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【お題SS#片想いのロジック】質屋

(約2,000字)

「質屋のビジネスモデル、ですか」
「ええ。本来は動産担保融資だと思うのですが、昨今は中古品買取のほうが主ではないかと。鑑定眼と流通経路が重要なことは変わらないでしょうけれど、業態のリスク特性としては金融と中古品売買業、どちらが適切なのか」

 楽しそうに語る様子に、思わずため息を吐いてしまった。

「確認ですが、それは何か個社の事例を想定されていますか? もしくはポートフォリオ管理として何かお考えですか?」
「いえ?」
「つまり、これは雑談だと」
「……はい」

 はぁぁぁああ。再度大きくため息を吐いて見せたわたしに、木戸さんはパチパチと瞬きをする。
  
 ワーカホリックめ。

「既視感のある流れだと思いました。お忘れでしょうが、以前同じような会話をしたことがあります。その時は海風でした」
「海風」
「木戸さんは海に行きますか、とお尋ねしたら、海の家の塩害対策に興味を持たれました。わたしは単に夏の遊びとしてお訊きしたわけですが、塩害対策の特殊塗料がうんぬん、と。改めて考えても信じられない!」
「ああ……」

 思い出したようだ。バツが悪そうに眉を下げる。

「今も同じです。当社でも、アクセサリーを含む服装の自由化が随分進みましたね。ええ、好きなブランドを身に着けられると、喜んでいる同僚も多いです。なるほど。アクセサリーは、ご自身で買われる場合とプレゼント、どちらが多いですか? わたしは自分で買いますね。好みがありますし、プレゼントは結構難しいのでは。そんな話でした」
「はい……」
「そこから質屋のビジネスモデルに飛ぶなんて思いません。相場は贈り物の定番とか、異動時の餞別品でしょう!」

 たぶん、『好みに合わないアクセサリー』からブランド品を質に持ち込む事例を連想したんだろう。思考回路の一部が理解できるなんて、わたしも成長したものだ。
 だけど!

「飛躍するにも程があります。なんですか質屋のビジネスモデルって」

 なんて色気のない話題なんだろう。がっかりを通り越して力が抜ける。
 本当に、いつも、いつでも、この人は。

「隙あらば仕事関係に持っていくんだから」
「すみません……そんなつもりではなかったのですが……」
「いいですよ。海風の時にも申し上げましたが、雑談にどう返されようが木戸さんの自由です。わたしが対応できるかは別問題ですが。質屋のビジネスモデルと業態リスクを気にしたことはありませんが!」
「はい……」

 しょんぼりした顔に胸がむずむずする。
 ズルい。なんだその表情は。

 だって色気がなさすぎる。質屋のビジネスモデルだなんて。

 好きな人とする会話じゃない。
 恋に発展するような会話じゃない。
 どうせならもっと。
 他に、もっと、いくらでも。どうしてもそう思ってしまう。

 ……それでも。

「それで、木戸さんはどちらの業態リスクにより近しいとお考えですか」
「え」
「質屋。気になってらっしゃるんでしょう?」

 見開かれた瞳が揺れる。音が聞こえそうな瞬き。

「……個人的には、気になりますが……間宮さんは興味がないでしょう。別の話に、」
「しなくていいです。どうせまた飛んじゃうでしょうし。それに」

 リスク特性としてどちらが適切か、と言った時の、キラキラした瞳。
 それを考えること自体が楽しい、という瞳。

 まったくもって色気のない、個人的な関係が発展するとは思えない会話だけれど。

「……木戸さんがご興味あることなら、わたしも考えてみたいですから」
「え?」

 少し高いその声に、むずむずしていた胸が、頰が、カッと熱くなった。

「か、……壁打ち相手がいたほうが、お考えもまとまるのでは。わたしで良ければ、お付き合いします」

 慌てて付け加える。自分の声をかき消しそうな、心臓の音。

 踏み込みすぎてしまっただろうか。
 海風の時みたいに、素直に話題を変えてもらうべきだっただろうか。

 指が痺れる気がして、キーボードに置いた手を軽く握る。喉が渇く。
 それでも。

 鼓動に被さるように、心のなかで声が響く。それでも、と。

 それでも、同じものを見たい。

  楽しいですね。
  また一緒に、同じものを目指すのは。

 あの時、この人はそう言ってくれたから。


 わたしも、今度は少しだけ、進んでみたい。 


「嬉しいです」

 ふわりと空気が軽くなった気がして顔を上げる。キラキラする瞳がやわらかく溶けて、真っ直ぐにわたしを映している。

 あ、まずい。そんなことをぼんやり思う。
 そんな表情は、ちょっと、さすがに……

「でも私も、間宮さんとなら何を話しても楽しいです。興味があることでも、そうじゃなくても」
「……え、」

 心臓の音がうるさい。
 嬉しいような、怖いような。
 続きを聞きたいような、……耳を、塞ぎたいような。


「いろんなことを話したい。……間宮さんのことも知りたい。そう、思っています」


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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
長曾我部さん、素敵なお題をありがとうございました!!

香山さん「そもそも、なんでアクセサリーの話になったんだろうね?」

ねぇ、間宮さん??

懐かしの海風回↓
ふたりの距離に変化はあるや。

そういえば、「知りたい」についてなんか言ってる人もいたな。


前回のこの人たち↓

これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)

note版はこちら↓
※他の企画参加作もあります


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