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#7「やりきった!」''りくりゅう''が引退を決意するまで_ミラノ五輪の舞台裏


フィギュアスケートのペア競技で、日本人初の五輪金メダルを掴んだ「りくりゅう」こと三浦璃来選手と木原龍一選手。

2026年4月、2人は突然それぞれのSNS上で現役引退を発表しました。

皇居内で行われる春の園遊会へ招かれていた「りくりゅう」。
天皇皇后両陛下や、皇族方とお会いする直前の発表でした。

「両陛下の前で、自分たちの今後のことを申し上げたかったので、このタイミングになった」とのこと。
『2人の誠実さと人柄がよく出ているタイミングの発表だな』と私は感嘆しました。

ミラノ・コルティナ冬季オリンピックで日本ペア史上初の金メダル、という最高の結末での幕引き。
多くのファンは引退を聞き、惜しみながらも「最高の終わり方だった」と祝福の言葉を贈りました。

でも実は—。

2人の心の中では、あの華々しいオリンピックの舞台の裏側で、誰にも見えない葛藤と迷いが静かに渦巻いていたのです。

今回は、りくりゅうが引退を決意するまでの心の葛藤と、恩師・ブルーノ・マルコットコーチとの愛に満ちた現地でのやり取りをご紹介します。

シーズン開幕から、三浦選手の心にあった「引退の予感」

実は、三浦選手自身はミラノ五輪シーズンの開幕当初から、こんな気持ちを抱えながら滑っていたそうです。
「今シーズンの初めから、引退するかもしれないという気持ちを持ちながら滑っていた」と正直な気持ちを話してくれました。

フィギュアスケートで世界の頂点に立ち続けるということは、想像を絶するプレッシャーとの戦いです。

それに加え、度重なるケガによる身体への負担。
また、「世界一であり続けなければならない」という、自らに課し続けた重圧との闘い。

笑顔でリンクに立つ2人の内側で、精神的なエネルギーは少しずつ、確実に削られていました。何となく嫌な「予感」は、大一番のあの1日に現実となってしまったのです。

「もう4年やるか…」— SP失敗の夜、揺れた2人の心

オリンピック個人戦のショートプログラム(SP)。
りくりゅうは、冒頭のリフトで致命的なミスが出てしまい、大きく原点されて5位発進に。

痛恨のスタートを切りました。

普段の練習でも絶対にないようなミス。
「どうして今ここで出てしまったんだろう…」と木原選手は途方に暮れて、涙が止まらず、夜も眠れませんでした。

SP演技中の会場の溜息と空気が変わるのを、2人は誰よりも感じていたはずです。 失意の夜。三浦選手は木原選手にこんな言葉を打ち明けました。
「このままでは終われない。もう4年やろうか?」

2人とも引退の予感を持ちながらも、最後にミスで終わることへの悔しさが、もう一度「続ける」という気持ちを呼び起こしたのです。

2人はその日夜遅くまで、これからのことをじっくり話し合いました。

そんな折れかけた心を救ったのが、ブルーノ・マルコットコーチの言葉でした。ブルーノコーチは、SPで起きたミスを責めるでも追い詰めるでもなく、ただ静かに力強くこう言いました。

「まだ何も終わっていない。野球も9回裏まである」
「明日、世界最高になりなさい」

木原選手はこの言葉に、
「自分は1人ではなく、たくさんの方に支えられている」と気づき、再び立ち上がる力を取り戻しました。

大逆転、そして世界歴代最高得点 — 心から「やりきった」

翌日のフリースケーティング(FS)。
りくりゅうペアは、前日とはまるで別人のように変貌していました。

冒頭のジャンプから流れるような完璧な着氷。

木原選手が天高く放つスロージャンプ
息のピッタリと合ったコレオシークエンス。

そして映画グラディエーターを彷彿とさせる、三浦選手を両手で高く持ち上げる渾身のフィニッシュ。すべてが完璧でりくりゅう史上最高のFPでした。

演技が終わった瞬間、三浦選手は木原選手の胸に飛び込み、木原選手は氷の上にうずくまって泣き崩れました。

キス&クライに戻り、フリーのスコアが表示されます。
世界歴代最高得点の「158.13点」
ここで総合1位にジャンプアップし、あとは後続の選手の演技を待つばかりです。

最終結果は 5位からの大逆転優勝!
悲願の日本ペア史上初の冬季五輪金メダルを手にしました。

持てる力をすべてを出し切り、自分たちが積み重ねてきたものを証明できた瞬間でした。演技の直後、2人は同時に心にある言葉がよぎります。

「やりきった」

今思うと、純粋な充足感こそが、2人に引退を決意させた最後のひと押しだったのです。ミラノ五輪が終わり日本へ帰国後すると、りくりゅうペアは世界選手権の欠場と引退を最終決断しました。

金メダル直後、ブルーノ・コーチが贈った言葉

五輪の演技後に、 大逆転の感動がまだ冷めやらぬ中、ブルーノ・コーチは2人をそっと抱きしめ、こう言いました。

「お互いを、そして自分たちを信じ続けることを決して止めなかった。いつかリクとリュウイチが引退する時が来ても、この瞬間のことは一生忘れないよ」

この言葉を今改めて振り返ると、コーチ自身も既に2人との"別れ"を予感していたのかもしれません。

りくりゅうの身体の限界や、背負ってきたプレッシャーの重さを誰よりも深く知っていたコーチだったからこその言葉でした。

引退を直接伝えた日、コーチの「祝福」

ミラノ五輪の興奮が落ち着いたころ、2人はカナダのブルーノ・コーチのもとを訪れ、引退の決意を直接伝えました。

ブルーノコーチは彼らを引き留めはしませんでした。
ただ、心からの祝福と労いの言葉を贈ったそうです。

ブルーノコーチは、
「本当にさまざまな感情が渦巻いているが、素晴らしい気持ちだ。彼らは夢見たことをすべて叶え、キャリアを最高の形で締めくくった。ただ、2人の特別な旅路が一区切りつくだけさ」と後にメディアへ語りました。

「一区切りつくだけ」— この言葉の温かさに、胸が熱くなりますね。

現役生活からの引退は、決して終わりではなく、次の章の始まりとして2人を送り出す。ブルーノ・コーチの深い愛情と、長年の信頼関係が滲み出た一言でした。

「オジさんと少女」から、最強ペア・世界の頂点へ

引用:東京新聞 より
https://www.tokyo-np.co.jp/article/161310

2019年にペアを結成した当初は、2人は冗談交じりに自分たちのことを「オジさんと少女」と呼んでいました。

お互い軽口を言い合えるほど、自然な関係でしたが、いつしか「この人しかいない」という絶対的な信頼に変わっていきました。
2人が目指したのは世界の頂点、そして史上初の五輪チャンピオン—

りくりゅうの長かった現役生活を、ブルーノ・コーチは家族のようにそばで見守り続けてくれました。

このペアの最高の発掘者であり、最高の理解者
りくりゅうの競技人生は、ブルーノコーチとの絆なしには語れません。

「やりきった!」って、こんなにも美しい言葉だったんだ

ケガとさまざまな重圧。SP失敗の夜の苦しみと迷い。そして大逆転の歓喜。
すべてを経て辿り着いた「やりきった」という正直な言葉。

これほど清々しく、これほど重みのある幕引きがあるでしょうか?
りくりゅうが夢のオリンピックの舞台で残した感動の軌跡は、これから先も、日本フィギュアスケート史に永遠に輝き続けるでしょう。

三浦璃来さん、木原龍一さん、
長い間の競技生活、今まで本当に頑張りましたね。
最高の夢を見せてくれてありがとう。


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