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AIと暗号資産 / 欧州証券市場監督局(ESMA)によるMiCA規制下の知識・能力評価ガイドラインの検討 / 自動化システムにおけるパラメータ設定者の責任と人的要件の再構成、英国規制動向との比較を含めて雑感

0 はじめに

 欧州証券市場監督局(ESMA)は、暗号資産市場規制(Regulation (EU) 2023/1114、以下MiCA)に基づく知識および能力の評価基準に関するガイドラインを策定した。ESMAは2025年7月11日に最終報告書(Final Report、ESMA35-1872330276-2380)を公表し、その後2026年1月にガイドライン本文(ESMA35-24871704-2922)を全EU公用語で公表した。

 本ガイドラインは、暗号資産サービス提供者(Crypto-Asset Service Providers、以下CASP)のスタッフが、顧客に対して情報提供や助言を行う際に備えるべき具体的な知識、能力、および経験の基準を定めたものである。

 一見すると、これは金融規制における伝統的な外務員資格や適合性原則の議論の延長線上にあるように思われるかもしれない。しかし、本ガイドラインには、AIやアルゴリズムを用いた自動化サービスが普及する現代において、極めて重要な法的示唆が含まれている。それは、自動化されたアドバイスを提供するシステムのパラメータを設定する人間に対し、高度な専門的知識と法的責任を求めている点である。

 他方、英国においてもFinancial Services and Markets Act 2023(以下FSMA 2023)を基盤とした包括的な暗号資産規制の構築が進行中である。2025年4月29日にはHM TreasuryがRegulated Activities Order(RAO)改正の法定文書草案を公表し、暗号資産サービスを金融規制の対象として明確に位置付ける方向が示された。英国はEU離脱後、独自の規制アプローチを模索しているが、その方向性にはEU規制との共通点と相違点の双方が見られる。

 本稿では、ESMAが公表したガイドライン(ESMA35-24871704-2922)の内容を中心に検討しつつ、英国における規制動向との比較法的視点を加える。特に、情報提供業務と助言業務の区分、それぞれに求められる技術的・金融的知識の具体的内容、そして本連載の主題であるAIと法の観点から、自動化システムにおける人的関与のあり方について、実務的な観点から論考を行う。

1 問題の所在

 暗号資産市場は、その黎明期において、技術的な革新性が先行するあまり、投資家保護のメカニズムが不十分なまま拡大してきた経緯がある。ブロックチェーン技術の不可逆性、秘密鍵管理の複雑さ、ボラティリティの高さといった特有のリスクは、伝統的な金融商品の知識体系だけでは十分にカバーしきれないものであった。

 MiCAは、こうした暗号資産特有のリスクに対応するため、CASPに対して厳格な行為規制を課している。その中核をなすのが、第66条に定められた誠実・公正かつ専門的な業務遂行義務(Obligation to act honestly, fairly and professionally)である。また、第68条は人的体制・ガバナンスに関する要件を、第81条は助言業務に関する行為規制を定めている。しかし、専門的とは具体的に何を指すのか。どの程度の技術的理解があれば、顧客に対してビットコインやDeFiトークンを勧誘してよいのか。その基準はこれまで必ずしも明確ではなかった。

 英国においても同様の問題意識が存在する。Financial Conduct Authority(FCA)は2019年以降、暗号資産に関するガイダンス(PS19/22)を公表し、トークンの分類(security token、e-money token、unregulated token)に基づく規制の適用関係を整理してきた。しかし、人材の知識・能力要件については、Money Laundering Regulations(MLRs)に基づくAML監督の文脈での一般的な適格性要件にとどまり、MiCAのような詳細な基準は存在しなかった。

 さらに、近年の金融サービスにおいては、人間のスタッフが対面で説明するのではなく、アプリ上のUIやチャットボット、あるいはAIを搭載したロボアドバイザーが顧客対応を行うケースが主流となりつつある。生成AIの台頭は、この傾向に拍車をかけている。

 ここで法的な問いが生じる。サービス提供の主体がアルゴリズムに移行した際、規制が求める知識と能力の要件は誰に課されるのか。AI自体に資格を取得させることはできない以上、その責任の所在を明確にする必要がある。今回ESMAが策定したガイドラインは、これらの問いに対し、具体的かつ厳格な基準を提示した。

2 ガイドラインの適用範囲と基本的定義

 本ガイドラインの適用対象は、MiCA第3条(1)(15)で定義されるCASPおよび加盟国の所管当局である。適用開始時期は、ESMAウェブサイトにて全EU公用語で公表された日から6ヶ月後とされている。

 本ガイドラインにおいて、スタッフとは、CASPに代わって顧客に関連サービスを提供する自然人を指す。ここでいう関連サービスとは、以下の二つに大別される。

 第一に、情報の提供である。これは、顧客の要求に応じて、あるいはCASPの主導で、暗号資産やサービスに関する情報を直接提供する行為を指す。第二に、助言の提供である。これは、顧客に対して、個別の推奨(パーソナル・レコメンデーション)を行う行為を指す。

 重要なのは、バックオフィス業務や単にパンフレットを渡すだけの行為はここに含まれない一方で、顧客に対して実質的な説明を行う者は、たとえパートタイムであっても対象になり得る点である。

 また、ガイドラインは、知識と能力を、以下の二つの要素の結合として定義している。第一に、適切な資格である。これは、本ガイドラインの基準を満たす資格、試験、または研修コースの修了を意味する。第二に、適切な経験である。これは、過去の業務を通じて関連サービスを遂行する能力を実証していることを意味する。

 単に知識がある(試験に合格した)だけでは足りず、実務経験がセットで求められる点が、金融実務の厳格さを反映している。

3 自動化されたサービス提供とAIへの規律

 本稿において最も注目すべき条項が、ガイドライン1(一般原則)の第17項である。ESMAはここで、AIやアルゴリズムを用いた自動化サービスにおける責任の所在を明確化している。

 第17項は、暗号資産または暗号資産サービスに関する情報または助言が、自動化または半自動化された方法で提供される場合について規定している。具体的には、CASPは、顧客に提供される情報または助言の内容を決定する責任を持つスタッフに対して、本ガイドラインが適用されることを確保すべきであるとする。

 さらに、以下のように続く。そのような情報または助言のパラメータを設定し、設定に関する決定を行うスタッフもまた、適切な情報または助言が、正確かつ適切な状況で、正しい受領者に提供されることを確保するために十分な知識と能力を有していなければならない。

 この規定が意味するところは重大である。ロボアドバイザーやAIチャットボットが顧客対応を行う場合、規制当局はAIそのものの知識を問うのではなく、そのAIを設計し、パラメータを設定した背後の人間の知識を問うのである。

 これは、自動化システムの内容決定やパラメータ設定に実質的な責任を負う者が、本ガイドラインの射程に入ることを意味する。ただし、具体的にどの職種(エンジニア、プロダクトマネージャー等)にどの程度の要件が課されるかは、各CASPにおける職務分掌や責任範囲の設計次第であり、一律に情報提供スタッフや助言スタッフと同等の要件が課されると断定することは困難である。実務上は、自動化システムの設計・運用に関わる者の責任範囲を明確化し、必要に応じて本ガイドラインの要件を満たす体制を構築することが求められる。

 AIがハルシネーション(もっともらしい嘘)をついたり、不適切な投資助言を行ったりした場合、それはパラメータ設定等に責任を負う者の知識・能力不足として構成される可能性がある点は、重要な実務上の示唆である。

4 情報提供に求められる技術的知識の深層

 では、関連するスタッフには、具体的にどのような知識が求められるのか。ガイドライン2は、単に情報を提供するだけのスタッフに対しても、驚くほど広範かつ技術的な知識を要求している(第18項)。

 まず、暗号資産およびDLTの技術的特性について。スタッフは、分散型台帳技術の機能だけでなく、各プロトコルの主要な特徴や、それが取引に与える影響を理解していなければならない。具体的には、コンセンサスメカニズムとして、PoWやPoS等の仕組みと、それがセキュリティや環境に与える帰結を理解する必要がある。トランザクション検証ルールとして、取引がどのように承認・確定されるかを把握する必要がある。スケーラビリティとして、ネットワークの処理能力や遅延の問題を理解する必要がある。分散化レベルとガバナンスとして、誰がネットワークを管理しているか、中央集権的なリスクはないか、攻撃や詐欺からネットワークを保護する措置について知る必要がある。相互運用性として、他のブロックチェーンとの接続性を理解する必要がある。ユースケースとして、決済、サプライチェーン、スマートコントラクト等の用途を把握する必要がある。エコノミックモデルとして、供給量、分配スケジュール、インセンティブ設計を理解する必要がある。

 次に、リスクの具体的理解について。暗号資産特有のリスクとして、ボラティリティに加え、以下の点を顧客に説明できる必要がある。サイバーセキュリティリスクとして、ハッキングや盗難のリスクがある。秘密鍵の管理リスクとして、不適切な保管による資産喪失がある。ITプログラミングリスクとして、スマートコントラクトのバグや脆弱性による資産喪失の可能性がある。移転リスクとして、誤ったネットワークを選択した場合の資産喪失(いわゆるセルフGOX)がある。

 さらに、コストと市場構造について、コスト構造として、CASPの手数料だけでなく、ブロックチェーンネットワークに支払うガス代などの第三者コストが総コストにどう影響するかを理解する必要がある。市場機能として、投資家心理やソーシャルメディアが引き起こす急激な価格変動、大口保有者(クジラ)が流動性に与える影響を把握する必要がある。評価と予測として、過去のパフォーマンスと将来のシナリオの乖離、予測の限界を理解する必要がある。

 これらの知識を担保するため、ガイドラインは以下のいずれかの要件を満たすことを求めている(第19項)。要件Aとして、少なくとも80時間の専門的資格取得(研修等)に加え、監督下での6ヶ月以上の適切な実務経験が必要である。要件Bとして、監督下での1年以上の適切な実務経験が必要である。また、継続的な専門能力開発として、年間最低10時間程度の学習が推奨されている。技術の進歩が速い分野だけに、知識の陳腐化を防ぐ措置が必須とされる。

5 助言に求められる高度な専門性と適合性

 投資助言を行うスタッフへの要件はさらに厳格である。ここでは情報提供業務の要件に加え、高度な金融アドバイザリー能力が求められる。

 追加的に求められる知識として、第23項では以下の事項を理解していなければならないとされている。総コストの完全な把握として、アドバイスに関連して顧客が負担するあらゆるコスト(ガス代含む)を理解する必要がある。適合性要件として、MiCA第81条に基づき、顧客の知識・経験・財産状況・目的を評価し、その商品が顧客に適しているかを判断する義務がある。これには、特定の暗号資産が顧客に適さないと判断する能力も含まれる。ポートフォリオ管理として、分散投資の意義や、個別の暗号資産がポートフォリオ全体に与える影響を理解する必要がある。評価メカニズムとして、助言対象となる暗号資産の適正価値を評価する手法を習得する必要がある。

 厳格化された資格・経験要件として、助言スタッフに対する要件は、情報提供スタッフよりも重い(第24項)。例示として以下の要件が挙げられている。要件Aとして、関連分野(経済、法、経営等)の3年間の高等教育学位に加え、監督下での1年以上の経験が必要である。要件Bとして、中等教育に加え、3年間の専門形成および監督下での1年以上の経験が必要である。要件Cとして、160時間以上の専門形成に加え、監督下での1年以上の経験が必要である。要件Dとして、既存の金融規制(MiFID II等)下での2年以上の助言経験に加え、暗号資産に関する監督下での6ヶ月以上の経験が必要である。

 研修時間だけでも160時間が例示されており、これは情報提供スタッフ(80時間)の倍である。また、継続的な専門能力開発についても年間20時間程度が求められる。

6 組織的要件と監督体制

 CASPは、個々のスタッフの資質に頼るのではなく、組織として知識・能力を管理する体制を構築しなければならない。

 役割の明確化と年次レビューについて、CASPの経営陣は、少なくとも年に1回、スタッフの能力開発ニーズや規制の変更をレビューし、必要な研修等を実施しなければならない。また、情報提供と助言の役割を明確に区別し、スタッフの責任範囲を文書化する必要がある。

 監督下での業務について、本ガイドラインの現実的な調整弁として機能するのが、監督下での業務規定である。必要な資格や経験をまだ満たしていないスタッフであっても、適切な資格・経験を持つスーパーバイザーの監督下であれば、サービスを提供することが許容される。

 ただし、この監督期間は原則として最大4年とされている(第28項d)。この期間設定は、OJTによる人材育成を認めつつも、漫然とした無資格業務を許さない姿勢を示している。

 重要な点は、スーパーバイザーが、監督下のスタッフが行った助言等の内容について、あたかも自らが行ったかのように責任を負い、適合性レポートへの署名等を行う必要があることである。

7 考察 技術と法の交錯点における専門性

 ESMAによる今回のガイドライン公表は、暗号資産市場における専門性の基準を一段高いレベルへと引き上げた。特に、コンセンサスアルゴリズムやスマートコントラクトといった技術用語の理解を、一般の顧客対応スタッフにまで義務付けた点は、暗号資産のリスクの源泉が技術にあることを規制当局が深く理解している証左である。

 従来の金融商品販売規制(MiFID II等)をベースにしつつも、MiCAガイドラインはITプログラミングリスクやガス代といったエンジニアリング領域の概念を、顧客対応スタッフの必須知識として組み込んでいる。これは、暗号資産という商品が、法的な権利であると同時に、技術的なコードでもあるという二重性を反映している。

 また、第17項における自動化サービスへの言及は、AIガバナンスにおけるHuman-in-the-loopの実質化を志向するものである。AIをブラックボックスとして放置せず、その内容決定やパラメータ設定に責任を負う者に知識・能力を帰属させるアプローチは、今後のAIと法のあり方を考える上で重要な参照点となる。

 技術は業務を効率化し、自動化するが、法的責任や倫理的判断までをも自動化するわけではない。高度なテクノロジーを用いるからこそ、それを制御する人間には、より高度で複合的な知識と能力が求められるという原則が、本ガイドラインを通じて再確認されたといえる。

 エンジニアリング部門とコンプライアンス部門の垣根を取り払い、技術者が金融規制を学び、法務担当者がアルゴリズムの構造を理解するという、高度な学際的コンピテンシーが、これからのCASPには求められるのである。

8 英国における規制動向との比較

 英国は2020年1月31日にEUを離脱し、その後、独自の暗号資産規制体系を構築しつつある。その特徴は、漸進的かつ活動ベースの規制アプローチにある。EU MiCAとの比較において、いくつかの重要な論点が浮かび上がる。

8.1 規制枠組みの構造的相違

 英国の規制基盤はFSMA 2023であり、HM Treasury、FCA、およびBank of Englandに対し、暗号資産に関する包括的な規制権限を付与している。2025年4月29日にHM Treasuryが公表したRAO改正草案は、以下の活動を規制対象として提案している。すなわち、暗号資産取引プラットフォームの運営、元本としてのディーリング、代理人としてのディーリング(レンディング・ボローイングを含む)、取引の手配、カストディ・セーフガーディング、およびステーキングである。

 EU MiCAとの重要な相違点として、英国は活動ベースの規制アプローチを採用し、個別の活動ごとに認可を要求する方向を示している。対照的に、MiCAはCASPという主体に対する包括的な認可を前提としつつ、提供サービスに応じた追加的義務を課す構造をとる。

8.2 知識・能力要件に関する規制の現状

 現時点において、英国にはESMAガイドラインに相当する詳細な知識・能力要件は存在しない。MLRsに基づくAML監督の文脈において、暗号資産交換業者およびカストディアンウォレット提供者はFCAへの登録が義務付けられ、適格なスタッフの配置が求められるが、その具体的内容はMiCAガイドラインほど精緻ではない。

 FCAは2023年6月公表のPS23/6において、金融プロモーション規制の文脈でqualifying cryptoassetsを「Restricted Mass Market Investments」として分類し、リスク警告、24時間のクーリングオフ期間、適切性評価などを義務付けた。しかし、これらは顧客保護のための行為規制であり、サービス提供者側の人材要件を直接定めるものではない。今後のFCA規則策定において、知識・能力要件が整備される可能性はあるものの、現時点では未定である。

8.3 自動化・AI規制へのアプローチ

 HM Treasuryは2025年4月の政策文書において、DeFi(分散型金融)について、実質的に支配・関与する主体が存在する場合には規制対象とする方向性を示した。具体的には、十分に支配的な当事者(sufficiently controlling party)が存在するかどうかをFCAが個別に判断し、そのような当事者が存在する場合には認可要件が適用されるとしている。他方、活動が真に分散化されており支配的な主体が存在しない場合には、認可要件を課す対象が存在しないことになる。

 この考え方は、EU MiCAガイドライン第17項のパラメータ設定者責任論と通底する発想である。英国においても、アルゴリズムやスマートコントラクトを通じてサービスを提供する場合、その背後に支配的な意思決定者が存在すれば、当該者に規制上の責任が帰属するという考え方が採用されている。

 ただし、英国規制では、パラメータ設定者等の具体的な知識・能力要件までは明示されていない。この点において、ESMAガイドラインはより先進的かつ詳細な規律を提供しているといえる。

8.4 消費者向け地理的境界の設定

 HM Treasury草案の特徴的な要素として、consumer-facing geographic perimeterの設定がある。英国の消費者にサービスを提供する海外事業者は、原則として英国での認可を取得しなければならない。これは、EU MiCAにおける第三国事業者規制とも共通する課題意識を反映している。

 金融プロモーション規制においても、英国消費者に「効果を及ぼす可能性のある」通信は、事業者の所在地を問わず規制対象となる。この域外適用の原則は、グローバルに展開する暗号資産サービス提供者にとって重要な実務上の考慮事項である。

8.5 ステーキングおよびステーブルコイン規制

 2025年1月31日以降、英国では「qualifying cryptoasset staking」が集団投資スキーム(CIS)規制から除外された(SI 2025/40)。これは、ステーキングの法的性質に関する不明確性を解消し、CASPがステーキングサービスを提供しやすい環境を整備する趣旨である。

 また、ステーブルコインについては、FSMA 2023により「digital settlement assets」の枠組みが創設され、システミックなステーブルコイン・アレンジメントに対するBank of Englandの監督権限が整備された。発行およびカストディは規制対象となるが、Payment Services Regulations 2017の改正による決済サービスへの組み込みは当面見送られている(2024年11月の政府発表による)。

8.6 Property (Digital Assets etc) Bill

 英国議会では、デジタル資産が動産権の対象となりうることを確認するProperty (Digital Assets etc) Billが審議中である。本法案は、Law Commissionの勧告を受け、暗号資産が「things in possession」でも「things in action」でもない第三のカテゴリーの動産として財産権の客体となりうることを明確化するものである。

 この立法動向は、暗号資産をめぐる私法上の法的基盤を強化し、担保設定、強制執行、倒産手続における取扱いを明確化する意義を有する。規制法と私法の両面から暗号資産の法的インフラを整備するという点で、英国のアプローチは包括的であるといえる。

9 日本法・日本の金融サービスにおける示唆 三法域比較の視点から

 EU MiCA、英国FSMA 2023関連規制、および日本法を比較すると、暗号資産規制の発展段階と規制哲学の相違が浮き彫りになる。

9.1 規制枠組みの比較

 日本においては、資金決済法に基づく暗号資産交換業者登録制が中心的な規制枠組みを構成している。2017年4月1日から施行されたこの制度により、国内で暗号資産と法定通貨の交換サービス等を行うには登録が必要とされる。2020年改正では「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更も行われた。

 これは、EU MiCAのような包括的な暗号資産市場規制とは異なり、交換・管理業務に焦点を当てた枠組みである。暗号資産のスポット取引については、金融商品取引法上の「金融商品」には原則として該当しないため、投資助言業規制の直接適用はない。ただし、暗号資産関連デリバティブ取引等については金融商品取引法の規律対象となりうる点に留意が必要である。また、金融審議会において暗号資産規制の見直し議論が進行中であり、規制の射程が拡大される可能性がある。

 英国においても、現行法上、暗号資産(security tokenおよびe-money tokenを除く)は原則として「specified investment」に該当せず、投資助言規制の対象外である。ただし、HM Treasury草案が成立すれば、qualifying cryptoassetsおよびqualifying stablecoinがspecified investmentとなり、規制対象活動が大幅に拡大する。

9.2 人材の専門性確保に関する比較

 MiCAガイドラインが提示する知識・能力要件は、三法域の中で最も詳細かつ体系的である。情報提供スタッフに80時間、助言スタッフに160時間の研修を例示し、継続的専門能力開発(CPD)義務を課す点は、金融サービス人材の質を制度的に担保する先進的なアプローチである。

 日本では、金融商品取引業の世界において外務員資格制度や日本証券業協会による研修義務付けが確立しており、保険募集人にも資格試験が課されている。暗号資産分野でも、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)による自主規制ルールが存在するが、人材の知識・能力要件を詳細に定めた基準は、MiCAガイドラインほど精緻ではない。

 英国においても、現時点では暗号資産固有の知識・能力要件は整備されておらず、今後のFCA規則策定が注目される。

9.3 AI・自動化サービスへの規律

 三法域を通じて、AI・自動化サービスへの規律は重要な政策課題として認識されている。MiCAガイドライン第17項の自動化サービスに関する規定は、この課題に対する具体的な解を提示した点で先駆的である。

 日本においても、金融庁がAI・機械学習の金融サービスへの適用に関する検討を進めており、2024年以降、AIガバナンスに関するガイドライン案の議論が活発化している。特に、生成AIの金融サービスへの適用においては、ハルシネーション・リスクへの対応が重要な論点となっている。

 英国FCAもDiscussion Paper(DP24/4およびDP25/1)において、暗号資産取引プラットフォーム、仲介業者、レンディング・ボローイング、ステーキング、およびDeFiに関する規制アプローチを検討しており、自動化サービスへの対応が含まれている。

9.4 実務への示唆

 日本の暗号資産事業者にとって、ESMAガイドラインおよび英国規制動向から得られる示唆は以下のとおりである。

 第一に、人材育成プログラムの高度化である。MiCAガイドラインが例示する研修時間や知識領域は、日本の事業者が自社の研修プログラムを設計・評価する際のベンチマークとなりうる。特に、技術的知識(コンセンサスメカニズム、スマートコントラクト等)と金融規制知識の融合は、今後の人材要件として参考になる。

 第二に、AI・自動化サービスのガバナンス体制の整備である。自動化システムの内容決定やパラメータ設定に責任を負う者を明確化するアプローチは、日本の事業者がロボアドバイザーやAIチャットボットを導入する際の組織設計に示唆を与える。エンジニアリング部門とコンプライアンス部門の連携強化、および技術者への金融規制教育が重要となる。

 第三に、グローバル規制への対応準備である。EU域内またはEU顧客向けにサービスを提供する場合、MiCA遵守が必要となる。また、英国消費者向けサービスについても、FSMA 2023関連規制への対応が求められる。三法域の規制動向を継続的にモニタリングし、グローバルなコンプライアンス体制を構築することが肝要である。

10 おわりに

 本稿では、ESMAの知識・能力ガイドラインを中心に検討しつつ、英国における規制動向との比較を行った。欧州の規制動向は、しばしば世界の規制モデルとなる。技術を理解しない者が、技術を用いた商品を売ってはならないというESMAのメッセージは、日本の事業者にとっても対岸の火事ではない。

 英国は、EU離脱後の独自路線を模索しながらも、活動ベースの規制アプローチ、消費者向け地理的境界の設定、およびDeFi・AI規制における機能主義的アプローチにおいて、EU規制との共通点を多く有している。両法域の規制発展を注視することは、日本の規制当局および事業者にとって有益である。

 今後、AIエージェントによる自律的な取引や助言が普及するにつれ、自動化サービスにおける責任帰属の問題は、暗号資産に限らず、金融全般、ひいてはAIサービス全般における重要な法的論点となっていくであろう。実務担当者は、自社の研修プログラムや人材要件が、この新しい基準に見合っているか、今一度点検する必要がある。

 暗号資産の持つ不確実性・リスクを低減しつつイノベーションとの両立を図るには、最終的には人間の知恵と倫理観に頼る部分が大きい。本ガイドラインはその現実を踏まえ、技術と人間の最適な協働による持続可能な市場形成に向けた一歩と評価できよう。

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参考資料

【EU関連】

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https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/2025-07/ESMA35-1872330276-2380_Final_Report_on_MiCA_Guidelines_on_knowledge_and_competence.pdf

European Securities and Markets Authority (ESMA), "Guidelines for the criteria on the assessment of knowledge and competence under the Markets in Crypto Assets Regulation (MiCA)" (ESMA35-24871704-2922), January 2026.
https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/2026-01/ESMA35-24871704-2922_Guidelines_for_the_criteria_on_the_assessment_of_knowledge_and_competence_under_MiCA.pdf

ESMA, "Knowledge and competence of staff providing information on crypto-assets: ESMA publishes translations of the guidelines under MiCA" (Press Release), 28 January 2026.
https://www.esma.europa.eu/press-news/esma-news/knowledge-and-competence-staff-providing-information-crypto-assets-esma

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https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1114/oj/eng

Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA) - ESMA Overview
https://www.esma.europa.eu/esmas-activities/digital-finance-and-innovation/markets-crypto-assets-regulation-mica

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https://boletininternacionalcnmv.es/en/esma-en/digital-finance-en/esma-guidelines-on-the-criteria-for-assessing-knowledge-and-competence-under-the-regulation-on-markets-in-crypto-assets/

Norton Rose Fulbright, ESMA publishes official translations of the guidelines on knowledge and competence under MiCA (Global Regulation Tomorrow, Jan 30, 2026)
https://www.regulationtomorrow.com/france/esma-publishes-official-translations-of-the-guidelines-for-the-criteria-on-the-assessment-of-knowledge-and-competence-under-mica/

【英国関連】

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https://assets.publishing.service.gov.uk/media/680f6387faff81833fcae94b/0302425_draft_RAO_SI.pdf

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https://www.legislation.gov.uk/uksi/2025/17/pdfs/uksi_20250017_en.pdf

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Regulation Tomorrow, "Government provides update on approach to regulating cryptoassets" (25 November 2024).
https://www.regulationtomorrow.com/eu/government-provides-update-on-approach-to-regulating-cryptoassets/

House of Commons Library, "Events leading to the UK's exit from the European Union" (Research Briefing CBP-7960, 19 January 2021).
https://commonslibrary.parliament.uk/research-briefings/cbp-7960/

【日本関連】

金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」
https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index.html

金融庁「暗号資産に関連する事業を行うみなさまへ」
https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index_2.html

e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=421AC0000000059_20220610_504AC0000000061

金融庁金融審議会「暗号資産制度について」(2025年7月31日)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/angoshisanseido_wg/gijishidai/20250731/04.pdf

金融庁金融審議会ワーキング・グループ「事務局説明資料(暗号資産に係る規制の見直しについて)」(2025年9月2日)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/angoshisanseido_wg/gijishidai/20250902/05.pdf

(マガジン)「AIと法-雑感」

 ※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。

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