【準備編】「アピキウス」に載っているConditum Paradoxum(古代ローマのスパイス入りワイン)を再現してみる #1
以前から歴史メシに興味があり、時間を見つけては日本の文献(昔の人の食生活、兵糧のレシピとか)を漁っていた時に、Conditum Paradoxum(古代ローマのスパイス入りワイン)に行き当たったのが、ことの始まりです。
古代ローマで飲まれていたワインとは
ワイン自体は、古代ローマよりもはるか昔から造られ、飲まれていました。
ワイン及びワイン文明の生みの親をメソポタミア、育ての親をエジプトということが許されるなら、それを成人にして完成させたのがギリシャということができるだろう。
ただ、古代ローマ以前のワインの歴史を書くとそれだけで1つ記事が作れてしまうので、ここでは割愛。
白の甘口ワインこそ至高
ローマでもかなり後期になるまでは、優れたワインとみなされたのはすべて白ワインで、しかも甘口だった。強くて極く甘いものが珍重されたのである。自然な造り方で甘みが強くなかったものは蜂蜜で甘くした(それを冷たい清水か貯蔵しておいた雪で薄めて飲んだ)。
当時はまだ砂糖がなく、甘いものは貴重だったので、「甘いもの=優れているもの」という構図があったのではないか?と勝手に推測します。
ちなみに古代ギリシャでは「ワインといえば赤ワイン」だったそうで、それが古代ローマでは「ワインといえば白」になっているのは興味深いですね。
ワインは水で割る?
古代ギリシャでは、ワインを水で割るのが普通。ワインをストレートで飲むのはディオニュソス(酒の神)だけがすることだ、と言われていた。
古代ローマにおいても、先の引用で「冷たい清水か貯蔵しておいた雪で薄めて飲んだ」と書いてあるし、他の書籍では
(前略)夏季、山から取ってきた雪を混ぜた飲み方が人気だった。
ガロ・ロマン人にとってワインは樽の中で熟成した混じりっけなしのもの「メルム(merum)」をさすのであって、水で割ったものなどワインとみなしていなかった。(中略)キケロは渋い顔をする。「ワインに水を混ぜたら身体に悪いと奴らは思っているのだ!」(後略)
という記述もあります。
ローマ人であるキケロが「ワインに水を混ぜないことを批判」していることや、古代ローマではギリシャ文化を取り入れていた、ということから、古代ローマでも水で割るのが一般的だったんだろうと推測できます。
「アピキウス」について
アピキウスは、正式な姓名はMarcus Gavius Apiciusであろうと言われ、紀元前25年頃~紀元後37年頃に生まれた人物だと推測されています。
詳細は割愛しますが、簡潔に言うと、美食のために全てを捧げた挙句、財産が底をつき、美食をする金がないなんて…絶望した!と自死を選んだ、なかなかにアグレッシヴな方です。
書籍名も、彼の名前と同じ「アピキウス」となっており、彼のレシピも掲載されてはいますが、アピキウス自身が書いたわけではなく、著者も年代も異なる複数の文献を編纂してつくられたものである、と言われています。
なんか韓非子もこんな感じでしたね。
さーそれではさっそく本題に入っていきませう。(相変わらず前置きが長い)
なお、以降の内容はほぼ『古代ローマの料理書』(アピーキウス [著], ミュラ=ヨコタ・宣子 訳)を参考にした内容になっています。
自分は国会図書館のデジタルコレクションで自宅から拝読しました。
ラテン語が読める文化人の方は、下記サイトをご覧ください。
Conditum Paradoxumについて
「アピキウス」において一番最初のレシピとして掲載されているConditum Paradoxum。『古代ローマの料理書』では、「香辛料入り妙酒」と訳されています。
だいたいこんな感じのレシピ
鍋に1.08リットルのワインと蜂蜜4.89キロを加え、煮詰める。
煮ている間は絶えず混ぜる。それを冷まして、加熱して、を3回繰り返し、翌日、液面に浮いてきたアクをすくう。
すりつぶした胡椒約108グラム、マスティックの樹脂3.42グラム、甘松香(の若い茎)及びサフラン4.36グラム、カラカラに炒ったナツメヤシ(デーツ)の種5個とその果肉を加える。ナツメヤシはワインに漬けて柔らかくしておく。
その上から、甘口のワイン9.72リットルを注ぐ。
悪臭や苦みを取り除くため、木炭を加える。
何度読んでも3.の意図するところがつかみきれないのですが、『古代ローマの料理書』によると、「香辛料の全てを乾燥させすりつぶし、ふるいにかけてから酒に加える」とあるので、ワインに漬けて柔らかくしておくのはデーツの果実部分だけで、それ以外はすりつぶして加える、と解釈しました。
レシピの分量がすさまじいのは置いておいて、とりあえず必要な素材は下記です。
必要な材料
ワイン
蜂蜜
胡椒
マスティックの樹脂
甘松香
サフラン
デーツ
次はこれらを探す旅に出ませう。
まずは材料探しだ!
ワイン
当時のワインなど手に入るわけもないので、当時使っていそうなワインをチョイス。古代ローマは「優れたワインは白の甘口」とされていたので、「白ワイン」で「甘口」そしてこの時代は酸化防止剤はないだろう(たぶん)から、酸化防止剤無添加のワインだろう、と推測。
本来ならイタリアのワインをチョイスすべきですが、酸化防止剤無添加で、金額的にもお手頃なのは日本ワイン。ということで、日本のやや甘口ワインの代表格ともいえるナイヤガラをチョイス。
蜂蜜
この時代は、タイムの蜂蜜が最も上質なものとされていたそうです。そして、おそらくほとんどが非加熱だったんじゃないかと推測します。
しかし、タイムの蜂蜜も非加熱蜂蜜も高い!というわけで、恐縮ですが中国産の蜂蜜を使いました。
胡椒
この時代の胡椒が白コショウか黒コショウか判別がつかなかったので、恐縮ですが、常備しているカルディのレインボーペッパーを使用。
マスティックの樹脂
ネットに上がっているレシピのほとんどはフェンネルで代用されていたのですが、マスティックの樹脂なんて手に入るわけねーだろ、と思いつつダメ元で検索したら見つかった。日本ヤバいな。
今回は下記を使用しています。
甘松香(の若い茎)
今回一番苦労したのがこれ。ネットに載っているレシピでは、ほぼローリエで代用されているが(「月桂樹の葉」と訳されているレシピもあるため)、『古代ローマの料理書』では、「これは甘松香で絶対にローリエじゃねえ」と言っているのでネットの海を捜索した。
しかし、「甘松香」で検索すればお香が、別名の「スパイクナード」「ナルド」で検索すれば精油・香油しか出ず。のたうち回っていたところ、貴重な記事を発見する。
「甘松香」は(中略)オミナエシ科の植物です。(中略)根茎にはオミナエシ科特有の香りがあり、(中略)ローマ時代には軟膏として利用されていたり、エジプトでも古代の副葬品に含まれていたようです。(中略)甘松香の類似生薬としてヨーロッパのワレリアナ根(Valeriana officinalis)があります。甘松香と同様の香気があり、薬効的にも類似した鎮静作用があり(中略)ます。
ワレリアナ根とはバレリアン(セイヨウカノコソウ)のことを指しているらしい。ネットでさっそく検索するとちょうどいい商品を発見。本当は根じゃなくて茎を使うんだけど、代替品を見つけられただけ良しとしてください。
サフラン
サフランはとにかく高いので一番安いものを購入。
このサフランが0.1グラムなため、このサフランの量をベースにレシピの量を調整。
デーツ
デーツは品種を選ぶ気力がなかったので、手に入りやすいものの中からチョイス。今回買ったのは成城石井のデーツ。レシピで種を使うため、種ありのデーツが必要です。
材料をもとに、レシピを調整
調整箇所
「サフラン0.1グラム」をベースに比率を維持した状態で分量を減らす。
元のレシピでは「最初に蜂蜜と混ぜて煮立てるワイン」と、「最後に加えるワイン」が違うような記述になっているが、今回は同じワインを使用。
甘松香(スパイクナード)の若い茎は、バレリアン(セイヨウカノコソウ)の根で代用。
木炭の役目はおそらく「濾過材」なので、代わりにコーヒーフィルターを使います。
「香辛料はふるいにかけて加える」とありますが、最後にコーヒーフィルターを使用するので、ふるいにはかけずそのままぶち込みます。
レシピ分量
ChatGPTさんに計算してもらった結果、
蜂蜜と混ぜて加熱する用のワイン: 約24.7ml
最後にブレンドするワイン: 約222.6ml
蜂蜜: 約112g
胡椒: 約2.5g
マスティック: 約0.08g
バレリアン: 約0.1g
サフラン: 約0.1g
ナツメヤシ: 約0.11個
となりました。ナツメヤシ0.11個の計量がめちゃくちゃムズそうだが、ナツメヤシ1個で計算すると3リットル分くらい出来上がる想定だったので、そんなの飲み切れねぇ!と思い諦めました。
この分量でも一人では飲み切れない可能性が非常に高いので、ひとりで消費する場合は、適宜減らしてください。
『作成編』で改めて説明しますが、完成したConditum Paradoxumをすぐ飲まずに保管すると酒税法違反となりますので、ご注意ください。
調理の過程は、『作成編』をご覧ください。
いいなと思ったら応援しよう!
役に立ったらサポートしていただけるととってもうれしいです。