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EU理事会AI法改正マンデート / 簡素化に同居する強化の論理 雑感


Ⅰ EUにおける規制簡素化と理事会の立場

 2026年3月13日、EU理事会は人工知能に関する規則の簡素化を目的とした提案について、独自の立場に合意した〔注1〕。今回の提案は、EUの簡素化アジェンダにおける「Omnibus VII」立法パッケージの一環として位置づけられている。

 その起点は2024年10月の欧州理事会にまで遡る。エンリコ・レッタ報告書およびマリオ・ドラーギ報告書が提起した課題への対応として、EUは規制の簡素化を政策的優先事項に掲げ、同年11月8日のブダペスト宣言においても事業者、とりわけSMEに対する行政・規制・報告負担の削減が明確に求められた。欧州委員会は2025年2月以降、計10本のOmnibusパッケージを提出し、2025年11月19日に提出した第7弾のDigital Omnibusが今回の理事会マンデートの母体となっている。

 すでに成立したAI法に対して、適用開始前であるにもかかわらず大幅なスケジュール延期と要件修正が図られていることは、法規制の安定性と技術開発の促進という対立する要請をいかに調和させるかというEUの苦心を示している。ただし、今回のマンデートを単純な規制緩和として読むことはできない。理事会は緩和措置と強化措置を一つの文書のなかに意図的に同居させているからである。

Ⅱ 理事会が加えた修正の構造

1 高リスクAIシステムに関する適用時期の固定化

 欧州委員会は当初、高リスクAIシステムに関するルールの適用を最大16か月延長し、必要な標準・ツールの利用可能性を委員会が確認した時点でルールを適用するという条件付きの延期を提案していた。理事会はこの枠組みを概ね維持しつつ、適用開始日を日付で固定した。単独の高リスクAIシステムは2027年12月2日、製品に組み込まれた高リスクAIシステムは2028年8月2日がそれぞれの新たな適用開始日となる。国内の所管機関によるAI規制サンドボックスの設置期限についても、同様に2027年12月2日まで延期されている。

「委員会による確認を条件とする」という不確定な構造を排し、固定日程へ切り替えた点は、提供者にとっての法的予見可能性という観点から評価できる。他方で、標準化作業が遅延した場合のリスクを理事会自身が引き受ける構造でもある点は留意が必要であろう。

2 禁止行為の追加と規制要件の再強化

 適用スケジュールの延期が目立つ一方で、理事会は特定領域における保護法益を重視し、要件の厳格化を同時に進めている。新たに追加された規定として、同意のない性的・親密なコンテンツおよび児童性的虐待素材の生成に関わるAI行為が明示的に禁止対象に指定された。AI法が当初から設けている禁止類型の欠缺を補う措置として位置づけるのが適切であろう。

 加えて、委員会提案が削除していた提供者のEUデータベース登録義務が復活した。自社システムを高リスク分類の対象外と自己判断する場合であっても、提供者はEUデータベースへの登録を求められる構造に戻っている。バイアスの検出・是正を目的とした特別カテゴリーの個人データ処理についても、委員会提案が緩和の方向に傾いていた基準を、理事会は「厳格な必要性」の水準まで引き戻した。行政負担の軽減を謳いつつも、基本権の保護や透明性の確保というAI法の理念に関するガバナンスの後退を牽制しようとする理事会の姿勢の表れといえそうである。

3 AIオフィスの監督権限の整序と事業者向けガイダンス

 汎用AIモデルを基盤とするAIシステムについて、そのモデルと当該システムが同一の提供者によって開発されている場合には、原則としてAIオフィスが監督権限を持つことが明確化された。ただし、法執行、国境管理、司法当局、金融機関については国内当局が引き続き権限を保持する例外が列挙されており、安全保障・司法・金融といった政策的に敏感な領域で各国の固有権限を温存する設計はEU多層的ガバナンスの典型的な処理方法といえる。

 また、分野別調和立法の対象となる高リスクAIシステムの事業者に対し、コンプライアンス要件への対応負担を最小限に抑えるためのガイダンスを提供する新たな義務が欧州委員会に課された。規制の構造変更を回避しながら実務上の負担を和らげる手法として、今後も活用される場面があろう。

Ⅲ 立法交渉のスケジュールと残された課題

 理事会でのマンデート承認を受け、議長国キプロスのもとで欧州議会との三者協議が開始される。ここで問題となるのは、この立法プロセスを巡る時間的な制約である。3月15日時点での情報によれば、交渉と立法プロセスが2026年8月までに完了するかどうかが最大の焦点とされており、期限内に合意に至らない場合、事業者は旧スケジュールに基づいた対応を迫られ、法的な予見可能性が著しく損なわれることになる。

 理事会が「最大限の優先事項として」取り組んだと自ら表明している以上、迅速な合意への政治的意思は明確である。もっとも、欧州議会が独自の立場を強く主張すれば、スケジュールは容易に延びうる。EU AI法の最終的な姿は、なお三者協議の帰趨にかかっている。本記事が、AI規制の現在地を考えるための何かのきっかけになれば幸いである。詳細は、上記原典をご確認いただきたい。

〔注1〕 Council of the EU, "Council agrees position to streamline rules on Artificial Intelligence", Press Release 189/26 (13 March 2026), https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2026/03/13/council-agrees-position-to-streamline-rules-on-artificial-intelligence/ (last visited 15 March 2026).

(マガジン)「AIと法雑感」

※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
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P.S. This is shared for academic discussion only.

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