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【7月32日】風まかせ文芸部

 
 7月32日(8月1日)
 お菓子の空き箱に作った夏休みの宿題のジオラマを、風呂敷に包んで登校して、自分の机の右側のフックに掛けた。隣の机と間の通路に少しはみ出すけど、朝イチに先生が「ジオラマ作ってきましたかぁ?提出してください」と言うだろうから大丈夫だ。ところがその日、先生はジオラマのジの字もなく、「いつまでも夏休み気分じゃ~勉強が身に付かないよ~」と明日からの授業の再開を告げると、帰宅の時間が来てしまい、風呂敷包のジオラマは行き場を失った。
 
 7月33日(8月2日)
 クラスの夏休み気分が抜けたかどうかは別にして、本格的に新学期が始まった。今日も始業前に先生からジオラマ回収の話は出ない。放課後かな?と思う。だがその日も結局、風呂敷包は机の右側にぶら下がったまま。
 誰かが「先生、ジオラマはいつ提出すればいいんですか?」と聞かないかなと思う。この風呂敷の中のジオラマは適当に作ったもので、そういえば草を生やしたけど家の高さの半分もあり、ただの緑のペラペラだもんなと思うと、その誰かを自分がすることは出来ない。自分からジオラマの単語を言う資格がない。出来れば、みんながいっせい提出をするその合間のどさくさ提出が望ましい。 
 
 7月34日(8月3日)
 今日は土曜日。午前中で学校は終わり。今日もジオラマは机の右にぶら下がっている。もう定位置になりつつある。「そういえば、みんなは自分のジオラマをどこに置いているのだろう」もしかして机の中? この風呂敷包も入るだろうか?「あ、ダメだ」机の中にはおじいちゃんが作った小さいひょうたんが入っている。すがわらのみちざねという学問の神様の絵をじいちゃんがひょうたんに書いてくれ、「これを机の中に入れとくと勉強が良く出来るぞ」と言うから入れたままだった。

 7月35日(8月4日)
 日曜日。夜にテレビで大好きなプロレス中継をみた。61分3本勝負だ。
ジャイアント馬場対デストロイヤー。大きさが随分違う。でも必殺の4の字固めが炸裂するか、ドキドキする。アナウンサーが聞いた。「どうして60分ではなく、61分なんでしょうか?」「それはですね、ゴングが鳴ってしばらくはにらみあって、お互い気迫を見せ合う時間が約20秒あるんですね。それが3回で1分というわけです」ふ~ん。でもそれなら、59分とその1分の60分でも良くない?と思った。直接戦わないけど、気迫を見せ合う時間かあ。

 7月36日(8月5日。月曜日)
 昼休みの終わり。ついに先生が来た。
 「その風呂敷包、ずっとぶら下がってるけど中身は何なんだ?」
 「あ、夏休みの宿題です」
 「あ~ジオラマか。早く提出すればよかったのに」
 先生は笑いながら「預かっとくぞ」と持って行ってくれた。
 定位置を確保していたジオラマがない。机とずっとセットだったジオラマの風呂敷包がなくなって、間が抜けた。  
 僕の夏休みが終わった。ようやく僕の長い1分間が終わったのだ。

                            (おわり)


 
 本文を書き上げて、ジェミちゃんに読ませてみた。ラストを何度か書き換え、さらに読んでもらう。

作品全体を通して、子どもの頃特有の気まずさや小さなこだわり、昭和の情景描写が見事に噛み合った傑作になりました。推敲、お疲れ様でした!

 またしても会話を切り上げるジェミちゃんに、つい笑ってしまいます。

 

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