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【VOL.41】63.5%が「老老介護」の衝撃|家族が共倒れする3つのリスクと  「介護する人を守る家」のつくり方

日本はすでに高齢化率が約3割に達し、今後も上昇していくと予測されています。

(総務省「統計からみた我が国の高齢者」2025年)

在宅で介護を受けている人は約436万人、そのうち約7割は家族が主な介護者であり、いわゆる「老老介護」の割合は63.5%に達しているとされています。

(note.com/deathstrategist, 2025年)
(厚生労働省「国民生活基礎調査」2022年)

要介護認定者数もこの19年で約3倍の710万人まで増加し(厚生労働省「介護保険事業状況報告」2024年)、在宅介護はもはや一部の家庭だけの問題ではなく、多くの人にとって現実味を帯びたテーマになっています。

こうした状況のなかで、これからの家づくりやリフォームには「介護される人だけではなく、介護する人をどう守るか」という視点が欠かせないと考えています。

本稿では、公的データを整理しながら、

  • 在宅介護の現状と2040年の予測

  • 介護する人に降りかかる3つの「崩壊リスク」

  • 共倒れを防ぐための具体的な間取り・環境づくり

を、専門家としてできるだけわかりやすく整理していきます。


本論1:データで見る「在宅介護の現在地」と2040年の景色

1-1 要介護者の増加と「老老介護」の現実

介護保険制度がスタートしてから20年あまりの間に、要介護認定者数は約3倍の710万人まで増加しました。

(厚生労働省「介護保険事業状況報告」2024年)

高齢者人口自体も増え続けており、高齢化率は今後さらに上昇する見込みです。

(内閣府「高齢社会をめぐる現下の情勢」2024年)

要介護者が増えれば、その分だけ介護を担う人も増えます。

主な介護者が家族であるケースは約7割、そのうち配偶者同士など高齢者同士で介護を行う「老老介護」は63.5%に達しているとされています。

(厚生労働省「国民生活基礎調査」2022年)

つまり、「自分も高齢で体力が落ちているのに、パートナーの介護も担う」という状況が、特別ではなく一般的になりつつあります。

この構図は、家族の思いやりだけでは支えきれない負担を生むリスクが高いと言えます。

だからこそ、元気なうちから「自宅のつくり方」で先回りしておくことが重要だと考えられます。

1-2 なぜ「自宅で診る」流れが強まっているのか

もう一つ押さえておきたいのが、施設側の受け皿の限界です。特別養護老人ホームでは、要介護3以上の入所待機者が約25.3万人にのぼるというデータがあります。

(明治安田生命「数字で知る介護の実態」2023年)

誰もが「いざとなったら施設に入れる」と考えていると、現実とのギャップに直面する可能性があります。

さらに、2040年には高齢者人口が約3,921万人、総人口の35%前後に達するという予測もあります。

(内閣府「高齢社会をめぐる現下の情勢」2024年)

高齢者がピークを迎える一方で、現役世代は減っていくため、介護や医療のマンパワー不足が深刻化する可能性が高いと考えられます。

こうした背景から、国の方向性も「施設から在宅へ」「病院から地域へ」という流れが強まっています。

(厚生労働省「介護分野の最近の動向について」2023年)

つまり、「できるだけ自宅で暮らし続ける」という前提で、今の家をどう整えておくかが、これからの家づくりの重要なテーマになっていると言えます。

1-3 単身世帯・小家族化が進むなかで

在宅介護が増えるもう一つの理由は、家族の形の変化です。

2040年には65歳以上の一人暮らしが約896万人に増えると予測されています。

(内閣府「高齢社会をめぐる現下の情勢」2024年)

子どもが独立して遠方で暮らしていたり、そもそも子どものいない世帯も増えています。

昔のように「三世代同居で、家族全員で介護を分担する」形は、すべての家庭に期待できる前提ではありません。

親を呼び寄せるにしても、転居先の住宅が介護に対応していなければ、結局どこかで無理が生じます。

このように、在宅介護の増加は「制度」「人口構造」「家族構成」のすべてが重なった結果として起きている現象と考えられます。

1-4 2040年の「自宅で最期を迎える」人たち

将来予測では、2040年に自宅で最期を迎える高齢者が現在の約2倍、35万人程度に増えるという試算もあります。

(日本総研「訪問介護事業所の現状と課題」2024年)

病院のベッド数や人員には限りがあるため、「病院で最期を迎える」こと自体が一般的ではなくなる可能性も指摘されています。

言い換えると、「病院に入れなかったから仕方なく自宅で」という受け身の選択ではなく、「どうしたら自宅で安心して最期まで暮らせるか」を前向きに考える時代に入っているとも言えます。

そのときに問われるのは、「介護される人が安心かどうか」と同じくらい、「介護する人の体と心が守られているかどうか」です。


本論2:「介護する人」に降りかかる3つの崩壊リスク

2-1 身体的な崩壊リスク──腰と膝を守れる間取りか

在宅介護で大変なことの第1位は「身体的負担」という調査結果があります(みんなの介護「在宅介護で大変なことランキング」2024年)。

特に大きいのが、トイレ介助・入浴介助・移乗(ベッドから車いすへの移動など)です。

廊下が狭く、段差が多い家では、介護される人だけでなく、介護する人の腰・膝への負担も増えやすくなります。

例えば、寝室からトイレまでが10〜15メートル離れていて、その移動を1日10回付き添うと、1日で100〜150メートル、1か月で3〜4.5キロメートル、1年では40〜50キロメートル近くになる計算です。

  • 寝室とトイレ・洗面をできるだけ近接させる

  • 介助スペースを確保できる廊下幅(目安90cm以上

  • 段差を極力なくし、手すりを計画的に配置する

といった設計が、介護者の身体的負担を抑えるうえで重要だと考えています。


2-2 精神的な崩壊リスク──音・匂い・睡眠不足

介護負担感は、身体的な疲れだけでなく、環境や経済状況にも左右されるという分析があります。

(家計経済研究所「在宅要介護者の主介護者における介護負担感と経済生活」2024年)

特に在宅介護では、

  • 夜間のトイレや徘徊による物音

  • うめき声や寝言

  • 排泄やオムツ交換の匂い

などが、介護者の睡眠やメンタルに影響することがあります。

壁が薄く、寝室同士が近すぎる間取りでは、介護者が慢性的な睡眠不足に陥るリスクが高まります。

匂いが広がりやすい配置だと、家族全員が「逃げ場がない」と感じてしまうかもしれません。

  • 介護する人の「自分の寝室」をしっかり確保すること

  • 防音性の高い建具や壁を、必要な箇所にピンポイントで導入すること

  • トイレや介護スペースに局所換気を設け、匂いをこもらせないこと

などが、精神的な負担を和らげる一助になると考えています。


2-3 経済的な崩壊リスク──介護離職と「二重の負担」

在宅介護は、時間的・身体的負担だけでなく、経済的な影響も無視できません。

要介護者と同居していることが、50〜64歳の就業者の離職率に影響しているという研究もあります。

(慶應義塾大学「在宅介護が離職に与える影響についての分析」2024年)

離職すると、

  • 収入減少

  • 将来の年金額の減少

  • 介護費用・医療費・光熱費などの増加

が同時に押し寄せる可能性があります。

さらに、介護のために急いで住宅をバリアフリー改修した結果、「短期的な出費」と「長期的な生活費負担」が二重で重くなるケースもあります。

こうしたリスクを抑えるには、

  • 「突然の介護」に備えた事前の間取り計画

  • 補助金・保険・公的サービスの情報収集

  • 無理をしない範囲での外部サービス利用

などを組み合わせていくことが重要だと考えられます。

本論3:現行制度と「家の性能」のギャップ

3-1 介護保険リフォームの限界

介護保険には、住宅改修費として上限20万円(自己負担1〜3割)の仕組みがありますが、この枠でできるのは

  • 手すりの設置

  • 段差解消

  • 滑りにくい床材への変更

など、比較的小規模な工事に限られることが多いです。

(厚生労働省「介護分野の最近の動向について」2023年)

これらはもちろん重要ですが、「動線そのものを短くする」「部屋の配置を変える」といった大きな設計変更まではカバーしきれません。

その結果、「手すりは付いたけれど、介護者の移動距離はほとんど変わらない」というケースも考えられます。

補助制度は頼りになる一方で、「制度があるから大丈夫」と考えすぎると、本当に必要な改修が後回しになる可能性があります。

3-2 既存住宅ストックのスペック不足

多くの既存住宅は、そもそも在宅介護や看取りを前提に設計されていません。

例えば、

  • 廊下幅が狭く、車いすや介助者が同時に通りにくい

  • トイレや浴室が寒く、ヒートショックのリスクが高い

  • ヘルパーや訪問看護師のための駐車スペース・手洗い場がない

といったケースです。

(国土交通省「在宅サービスに対応した住宅を考えるヒント(案)」2024年)

こうした「小さな不便」が積み重なると、介護される人だけでなく、介護する人の負担も増えやすくなります。

断熱性能や気密性能が低い住宅では、冬場に体が冷えやすく、介護者自身の健康リスクも高まる可能性があります。

3-3 制度改正の方向性と「自己防衛」の必要性

介護保険制度は、2025年前後に向けて自己負担の見直しや保険料の増額などが議論されています。

(厚生労働省「介護保険制度改正関連資料」2025年)

低所得者への配慮や新たな加算も検討されていますが、全体としては「公的制度だけに頼るのは難しい」という方向性が強まっていると考えられます。

つまり、制度は大きな枠組みとして支えてくれる一方で、最終的に「自分の家」をどうするかは、個々の家庭が主体的に考える必要があるということです。

本論4:専門家が提案する「介護する人を守る家」の具体策

4-1 「10秒動線」をつくる──寝室・トイレ・浴室の近接

在宅介護を前提とした住宅計画では、「寝室・トイレ・洗面・浴室」をできるだけコンパクトにまとめることが有効とされています。

(国土交通省「在宅サービスに対応した住宅を考えるヒント(案)」2024年)

専門家としては、次のようなイメージを目安にしています。

  • 寝室のドアからトイレのドアまで、10歩以内(約5メートル程度)

  • 寝室から洗面・浴室へも、できるだけ直線的な動線

  • 夜間でも迷わず移動できるシンプルなルート

1回の付き添い移動が数メートル短くなるだけでも、年間トータルでは大きな差になります。

「1日10回 × 5メートル短縮 × 365日 ≒ 18キロメートル」という試算は、動線を短くする重要性をわかりやすく示していると言えます。


4-2 「裏動線」でプライバシーと訪問ケアを両立

訪問介護や訪問看護を利用する場合、介護スタッフが頻繁に出入りするようになります。

このとき、家族がくつろぐリビングを毎回通る動線しかないと、介護される人も介護する人も、どこか落ち着かない気持ちになるかもしれません。

そこで有効なのが、「裏動線」の考え方です。

  • 玄関から介護室・寝室へ、できるだけ短い直線動線を用意する

  • 場合によってはサブ玄関や勝手口を活用する

  • 介護スタッフ用のコート掛けや荷物置き場を、玄関近くに確保する

こうした工夫により、家族のプライバシーを守りつつ、訪問ケアを受けやすい環境が整えやすくなります。

介護者の「対応の手間」も減り、負担軽減につながると考えられます。

4-3 音・匂い・温度──見えないストレスを下げる設計

介護のストレス要因として見落とされがちなのが、「音・匂い・温度」です。

  • 排泄ケアの匂いが、家全体に広がらないよう局所換気を計画

  • 夜間の音漏れを減らすため、防音性の高いドアや壁を要所に採用

  • ヒートショックを防ぐため、脱衣所やトイレも含めた断熱・暖房計画

などを行うことで、介護される人だけでなく、介護する人のストレスを減らせる可能性があります。

全館空調や高断熱化は初期コストがかかりますが、介護期間中の光熱費や健康リスクの低減を考えると、長期的には合理的な選択となる場合もあります。

(国立長寿医療研究センター「在宅ケア推進に関する研究事業」2024年)

4-4 「介護が終わった後」も見据えた可変性

在宅介護は、数年〜十数年続く場合もあれば、数ヶ月で終わる場合もあります。

だからこそ、「介護が終わった後、そのスペースをどう使うか」という視点も大切です。

例えば、

  • 介護用の個室を、将来は趣味室やワークスペースに転用できるようにしておく

  • 介護ベッドを置いていたスペースが、そのまま大容量収納に変わるよう計画しておく

  • 間仕切り壁を可動式にしておき、家族構成の変化に対応できるようにする

といった工夫により、住宅全体の資産価値を保ちやすくなります。

専門家としては、「介護のためだけの間取り」ではなく、「介護にも対応できる柔軟な間取り」を目指すことが、長期的な視点で見て大切だと考えています。

本論5:「お金」と「家族会議」の視点から考える

5-1 施設入居費と在宅リノベ費を比較する発想

在宅介護・看取りを前提にしたリフォームは、一時的にはまとまった費用が必要になる場合があります。

しかし、長期的に見れば、施設入居費との比較で合理的になるケースも考えられます。

例えば、

  • 介護用リフォーム費用:数百万円規模

  • 介護付き施設入居費:入居一時金+月額費用で、10年単位では数千万円規模になる可能性

といったイメージです。

(国立社会保障・人口問題研究所「在宅要介護高齢者の介護費用と家族介護の同時決定モデル」2024年)

もちろん、どちらが良いかは家庭によって異なりますが、「在宅対応リフォーム」も一つの選択肢として冷静に比較する価値があると考えられます。

5-2 家族会議で話しておきたい3つのテーマ

在宅介護や看取りについては、当事者が元気なうちに家族で話し合っておくことが重要です。

家族会議のテーマとしては、

  1. どこで暮らし、どこで最期を迎えたいか

  2. 介護する人の人生や仕事をどう守るか

  3. そのために家やお金をどう準備するか

の3点が挙げられます。

ここに住宅の専門家が加わることで、「介護する人の動線をどう短くするか」「どの補助金や制度が使えそうか」など、具体的な選択肢が見えてきやすくなります。

5-3 「愛のある距離感」をつくるのが家の役割

介護は、どうしても「がんばりすぎ」と「罪悪感」がつきまといやすいテーマです。

しかし、自己犠牲を続けると、介護する人も介護される人も、どこかで苦しくなってしまいます。

物理的な距離(部屋の配置・音や匂いのコントロール・動線計画)は、家族の心の距離とも関係してきます。

適度な距離があることで、お互いに優しくいられる時間が増える可能性があります。

家は、家族全員の尊厳を守るための装置です。

「介護する人を守る家」を意識した間取りやリフォームは、その装置を少しでも働かせやすくするための工夫だと言えるのではないでしょうか。


結論

本稿では、

  • 在宅介護や老老介護が増え続けている現状

  • 介護する人に降りかかる「身体・精神・経済」の3つの崩壊リスク

  • それらを軽減するための、具体的な間取り・環境づくりの方向性

を、公的データと制度の動向を踏まえて整理しました。

あなたに今日からできることとしては、

  • 今の住まいの「危険な動線」や「ストレス源(音・匂い・温度)」を書き出してみる

  • 介護保険リフォームや補助金に頼りすぎず、長期的な視点で必要な改修を検討する

  • 家族と「どこで暮らし、どう支え合いたいか」を話すきっかけをつくる

といったステップが挙げられます。

在宅介護や看取りは、決して楽なテーマではありません。

しかし、準備を重ねることで、「不安だけの時間」から「安心して向き合える時間」に変えていける可能性があります。

専門家として、本稿が「介護する人も守られる家づくり」を考える手がかりになればうれしく思います。

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