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漫画家アシスタント物語 古い話で章〈3〉 新米アシスタントは、挑んだ!

  
《 画像上:秋山プロの若いスタッフが共同生活した豊島区千早町の住宅街。正面の奥の『ウサギ荘』という木造アパートが宿舎になっていました。とうの昔に取り壊されて、今はマンションになっています。2014年5月撮影 》
          < この「古い話で章〈3〉」は、文庫本約11ページ分 >
 
 
 
「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
 
ただし‥‥ 各話が連続していますので、
「古い話で章〈1〉」から読みいただく方がよろしいかと思います。
 
はじめての方は、
「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
 

 
 
 
               その5

  《 漫画家アシスタントが・・・・ゲラを見て感動する!? 》


アシスタントが背景を入れて原稿を仕上げると、その生の原稿を持って飛ぶように去っていく編集員‥‥‥‥

そして、1週間後にはゲラ( 試し刷りされた雑誌の一部 )が出来上がる‥‥‥‥

テラさんは、自分が描いたズボンの柄の点々を感動しながら見つめます‥‥‥‥

『 俺が描いた点々が出てる! 』

‥‥‥‥ゲラを持つ手に力が入ります。 周りにいるスタッフは、いつものように仕事を続けています。 テラさんの高揚した顔色に気付く人はいません。

『 俺の絵が雑誌に載ってる! 』

アシスタントなら誰でも最初に経験する気持ちだと思いますが‥‥‥‥

この瞬間の事って、忘れられないもののようです‥‥‥‥。
 

さて‥‥‥‥

普通の漫画家( 現代の )なら、アシスタントに雇用するかどうかは、その画力と経験量によって決める。 少なくとも、それが常識なのですが‥‥‥‥

どうも、ジョージ先生は、昔からアシスタント志望者の『 画力 』には、ほとんど興味がありません。( 例外はありますが ) その人物の雰囲気を大切にしていました。

つまり‥‥‥‥

下手でもいいし、バカでもいい、ノロくてもいいし、不潔でも下品でもやる気があればいい!

‥‥‥‥といった感じでした‥‥‥‥‥‥ これは、誇張ではなく、私をはじめとしてろくな人間が集まっていません‥‥‥‥

酒に女にギャンブルに‥‥ サラ金、陰キン、大腸菌‥‥‥‥‥‥

まさに、ここは、ジョージ先生による人間昆虫標本箱のようなものなのかも知れません。

ちなみに、最近( 2013年現在 )の仕事場ですが‥‥‥‥‥‥ アシスタントの数もすっかり減って2人だけ。

バブル崩壊後、この20年間で仕事が激減‥‥‥‥ 新弟子を養うどころの騒ぎではありませんのです。

昭和40年代( 1970年前後 )の漫画業界は、弟子入りを希望する若者( 家出した未成年者を含む )を誰でも受け入れてしまう環境があったようですが‥‥‥
 
50年以上前の時代は、最低給料で保険なしだの、メシと寝床だけを提供するとかいったブラックな待遇の仕事場も多かったようです。
 
 
突然、広島からやって来たテラさんが共同生活を始めたのが東京。 豊島区千早町にある木造モルタルアパートの2階。

部屋は4畳半が二つほどの小さな部屋で、テラさんを含めて4人の若者が暮らすことになりました。
 
食事や掃除は当番制‥‥‥‥ という事になっていたようですが、どうも、新入りのテラさんがほとんど先輩たちの面倒をみていたようです。
 
先輩といってもほぼ同世代で、17~20歳( 昭和25~28年生まれの後期団塊世代 )の若者たち。

朝10時にテラさんが先生のマンション( 新宿区中落合 )へ原稿を取りに行きます。 お昼頃にアパートへ受け取った原稿を持ち帰り、全員で作業に入るとそのまま夜の11時過ぎまで仕事‥‥‥‥( テラさんだけ、原稿の運搬作業で4,5回出入りします )

夜になると全員で食事に出かけます。 その時間も30分ほどで、それ以外は休憩時間も取らずに黙々と背景画制作に取り組むわけです。

仕事が終わってゆっくり出来るのは、深夜12時から‥‥‥‥

解放された気分からか、仲間同士でプロレスごっこを始めてドタンバタンと暴れるので,階下に住む中年の夫婦から毎晩のように‥‥‥‥

「 うるさ~~い! 何時だと思ってるんだ~~っ! 」
‥‥と怒られる。

プロレスと言っても、一人、アシスタントの中でパンツの汚い先輩がいて、いつも、彼のパンツを脱がそうと他のアシスタントが押さえ込む。 そのためにドタバタしているだけなのですが‥‥ 毎晩このプロレスが続いたので、さぞ階下の住人や隣の住人が苦しめられただろう事が想像されます。

ちなみに、この当時の「 秋山プロのスタッフ 」の悪評は、千早町、椎名町一帯に広まり、どの不産屋でも、「 秋山プロのスタッフ 」というだけで、部屋を貸すのを断るという事が起きたそうです。

さて、順番で食事当番するのですが、たまにパンツの汚い先輩がその当番に‥‥‥‥ 彼が米を研ぐと、いつも垢で汚れて黒かった手( 特に爪の垢が真っ黒!)が真っ白になっているので、皆からからかわれたそうです‥‥

私がその時の事をちょっと質問してみました‥‥‥‥

「 テラさん、その先輩が研いだ米を食べたのですか? 」

「 うん、食べたよ‥‥ 当たり前じゃないか! 」

「 ‥‥あ、当たり前? 」(汗)
 
 
秋山プロでは、徹夜仕事をしませんでしたので、遅くとも夜の11時過ぎには仕事が終わっていました。 恒例のプロレス興行があって、その後は、スタッフ一同そろって近くの深夜喫茶店へ出かける毎日でした。

漫画家の多くが徹夜仕事を経験しますが、ジョージ先生は、徹夜仕事をまったくした事がありません。 例のごとく‥‥

「 おめぃ~らの時間が無くなっちゃうからよぉ 」

‥‥と、スタッフにはよく言っていました。

アシスタントの自由な時間を大切にする先生のこだわりは、アシスタント本人たちよりも強いわけです。

ただ、この与えられる自由な時間を無駄にするアシスタントが多く‥‥ いや、ほとんどのアシスタントが無駄にしていました。

恥ずかしい事ですが‥‥ 私も、休みの日や空いた時間があると、作画や読書より、遊ぶ事ばかりに集中しました。 

人を育てる‥‥ってのは、難しいもののようです‥‥‥‥‥‥

 

 
 


50年以上前、ジョージ先生が仕事場にしていた古いマンション。大きな木の奥、左側のマンションです。この3階に仕事場があり、毎日、何人もの編集員が先生の原稿を求めて出入りするのです。

 
               その6

  《 漫画家アシスタントが・・・勇気を出して挑戦した! 》

東大闘争、ベトナム反戦、三里塚‥‥ そんな時代の1969年。

政治闘争やサイケな時代風俗とも関係なく、月給2万円の漫画家アシスタントのテラさんは、仕事に慣れようと頑張っていたました。

アシスタントの仕事場と、ジョージ先生の仕事場とを往復する毎日については、前回まで書いた通りなのですが‥‥

原稿運搬の使い走りだけではなく、徐々に原稿に向かって積極的に背景制作に取り組むようになります‥‥ 秋山プロに来てから一ヶ月ほどしてからでした‥‥

最初、仕事場で‥‥ 人物だけが描かれ背景が真っ白な原稿を手にとっても、ど~したら良いのか分かりません‥‥
 
そんなテラさんに先輩の一人が声を‥‥
 
「 やったら‥‥ 」

‥‥と、軽く進めてくれるので、恐る恐るペンを走らせてみる‥‥‥‥ そんなスタートだったのですが‥‥‥‥

少しづつ慣れてくると‥‥‥‥

『 この大きなコマ( でかい背景画 )もやってみたいなぁ~ 』
‥‥といった欲が出てきます。

当時の先生の漫画は、ほとんどがギャグ漫画で、白っぽい簡単な背景が多かったのです。

そのため、テラさんのようにまだ慣れないアシスタントでも先輩の絵を見よう見真似で、なんとかこなす事ができました。
 

それにしても、この秋山プロの不思議な事は、誰も( 先生さえも )どのような絵を、どのように描くのかを指示しない事です。
 
本当に、まったく何をど~描けとは誰も指示しないのです。( みんな勝手に好きに描いている! )

そのため、キャラクターの服がページによって変わっていたり、乗っている自動車の車種が乗用車からライトバンになっていたり、部屋の中の家具がまるで変ってしまったり‥‥‥‥

トンチンカンな背景画が出現するのですが‥‥‥‥ その事で、先生がただの一度もアシスタントを怒ったりした事がありません。

今でも、私はその事が不思議でなりません‥‥‥‥ 

しかし‥‥

何度もデタラメな絵を描いた事のある私は、ジョージ先生に面と向かって「 なぜ注意しないんですか? 」なんて‥‥‥‥ 恐ろしくて(!)質問できないわけです。

ジョージ先生は、漫画の背景画に興味がないのだろうか‥‥‥‥ いや、そんな事はない‥‥‥‥ むしろ、その逆です。
 

テラさんには、いつも思い出す苦い思い出があります‥‥‥‥

それは、絶対に忘れる事の出来ない思い出‥‥‥‥

初めて漫画背景を描くようになってから、しばらくすると自信も付いてくるし、新しい絵にも挑戦したくなります‥‥‥‥

それでも先生からは、慣れないテラさんが大切な大ゴマ( 1ページ全部使うような重要シーン )に手を出さないように‥‥‥‥

「 このページはよぉ、おめぃ~は描くなよ! 」( 低いかすれ声で )
‥‥と、用心していました。

しかし、ある時、何を思ったのか‥‥‥‥

『 よし、俺はやってやるぜ! 』
‥‥と、テラさんは無謀な挑戦に突き進みます‥‥‥‥( 恐ろしい人です! )

以前から難しい背景に挑戦したいと密かに願望していたわけで‥‥‥‥ 当時、17歳‥‥ 若かいですね!

出来上がった原稿をジョージ先生に届けた時に先生が何か嫌な予感を感じたのでしょう‥‥‥‥ ふと、テラさんの目をのぞき込むように‥‥‥‥

「 あのコマは、まさか‥‥ 描いてねぃ~だろうな? 」( 低いかすれ声で )

「 あ‥‥ 僕が‥‥‥‥ 描きました 」( 声が上ずっている )

「 えええええええええ~~~~~っ! 」

さすがの鬼才ジョージ秋山も、声が裏返る!

「 えええええ・・・・・・おめぃ~が描いたのかよぉおおお! 」

ジョージ先生は、そのまま両手で頭を抱えてしまったそうです。

しかし、驚くべきはこの後で‥‥‥‥

先生が泣き出しそうになりながらも、その原稿をボツにする事もなくそのまま掲載したのです。( もちろん、最低限のレベルには達していたから掲載できたのだとは思いますが‥‥たぶん )

ジョージ先生は、普通の漫画家なら絶対に描き直させるような絵でも、描き直しをさせた事が一度もありません‥‥‥‥ 私も絶望的な絵を何度も描きましたが、一度も描き直しを指示された事がありません。

( 実は、一度だけ墨で塗りつぶされた事があります。それは、そのまま掲載されています!・笑 )

また、ジョージ先生がアシスタントにどんな背景を描くか細かく指示する事もありません‥‥‥‥ ただの一度もありません!
 
 
不思議と言えば不思議な仕事場です‥‥‥‥
 
また、『 凄い 』と表現すれば、『 凄い先生 』なのですが‥‥‥‥
 
 
ホントに『 凄い 』と思うのは‥‥‥‥
 
こうして描かれている漫画が、ことごとくヒット作品として読者に支持されている事なのです‥‥‥‥
 
 
 
 
 
     「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈4〉」へつづく・・・・
                  「古い話で章〈2〉」へもどる‥‥
                        「もくじ」 へ‥‥
 
 
 
  
 
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