【企画短編#noteでBL】初雪
毎月恒例、BL祭りに今回も参加いたします。
なみさん、いつもありがとうございます!!
なぜか先に12月お題の激重不穏耽美を書いてしまい、そっちがほんとに不穏すぎたので(当社比)、ギャップ萌え狙いでアオハルBLだ!! と書き始めた今作。
だってお題が初雪で一目惚れでルマンドでシングルベッドですよ??
キラッキラでピュアピュアでラブラブなむずキュンアオハルだ!!
広瀬香美でぜんぶ雪のせいだ!!
って思ってたんですよ(※過去形注意)
結局どうなったんでしょうか、自分。
というわけで、初雪リベンジルマンド、よろしくお願いいたします(o゚▽゚)
※※BL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください※※
【テーマ】3つのお題でBL(3,000~5,000字)
【お題】 初雪と一目惚れ・シングルベッドの組立推奨人数が2人だった
・ルマンド
【タイトル】初雪(スペース除き約4,900字)
シングルベッドの組立推奨人数が2人だったから。
「ならベッド組み立てる時に呼べよ!」
叫ぶと、槇はポカンと瞬きをした。
「え……なんで?」
「はぁ? だって2名で組み立てるものだったんだろ?」
「でも『推奨』だし。マストじゃないならイケるかなって」
ポジティブの方向音痴か。
「で、イケると思ってひとりで組み立てた結果?」
「疲れてお腹が空きました」
「違うだろ、疲れて外に出られない、って俺に夕飯の材料買いに行かせてんだろ?!」
急に「助けて、食べるものがない。外に出られない」と言われた身にもなってほしい。病気かと思えば「鍋がいい。おやつもほしい。今日泊まる?」と続いて、心配は秒で苛立ちに変わった。
どう考えても頼るところがおかしい。
「……ごめん、滝」
憤懣遣る方ない俺に、槇は眉を下げて言う。その表情にぐ、と喉が詰まった。
「…………いいけどっ」
自分でもわかっている。俺は明らかに、槇に甘い。
「怒ってる?」
「だからいいって。キッチン借りる、おまえは座ってろ」
「えへへ、ありがとう」
本当に、こいつは。
槇はサークルの同期だ。春、新歓のイベントで出会った。
何がきっかけで仲良くなったかは覚えていない。最初から、なんだかとても自然だった。……たぶん、それだけ。
「なんでベッド買ったの?」
鍋をつつきながら訊くと、槇は「寒いから」と言う。
「さすがに床も限界かな、って」
「寒さ以前に限界感なかったのか。身体が痛いとか」
「………特には………?」
「うそだろ、半年以上寝袋で?」
殺風景な部屋。掃除が面倒だからと言って、今日まではベッドどころか布団もなかった。
「あ、おまえ用にマットレスも買った」
「は?」
「泊まってく時、床は寒いじゃん。ベッドにふたりは無理だし」
「ええ……ありが、とう?」
「なんで嫌そう?!」
「いや、嬉しいけど今までみたいにそのまま寝そうだなと思って。このラグ気持ちいいし」
「あーーいいよなこれ、大正解」
槇はご機嫌でラグを撫でる。やわらかくて猫の毛みたいだ。ローテーブル周り、最低限の大きさなところが槇らしい。
嬉しそうなその顔がおかしくて、つい笑ってしまった。
「なんだよ」
「いや、冬眠の準備みたいで」
殺風景な部屋をいそいそと整える槇。ラグ、ベッド、分厚い布団。落ち葉を敷き詰めるリスを想像してしまう。
「ええ……寒いのは嫌じゃん」
不満そうな、寒がりの槇。
「なぁ、初雪っていつ頃?」
「えーーいつだろ。2月とか? いや、降るだけならもうちょい早いか。1月の終わり頃……?」
「ええ……遅すぎだろ……」
「は?」
鍋を片付けたローテーブルに菓子を広げて、グダグダと過ごす。槇は俺の答えに予想外のショックを受けて、持っていたルマンドをくしゃりと潰した。
なんてことを。
「全然ホワイトクリスマスじゃないじゃん……」
「なんて?」
「クリスマスっつったら雪だろ? 絵本とかドラマとか全部そうじゃん」
「ええ……ピュアかよ……」
ここは冬より春先のほうが降りやすいと言うと、目に見えてしょんぼりする。
嘘だろ。
「え、そんなに?」
「見たかった、雪降るとこ」
「いや見れはすんじゃね? 2月とか3月に」
「冬が良かった」
「なんでだよ……」
何そのこだわり、と呟いた俺に、槇は少しだけ悔しそうに、眉を寄せて言った。
「見たいんだ。教科書に載ってるとおりの、四季」
槇の出身地は雪が降らない。
常夏と言われるほど年中半袖で過ごせるわけではないけれど、桜も、梅雨も、紅葉も、いわゆる教科書の四季とは違う、らしい。
出会ったばかりの頃、槇は満面の笑みで、上京して初めて桜吹雪を見たと言った。
「地元の桜は散らないんだ。咲くのも2月だし。だから卒入学式に桜があるって、初めて」
その顔があんまり嬉しそうで驚いた。俺にとって桜と春は不可分で、かつそれ以上ではなかったから。
風が降らせる花吹雪のなか、小さく聞こえた槇の声。
ほんとなんだ。
本当に、こうやって降るんだ。
「……なるほど。2月もまぁ、一般的には冬だけど」
「でもっ」
「わかったわかった、遅いよな。クリスマスも正月も終わってるもんな?」
たぶん槇は、冬の定番イベントに雪があってほしいのだ。
冬眠前のリスのような槇。部屋を暖かく整えながら雪を楽しみにしていたのかと思うと、なんだかむず痒いような気分になる。
「寒がりのくせに」
「関係ないだろ、コート着るし」
「あ、念の為言っとくけど、あのコートはまだ早いぞ。それこそ雪降るくらいの時に着るやつだからな。今着てたらめっちゃ目立つ」
「え」
「……やっぱり着る気だったか……」
俺の指摘にぎゅっと眉を寄せて、槇はピッとルマンドの包装を開けた。取り出す時に割れたかけらが、パラパラとテーブルにこぼれる。
しかめっ面のままテーブルを拭くのがおかしい。掃除は面倒がるのに、槇はかなり几帳面だ。
「美味しいけど食べ辛い」
「まぁなー」
「次からは別のにしようかな」
「ええ……味より食べやすさ?」
「掃除嫌い」
そんなところも槇らしい、ような気がして、俺はまた少しだけ笑った。
******
「大みそかって予定ある?」
「いや?」
「じゃあ俺んちで鍋しない?」
「え。帰省しないのか」
「……うん」
冬用コートも当たり前になった頃。普段の週末と同じテンションで言われて、俺は少し戸惑った。
上京して初めての正月、親は久しぶりに顔を見たいんじゃないか。そういえば、槇はお盆にも帰らなかった。
帰省したことがあるんだろうか。
「……来れる?」
そんなことを考える俺に、槇は淡く微笑んだ。その表情に、少しだけ息が詰まる。
帰らなくていいんだろうか。
年が明けたら。
……正月は、どう過ごすんだろう。
いろんなことが気になったけれど、俺はただ、行くとだけ答えた。
大みそか。
駅で待ち合わせてスーパーに入った。槇は鍋の材料以外にも、ウロウロといろんなものを見たがる。
「正月の間は外に出ない気か?」
「だって寒いじゃん……」
寒がりの槇が、暖かいだろう地元に帰らないこと。
明日からの俺の予定を訊かないこと。
そんなことが、本当はとても気になる。
「だて巻きは?」
「だてまき……食べたことない」
「まじか。甘いよ」
「甘い卵焼きとも違うのか?」
「なんかすり身とか入ってる気がする、卵だけじゃなくて」
「ふぅん……」
正月品コーナーでだて巻きやら栗きんとんやらを手にした槇は、「おやつ」と言って菓子コーナーに向かった。
「買いすぎ。お菓子で過ごそうとするのやめろ」
「いいじゃん正月くらい」
冬支度の済んだ部屋で、ぬくぬくと菓子を食べて過ごす槇。絵本のなかの、暖かな部屋で外の吹雪を眺めて過ごすリスのような。
でもああいうのは、ひとりじゃないんじゃないか。家族とか、友人とか。そんな誰かと、一緒に描かれているものじゃないか?
槇はひとりがいいんだろうか。
……ひとり、なんだろうか。
「アイスも買お」
何にする?と訊いてくる声は、いつもどおりに明るい。
年越しとは言え、食べたら特にすることもない。テーブルに菓子を広げて、テレビを流しながら好きに過ごす。
いつもどおりの、ふたりの時間。
「……さむ」
不意に槇が肩を震わせた。
もうすぐ、年が変わる。
「こたつにすればいいのに」
「絶対掃除できないから嫌だ」
「寒がりのくせに」
笑うとむっとしたように眉を寄せて、でも何も言わずにテーブルに突っ伏す。カサカサと菓子の包装にさわる音がする。
なめらかなラグにうつ伏せて、俺は槇が立てる物音に耳を傾ける。時々、手元の雑誌をめくりながら。
俺が立てるそんな音を、槇も聞いているのかなと思いながら。
「……さむい。床、つめたい」
「靴下かスリッパ履けよ」
「……どっちも嫌い」
履く必要がなかったんだろうか。地元では。常夏と言うほどではないにしろ、ここよりははるかに暖かいだろう、槇の実家では。
そう思っていると、不意にラグを通して冷気が伝わってきた。
「……確かに冷えるな」
起き上がった俺に、槇はほらなと得意そうに笑う。その顔を腹立たしく見ながら、もしかして、と思った。
「槇。ちょっと外見て」
「なんで」
「……いいから」
眉を寄せて、槇は億劫そうに窓に近寄る。さむ、と小さく呟きながら。
ぴったりと閉じられたカーテンを少しだけ開いて、上目遣いに外を見る。パチパチと音がしそうな瞬き。唇が薄く開く。え、と吐息のような声。
「……滝」
「うん?」
振り返らない背中に、俺は小さく返事をする。槇の時間を壊さないように。
「滝」
「うん」
槇とは同い年だ。背格好も大して変わらない。なのに、その背中はとても小さく見えた。
まるで子どもみたいに。
カーテンを握りしめたまま、槇は呟くように言った。
「……雪だ」
「ふつうは降ってたら出ないんだよ」
「なんで? もったいない!」
我に返った槇は外で見たいと騒ぎ始めた。抵抗しても聞くわけがない。仕方なく、完全防備で外に出る。
「さっっっむ!!」
マフラーに顔を半分隠して、槇は嬉しそうに笑う。
手を空に向けて、「つかまらない」とまた笑う。
「手袋しろよ」
「嫌いなんだ」
だろうな、と心のなかで呟いて、はしゃぐ槇とコンビニに向かう。空ばかり見ていて転ばないかとヒヤヒヤする。
それは、いくらなんでも過保護だろうか。
途中の小さな駐車場前で、槇が不意に立ち止まった。初雪にしては勢いのある降りで、駐車場はうっすらと白く覆われている。
「……積もるかな」
「どうだろ」
「あれやってみたい。雪の妖精」
「やめとけ、ケガするぞ」
「えーー」
槇は空に視線を移す。つられて見上げた夜空は厚い雲に覆われて、高いようにも低いようにも見えた。自分がどこにいるかわからなくなる。
顔に、髪に、はらはらと雪が降る。振り払えば濡れないような、細かい雪。
しんと響く冷気のせいだろうか。空に吸い込まれそうな感覚に、不意にふわりと言葉がこぼれた。
「……なんで、四季が見たかったの」
槇は空を見上げたまま動かない。聞こえていないようなその態度に、それでもいいかなと思う。
聞こえていなくても。答えたくなくても。
ただふたり、この冬初めての雪を見上げている。それだけで。
「……冬は寒いって聞いてたんだ」
槇がぽつりと呟く。俺は空を見上げたまま、うんと頷く。
「雪は多くないけど、冬はすごく寒い。春になったら桜が咲いて、花びらが雪みたいに散るって。……教科書とか絵本とかテレビとか。そういうのと同じだって。……同じものが、あるところだ、って」
同じように見られるって。
だから。
「……見たかったんだ」
そう呟いて、槇の声は途切れた。なのに言葉が続いたような気がして、空から槇に目を移してしまった。
聞き返したかったのかもしれない。
でもそんなこと、槇の横顔を見たら全部消えてしまった。
空を見上げているその顔に、この冬初めての雪が降る。髪の雪を払いもせず、赤くなった指を握りしめて、槇は黙って空を見ている。その顔から、目が離せない。
地面が消えたような気がして、すとん、と何かが心に落ちた。
「………さむ」
槇が小さく笑ってこちらを向く。滲んでいるように見える瞳を細めて、顔を半分マフラーに埋めて、手をポケットに入れて。行こう、と静かに槇が言う。
先に歩き出したその背中は、もう子どものようには見えない。ただ少しだけ遠い気がして、俺はぼんやりと戸惑う。
ベッドの組立はひとりでやるくせに、夕飯の材料は買って来いと言う槇。
大みそかには誘うくせに、正月の予定は訊かない槇。
寒がりなくせに防寒具は嫌いな槇。
……たぶん、一度も帰省していない槇。
いろんなことが気になるのに、何も訊けない。
「滝」
振り返って槇が呼ぶ。
寒いよ、早く。声と雪が風に舞う。
ああ失敗したな、と思う。
顔を見ちゃいけなかった。
空を見たままじゃなきゃいけなかった。
もう、訊けない。
心に落ちた何かが、溶けない雪のように冷たく沈んでいる。それを感じながら、俺は二度と聞き返せない槇の言葉を思い出す。
確かに聞こえたような、俺の想像でしかないような、小さな小さな呟き。
見たかったんだ。………一緒に。
**************************************************************************************
一目惚れです。
一目で恋に落ちたら、それは一目惚れです。
対象者と初対面かは……私のなかでは無関係なんです……!
ということで、お題は消化していることにしていただければと。
ベッドも。組み立て描写ないけど。
槇がどうやって組み立てたかわからないけど。
ルマンドはしっかりばっちり食べましたよ!
ひとりだけ食べさせなかったファーストルマンドはこちら↓
5ヶ月前!!??
これまでのnoteでBL参加作はこちらから☆
