に地頭の良さそうな大学に絞った数値として参考になる。

この結果を生むパラメータの組み合わせはどのようなものだろうか。先ほどと同様に$${D=0.8}$$として検証を進める。計算過程は省略するが、この結果を生み出す$${A}$$、$${B}$$、$${C}$$の組み合わせは$${(A、B、C)=(0.802、0.634、0.65)}$$、$${(0.843、0.591、0.7)}$$、$${(0.878、0.558、0.75)}$$といったものである。鍵パラメータである$${B}$$、$${C}$$はいずれもCPAの値よりもかなり高い。TACのデータでも「地頭効果」と「TAC効果」を区別できないのだが、仮にTAC効果であればCPAよりもTACの方が予備校として優れているということになるし、地頭効果であれば、CPAの「合格率」のほとんどが地頭で説明できるということになる。いずれにしても、CPAのパラメータは、CPAの「予備校効果」を示しているとは言い難い。


まだ考慮すべきことがある。池邊講師から、2020年試験でのCPAについて「純粋培養合格者数では大原、TACに劣ることは自明」という報告がある。実際、CPAには他校から引き抜かれた有名講師が多く在籍し、また講師陣の頻繁なツイート等によりネット上の存在感も大きい。このため、他予備校の受験生が目移りしてCPAに移籍するという動きが起きていても不思議ではない。

このような動きは、パラメータをどう変化させるだろうか。例えば、短答免除者の他予備校からの流入は、予備校の$${D}$$(「歩留率」=短答免除者/論文不合格者)を見かけ上押し上げることになるだろう。$${「C値」}$$の式を想起してもらえれば分かるが、$${D}$$の上昇は$${「C値」}$$も上昇させる。つまり、「予備校の質」が影響を与えられる$${B}$$や$${C}$$が他予備校と全く同じでも、短答免除者の流入が生じるだけで見かけ上$${「C値」}$$が高まることになるのである。流入数がどの程度か分からないが、仮にCPAの$${D}$$を1.1(短答免除生の方が論文不合格者よりも20人ほど多い状況)とした場合、先ほどと同じく$${C=0.65}$$とすると$${B=0.450}$$まで低下する(なお$${A=0.780}$$)。

TACの「カリキュラム修了者合格率」には逆のことがいえる。TACからの短答免除者の流出は、TACの$${D}$$が0.8よりも小さくなることを意味する。例えば$${D=0.7}$$、$${C=0.7}$$とすると$${B=0.6}$$となり、$${D=0.8}$$のとき($${B=0.591}$$)よりも少しではあるが上昇する。つまり、流出が生じた予備校側は、純粋な「予備校の質」を反映した数値よりも「合格率」が見かけ上小さくなる。

(なお、受験生移籍のパラメータへの影響は、一定規模の流出入が継続し、均衡に達した状況を想定している。単年度に急激な移籍者の流出入が生じた場合には、パラメータ($${D}$$や$${「C値」}$$)は、上の議論とは別の挙動をする可能性があることに注意してほしい。)


以上、受験生の移籍によっても、予備校の質と関係なく「合格率」が見かけ上変動することが確認できた。近年の合格者数の変動に鑑みると、おそらくここで仮定したよりも大きな規模で、CPAへの受験生の流入が生じている可能性が高い。


(続きます)