門番レイン 第二十四話 ナッツデー

第二十四話 「ナッツデー」


夜。

なんとか亭の入口には、看板が出ていた。


本日 ナッツデー

レインは立ち止まった。

(……なんだそれ。)


中からは、いつもと少し違う匂いがしている。

甘いような、乾いたような、香ばしい匂いがする。


レインが戸を開けると、奥のほうから店主が声をかけた。


「今日はナッツデーだよ」


「なんですか、それ」


「あんた、ナッツ食べられるかい?」


「はい、好きです」


「じゃあよかった。食べられない人もいるからね。今日はナッツ料理の日なんだよ」


レインはいつものテーブルに落ち着き、
布袋は端に、そっと置いた。


運ばれていく皿には、味噌だれの鶏肉が乗っていた。

上には、砕いた木の実みたいなもの。
焼けた匂いの奥に、甘く乾いた香りが混じっていた。


(……これか。)


レインの意識は、どうしても皿の上に引っぱられた。

見るつもりがなくても、目がそっちへ行く。

皿の上。
砕かれたそれ。
そして、自分の持っている袋。

頭の中で、近いもの同士が勝手につながりかける。

(……クルミだろ、これ。)

レインは目をそらした。

そらしたのに、匂いはまだこっちへ来る。


(俺、クルミ持ってる。
料理にもクルミ。
これ、まずくないか。旨いけど……。)


レインはためらってから、一口食べてみた。

(うん、旨い。
……でも、やっぱりそうだ。)


奥で、ポロン、と弦が鳴った。


(来る。)


レインの右手が、すっと机の上の袋へ戻った。

そこで、手が止まる。

ポロン。

(盗ってない。どっ、どっ、
どうする。……保管っ。)

ポロロン。

レインは小さく息をついて、右手を袋から離した。

そして、手を挙げる。

許可、である。

「さぁさぁ皆さま〜! 夜の門番、吟遊詩人!」

吟遊詩人は、両手を広げた。


「プレーーン!」
「レインです」

「いいね、ぱっと来る匂いだ!」

やめろ。


「本日の新曲は――『ないがある』!」

「♪知らぬ間に
 持ってたら
 ないがあるー

 ひろって、そこにあるー
 知らない木の実ー

 ナッツの夜には
 当たりもあるぞ
 拾得、保管〜♪」

「ギャハハー、ないがある、あるある!」

「ナッツデーじゃん!」

「だはっ!」

レインは客が何故うけてるのかわからない。

オルがニヤリと、
はい、とレインをうながす。

「…拾得、保管」

「拾得、保管!!」

客は笑顔と拍手でかえした。

そして何人かが、机の上にぽん、とそれぞれのものを置いた。

「はいよー、やってくよー」

奥から店主が、小ぶりの木づちを持って出てきた。

こんこん。
くしゃ。
「げーっ」
「クソー」
こんこん。
「ひゅー」
「いえーい」

机のあちこちから、ばらばらの声が上がった。

店主は、もうレインのそばまで来ていた。

「さあ、さっさと袋からそれを出しな」

「いや、これは……その……」

レインは説明をあきらめて、すぐにそれを出した。
ふわり、紙片もいっしょに出る。


店主は小ぶりの木づちを、スッと振り下ろした。

こんこん。

割れない。

レインは口を半分開けたまま、音のあとを見ていた。

「当たりだね」

「なんですか」

「やりぃー、ナッツじいさんの木彫りだぞ。夜にばらまいてるぞ」

「朝にはリスが勝手に運んでくるからね、そのへんに落ちてるのよ」


「木彫りは当たり。ほかは外れ。」


「はいよー、デザートのアイスクルミパイだよ!」

レインには、安堵と喜びが同時にきた。


レインは木彫りのクルミを差し出した。

「……これ、預けます」

店主は受け取った。
木札箱のふたが、こつん、と鳴って閉まる。


出されたアイスクルミパイの上には、砕いたクルミと蜜がきらりと乗っていた。

レインは、あっという間にアイスクルミパイを食べきった。

ないがある、あるが当たる。

なんとも急な日だった。

そのとき、遠くで門が、
ないような、あるような音を立てた。

ギィ。


第二十五話 「はいよ、息子」
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