見出し画像

漫画家アシスタント物語  第8章 〈17〉 彼の名前は‥‥何ンだっけ?!

 
《写真上: 池袋駅のメトロポリタン出口から‥‥冬の冷たい雨が降ります》
              < この8章〈17〉は、文庫本約10ページ分 >


「第8章」は、独立した「章」ですので、「第7章」の続きではありません。
「第8章〈1〉」(無料)より、お楽しみいただけます!
 
ただし‥‥
はじめての方は、
「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
 

さて‥‥ ここで‥‥‥‥
「エントランス」にチップしてくれた方を紹介させてください。
バルドー姉さん ‥‥‥‥‥‥ ありがとうございました!



               その33  
  
    《 漫画家アシスタントが・・・オレオレ詐欺に!? 》
 
 
私は、最初にイームさんから話を聞いた時に思ったのは、旦那さんの下村さんが冤罪えんざい事件にでも巻き込まれたのか‥‥ という事でした。

『 やっかいな事になったぞ‥‥ 』

‥‥と。 しかし、同じ人物が3回も「 痴漢冤罪ちかんえんざい 」で逮捕されるわけもなく‥‥。 その犯罪事実に疑う余地はありません‥‥‥‥ つまり、単純に「刑に服せ」ば良いのです。

‥‥ですから、困難な冤罪裁判えんざいさいばんを心配する必要はないので、正直なところ‥‥ 少しだけ気が楽になりました。( こうした他人事の軽い気持ちが後でトラブルになる事も‥‥ )

結局のところ、彼女の相談というは‥‥

「 ワタシ‥‥ 日本語、あまりデキナイ‥‥ どうするイイですか? 」
「 彼の両親は‥‥ 知っているんですか? 3回目の逮捕だって? 」
「‥‥‥‥」

私は、血縁者に相談するのが一番良いだろうと思って、彼の両親について訊きました。 すると‥‥

「 お父さん、お母さん‥‥ ダメ‥‥ ワタシこと嫌いデス。 結婚も反対、とても怒ったデス‥‥ 」

自分の息子がタイ人と結婚する事に反対する親はめずらしくありません。 ‥‥しかし、そうはいっても親子ですから‥‥

「 今まで相談した事はなかったのですか? 」
「 何も‥‥ 何も話しスルない‥‥ 3回捕まったこと‥‥‥‥ 何も知ルない‥‥‥‥ 」

‥‥どうも、今までは簡単に保釈され、罰金( 慰謝料? )を払ってすぐに出てきているので誰にも相談はしなかったようですが、今回はただでは済みそうもなかったのです‥‥‥‥

『 3回目じゃ‥‥ 実刑は確実だな‥‥ その間、イームさんはどうなるんだろう‥‥‥‥ 』

私は、繰り返される「 痴漢 」が簡単に治る(?)とも思えず、また借金の事もあり‥‥‥‥ 赤字続きのお店( 北区赤羽の食材店 )を整理したり、離婚についても考える必要があると‥‥‥‥ そう話しました。

そして、下村さんの両親にも相談して警察への対応や、弁護士の手配など早く手を打った方が良いと‥‥‥‥ しかし、彼女は‥‥

「 ワタシ‥‥‥‥ 電話デキナイ‥‥‥‥ 言葉わからないデス‥‥‥‥ お父さん、お母さん、ワタシこと嫌いデス‥‥‥‥ 」

そこで‥‥ 事件の報告と、留置されている警察署についての事など、私が代わりに電話する事になったわけです‥‥‥‥

私は、イームさんを落ち着かせてから帰宅させました‥‥‥‥

「 大丈夫だよ、ちゃんと電話しておくから‥‥ 明日、両親と一緒に‥‥ 警察へ‥‥ 」

彼女が帰った後で私は重たい気分で受話器を取ります‥‥

『 待てよ‥‥ 冷静に‥‥ どう話したらいいんだろう‥‥‥‥ 』

‥‥ちょっとだけ‥‥ 躊躇ちゅうちょしたのですが‥‥‥‥

『 まあ‥‥ 何ンとかなるだろう‥‥‥‥ 』

この辺りに‥‥ 自分自身の問題ではない‥‥ という無責任な姿勢があった事を否定できず‥‥‥‥

電話番号では東京の郊外で‥‥‥‥ 0‥‥ 4‥‥ 8‥‥‥‥

呼び出し音がしばらく続き‥‥ 私が『 留守だとまずな‥‥ 』と思った時‥‥‥‥

「 はい‥‥ もしもし‥‥‥‥ 」

面倒臭そうに‥‥ 年を取った男性が低い声で応えました‥‥

「 あの‥‥ 下村さんのお宅でしょうか‥‥‥‥?」
「 ‥‥‥‥はい 」
「 あのぉ‥‥‥‥ 」

私はこの時‥‥ 下村さんの名前を忘れていました!( 一度は聞いた事があるはずなんだけれど‥‥ )

『 下村‥‥ 何ンだっけ‥‥‥‥??? 』必死に名前を思い出そうとしますが、出て来ません!

「 え‥‥‥‥ とぉぉ‥‥‥‥ 下村さんの‥‥‥‥ えぇぇぇ‥‥‥‥む‥‥ 息子さんの事なんですが‥‥‥‥
「 はぁ‥‥‥‥? 」

私は、自分が下村さんの知人で、その奥さんから頼まれて電話している、マッサージ店主の小池という者である事を告げるのですが‥‥‥‥

「 はぁ‥‥‥‥ 」

私は自分で自分の言葉が上滑りしている事を自覚しつつ‥‥ 相手に通じていない‥‥ 不安な気持ちのまま核心部分に入っていきます‥‥‥‥

「 警察に‥‥ 留置されているんです‥‥‥‥ 」
「 はぁ‥‥ なんで‥‥? 」
「 痴漢をしてしまったらしいんです‥‥ 」

この瞬間、お父さん(?)の声の調子が急に変わります‥‥‥‥

「 ほぉ~~~~っ 」

‥‥‥‥人をバカにした様な鼻にかかった声!

「 明日にでも面会に行ったり‥‥ それに、弁護士の手配やら‥‥‥‥ 」「 ほぁ~~( 鼻にかかった声 )‥‥で、誰が捕まったんですか? 」
「 ‥‥‥‥で‥‥‥‥ ですから‥‥‥‥ そのぉ‥‥‥‥ 下村さんの息子さんの‥‥‥‥ 」

「 ‥‥んでぇ‥‥‥‥名前はぁ~?」

‥‥‥‥‥‥どうしても‥‥‥‥ どうしても、名前を思い出せない私は、シドロモドロになりながら‥‥‥‥

「 ‥‥‥‥あのぉ‥‥‥‥ あ‥‥ 赤羽で‥‥‥‥ タイの食材店をやっているタイ人の奥さんが‥‥‥‥ 」( 心の中で、オレオレ詐欺じゃありませんよ~~っ! )

「 ほぉ~~~~~~~っ 」( 遠くの汽笛の様に )

‥‥‥‥‥‥ダメだ‥‥‥‥ こりゃダメだ!

「あ‥‥ あ‥‥ 明日、警察へ‥‥‥‥」
「 ほぉ~~~~~~~~~~~~っ 」

完全に疑われてる!

警察に電話されたら‥‥‥‥ 私が取り調べを受けることになる!!!




前回と同じ池袋駅のメトロポリタン出口。他の出入り口よりも全然人が少ないので利用しやすい。

 
               その34  
  
    《 漫画家アシスタントが・・・逃げられる・・・!? 》
 
 
2007年‥‥ サラ金地獄やら経営難といった苦境の中で、ブログの単行本化が進行したりする‥‥ 気が重いやら軽いやら‥‥

妙な日々の最中で私は、下村さんが起こした事件の事で、彼の実家( ※参照 )に電話をした話を前回書かせていただきました。

見ず知らずの人物から突然「 息子さんが警察に捕まりました 」なんて聞かされて、さぞ驚かれたことと思いますが、話をしている途中から完全に「 オレオレ詐欺 」だと疑われ‥‥‥‥

まったく私の言う事を信じてもらえそうもない状況に立ちいたりました‥‥‥‥

『 ダメだな‥‥‥‥ 今すぐ信じてもらえそうもない‥‥‥‥ 』

私は、そう判断して‥‥

「 今から警察署の連絡先を言いますので、そちらに問い合わせて下さい 」

そう言ってから下村さんが留置されているM警察署の電話番号を告げます‥‥

「 電話番号が正確かどうかも、しっかり確認して下さい 」

‥‥そう付け加えて私は電話を切りました。

下村さんは両親と疎遠になっていたので、はたして両親が保釈や裁判の弁護士費用などを協力してくれるのかどうか‥‥‥‥ 電話の印象ではサッパリわかりませんでした。

翌日、イームさんから‥‥

「 アリガトございました。お父さんから連絡ありました‥‥ 」

両親がイームさんと一緒に警察へ行って善後策を考えてくれるそうです。

生活のお金にさえ困っているのに、保釈金やら裁判費用やら‥‥ どうなるのかと思っていたのですが‥‥ そこは親子なんですね‥‥‥‥

私は、下村さんが3度目の逮捕で実刑判決が下り、イームさんはお店を整理してタイに帰国する事になる‥‥‥‥ たぶん、そうなる‥‥‥‥と、そう思っていたのですが‥‥

下村さんは逮捕後3日目に釈放。

借金は両親の協力で当面はしのげる事になり、離婚するだろうなと思っていたイームさんはしっかりお店の切り盛りを続けています。

それにしても、3度目の逮捕でも罰金( 慰謝料 )50万円ほどで簡単に放免されるとは、想像もしませんでした。 「 冤罪 」として犯行を認めない人が10年以上の裁判と数百万円の費用を使っても解決できずに終わるケースが圧倒的に多いのに‥‥‥‥

ちなみに、下村さんとイームさんは、今でも赤羽の奥まった路地で小さな食材店を経営しています。

ちなみに、いまだに下村さんの名前が思い出せない‥‥‥‥

( 話の設定等は一部フィクションです )
 
 

人の世というものは常に出会いと別れの連続‥‥‥‥

私が経営したタイマッサージ店などは、日々、この「 出会いと別れの連続‥‥ 」でした。

「 ねぇ‥‥ エリとハーンの荷物が無い‥‥‥‥ 」( タイ語 )

お店でママ( 店長 )をやっている私のカミさんがそう言うのです。私は一瞬なんの話か戸惑ったのですが‥‥‥‥

「 きっと逃げる( 辞める )つもりなのよ‥‥ 」( タイ語 )

荷物とは、お店のスタッフが使用するプライベートなBOXで、中に私物を入れるようになっているのです。その中の私物がカラッポだという事は‥‥‥‥

その日の夜、エリとハーン( ※参照 )の二人はニコニコしながら、いつもと同じ様に( まったく同じ様に ) ‥‥

「 お疲れサマ~、また明日! 」
「 また明日! 」

そう言って、お店を後にしたのですが‥‥‥‥

翌日は出勤して来ませんでした。 

少ないスタッフ( 常時3~5人 )なのに、こうして2人がいっぺんに辞めてしまうと、もう仕事になりません‥‥‥‥

つまり、この日から新しいスタッフが来るまでの1ヶ月以上は、お客さんが来ても対応できない状態が続き、結局お店の経営を圧迫するわけです。

 
  
 

       「 漫画家アシスタント物語 第8章〈18〉」へつづく・・・・

                   「第8章〈16〉」へもどる‥‥

                   「もくじ」 へ‥‥

 

  

 ~~~ 参照 ・第8章〈17〉 ~~~ ( 読んでも、読まなくても!)
 
 【その33】
単行本化 : 2006年12月、最初のオファーがマガジン・マガジン社の編集員氏からありました。本格的に単行本化が進むのは、それから1ヵ月後。
イームさん : 仮名。北区赤羽の裏通りで小さなタイ食材店を日本人の旦那さんと経営している40歳のタイ人女性。(名称、地名等、架空)
下村さん : 仮名。イームさんと同じ年のハンサムな中年男性。真面目で優しく、寡黙な人。若い頃の加山雄三を酸っぱくした様な色男。
 【その34】
彼の実家 : 下村さんがタイ人と結婚する事に反対して以来、疎遠になっている下村さんの両親。
エリとハーン : 二人とも30歳前後の仲のよいタイマッサージ師。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 
 
 

いいなと思ったら応援しよう!

yes 年金生活者にとって、とても嬉しいご支援! 感謝申し上げます!