狡い行いの先にあるもの
最近地元で、土地柄に似合わない店が次々と開店している。
先日行ったガラス張りの歯科医院の次は、なんとまたまたガラス張りの美容室ができた。
「田舎にはガラス張りの店建てときゃいいんだ!」という過激派が、この町を裏で牛耳っているのではないかと不安になってくる。
とはいえ、もちろん行ってみたい。
何故なら、私は田舎者だからだ。
田舎者とは、ガラス張りの建物に惹かれる人のことをいうのだ。
けれど、歯科医院に行った時の記憶に苦味があるのと、大きな声ではいえないのだが、私の地元では、気軽に入った店がヤバめだったということが割とあるので、行く前に様子を知っておきたい。
口コミがまだついていないのだ。
幸いなことに、その美容室は指定速度30kmの道路沿い、しかも、交差点付近にある。
ガラス張り過激派のみなさんのおかげで、車で白々しく店の前を走るだけで、店内の様子をちらりと見ることができる。
ということで、いざ。
ブロロロロロロロ…
っ…!
オールブラインドだと…⁉︎
暑いもんね…。
夏だからね……。
どうやら、野次馬嫌いの神に疎まれたようだ。
全てのガラスにブラインドがついていて、店内を覗くことはできず、確認できたのは立派な外観だけだった。
なんと説明したらよいかわからないが、個人的な印象としては、ウェルカムドリンクとしてキャラメルマキアートが出てきて、支払いに5万円くらいかかりそうな感じの美容室だった。
怖い。行くのが怖い。
怖いのに、頭の中で碇シンジの囁きが聞こえてくる。
わかったよシンジ。
行ってみるよ。アポなしで。
一旦予約をせずに行き「予約がないとちょっと…」と断られて、ヤバイ様子がないかだけをとりあえず確認する、という狡い方法を思いついたのだ。
最初から断られるつもりで行くとは。
ああ、なんて最低なんだ。行ってきます。
カランコロンカラン
「あのぉう、予約していないんですけど……」
「大丈夫ですよ!こちらの席どうぞー」
神のご加護があり、髪を切ることになった。
けれど、冷やかしとも取れる行為をしようとしたうえに、髪型も決めていない、という暴挙を働いている。
自責の念で萎縮してしまうが、迷惑をかけるわけにはいかない。手間取らせないように、美容師さんが出してくれたヘアカタログを真ん中あたりで開き、「これで!」と指を置いた先にあった髪型をオーダーした。
とんとん拍子にことが進み、カットが始まった。私はコミュニケーションが得意ではないので、いつも美容室では、切ってもらっている間、目を閉じることにしている。
この時も同じように、そっと目を閉じた。
私:「……」
美容師:「俺うさぎ飼ってるんですけど、うさぎのフンってコロコロなんですよ〜」
初対面の人との会話史上、最も吸引力のある導入に惹かれて、思わず目を開けた。
私:「...あぁ...確かに...コロコロですよね。小学生の時うさぎ小屋の掃除でよく見た気がします」
美容師:「でも、たまにお腹壊したりすると全然コロコロじゃないんですよ〜」
私:「あっ...そうなん...ですねぇ」
美容師:「うちのうさぎ、トイレにフンするの苦手で」
私:「あら〜」
美容師:「この前、廊下になんか落ちてて、餌落としたかなって思って素手で拾ったら...フンだったんですよ」
私:「あぁ.…..それは大変だ」
美容師:「たまに丸じゃなくて細長いフンの時あるんで間違えちゃうんですよね」
私:「うさぎの餌って細長いですもんね」
美容師:「……」
私:「......」
髪の毛が床へ着地する音が聞こえるほどの静寂の中で、私は再びそっと目を閉じた。

こんなにも素晴らしい経験を4800円で手に入れることができるとは。我が地元も、まだまだ捨てたもんじゃないな。
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでくださりありがとうございます!とってもうれしいです...‼︎