EMFA第18条宣言機能ガイドライン / メディアの自由とプラットフォーム規制の交錯 雑感
Ⅰ EMFA第18条と宣言機能の実装
欧州委員会は2026年2月5日、欧州メディア自由法(Regulation (EU) 2024/1083。以下「EMFA」という)第18条第1項に基づくメディアサービス提供者向け宣言機能(declaration functionality)の実装に関するガイドラインを公表した〔注1〕。EMFAは2024年4月に採択され、2025年8月からその大部分の規定が適用されている。第18条は、超大規模オンラインプラットフォーム(Very Large Online Platforms。以下「VLOP」という)によるコンテンツモデレーションからメディアサービス提供者を保護するための仕組みを定めた条文である。
EMFA第18条の骨格を確認しておく。VLOPは、メディアサービス提供者が自らの属性を宣言するための機能を実装しなければならない。宣言事項は第18条第1項第1段(a)号から(g)号に列挙されており、メディアサービス提供者としての地位、EMFA第6条第1項の遵守、加盟国・政党・第三国からの編集上の独立性、規制監督への服属または共同規制・自主規制メカニズムへの加入、AI生成コンテンツに対する人間の審査または編集上の管理の実施、法的名称と連絡先、関連規制当局の連絡先が含まれる。宣言を行ったメディアサービス提供者は、VLOPの利用規約に基づくコンテンツ削除に先立ち、事前通知を受ける権利、理由の説明を受ける権利、および削除の発効前に24時間の対応期間を得る権利を有する〔注2〕。
筆者がこのガイドラインに関心を持つのは、デジタルサービス法(Regulation (EU) 2022/2065。以下「DSA」という)が前提とする利用者の平等取扱いの原則に対し、メディアサービス提供者に明確な特権的地位を付与する仕組みを、具体的な機能設計の水準にまで落とし込もうとしている点にある。以下では、ガイドラインの内容を確認したうえで、その法的含意を検討する。
1 自己申告制の構造と濫用防止
ガイドラインは、宣言機能の設計について詳細な指針を示している。宣言機能はVLOPのインフラの一部として統合され、アカウント設定等を通じて容易に発見・アクセスできる目立った機能として実装されなければならない(ガイドライン13項)。形式面では、VLOPがサービスを提供する各加盟国の全公用語で利用可能な標準化された質問票として設計される(同14項)。(a)号から(e)号についてはチェックボックス形式(pre-compiled checkbox list)、(f)号および(g)号については入力欄または添付機能による情報提供が想定されている。
注目すべきは、この仕組みが自己申告制に立脚している点である。メディアサービス提供者は、各宣言事項を自ら充足すると申告するだけでよく、事前の第三者認証は求められていない。複数アカウントを運用するメディアサービス提供者が一括して宣言できる機能の提供も推奨されており(同15項)、手続の簡素化が徹底されている。他方で、ボットや自動化ソフトウェアによる宣言の自動送信を防止するため、日付印・電子署名・CAPTCHAまたは同等のプロトコルの実装が求められる(同16項)。メディアサービス提供者は補足情報を任意で添付できるが、添付の有無が宣言の完全性や拒絶事由に影響してはならない(同17項)。この任意性の強調は、宣言のハードルを低く保つことで小規模メディアやフリーランスのジャーナリストのアクセスを確保する趣旨と解される。
ここで問いとなるのは、自己申告制が信頼に足る選別機能を果たしうるかである。ガイドラインは、VLOPがEuromedia Ownership MonitorやMAVISEといったEU域内の公開データベースを参照して宣言内容を検証しうるとしている(同24項・25項)。しかし、これらのデータベースへの参照は義務ではなくVLOPの裁量に委ねられている。宣言の受理・拒絶・無効化の判断は第18条第1項の宣言事項にのみ基づいてなされるべきであり、メディアサービス提供者のコンテンツがVLOPの利用規約に適合するか否かに基づいてはならないとされている(同43項)。自己申告の実効性は、結局のところ、事後的な検証メカニズムの機能にかかっている。
2 合理的な疑いと検証プロセス
ガイドラインが定める事後的検証メカニズムの中核は、第18条第1項最終段に規定される「合理的な疑い」(reasonable doubt)に基づく照会制度である。VLOPが、メディアサービス提供者による(d)号の宣言内容、すなわち規制監督への服属または共同規制・自主規制メカニズムへの加入について合理的な疑いを抱いた場合、関連する国内規制当局または共同規制・自主規制メカニズムに確認を求めなければならない。
ガイドラインは、合理的な疑いが生じる場面を具体化している。報道評議会への加入情報が公開されていない場合、または宣言で指定された国内規制当局の公開登録簿にメディアサービス提供者の名前が見当たらない場合がこれにあたる(同51項)。照会を受けた国内規制当局は、当該メディアサービス提供者が編集責任に関する規制要件に服しているか否かを確認し、その際には適用される国内法令、管轄の基準、国内登録簿への登載の有無、規制権限の範囲が考慮される(同52項)。
さらに、市民社会団体およびファクトチェック団体の関与が制度化されている。VLOPは、European Digital Media Observatory(EDMO)やEuropean Fact-Checking Standards Network(EFCSN)等の団体と協力し(同57項)、これらの団体が宣言に関する問題を指摘するための専用チャネルを設置すべきとされる(同58項)。市民社会団体からフラグが提出された場合、VLOPは国内規制当局または共同規制・自主規制メカニズムに確認を求めなければならない(同46項)。プラットフォーム単独ではなく、外部の専門機関や市民社会を巻き込んだ重層的な監視構造を構築しようとする設計思想が読み取れる。
筆者がこの仕組みについて懸念するのは、共同規制・自主規制メカニズムの発達度が加盟国間で大きく異なるという現実である。ガイドラインもこの非対称性を認識し、European Board for Media Services(以下「メディア委員会」という)が各国の取り組みの発展を促進・調整すべきだとしている(同33項)。しかし、メディア委員会による調整がどの程度の実効性をもちうるかは現時点では不明確であり、自主規制体制が十分に整備されていない加盟国のメディアサービス提供者は、(d)号の宣言に対する合理的な疑いが生じやすく、宣言の受理が遅延するリスクがある。
Ⅱ AI生成コンテンツと編集責任
ガイドラインのなかで筆者が特に検討したいのは、第18条第1項第1段(e)号に関する規定、すなわちAI生成コンテンツの取扱いである。
1 AI利用の禁止ではなく人間の介在の要求
同号は、メディアサービス提供者が「人間の審査または編集上の管理(human review or editorial control)に服させることなく、AIシステムによって生成されたコンテンツを提供しないこと」の宣言を求めている。ガイドラインは、この規定がAI法(Regulation (EU) 2024/1689)第50条およびそれに基づくガイドライン・行動規範を妨げるものではないことを明示したうえで(同37項)、メディアサービス提供者がAI生成コンテンツに対する人間の審査の慣行について、任意で追加情報を提供できるとしている(同39項)。たとえば、AI生成コンテンツの編集審査を担当する特定の機能や役職の存在を示すことが例示されている(同40項)。
EMFA第18条の保護は、AIシステムによって生成または操作されたコンテンツを含むメディアサービス提供者のすべてのコンテンツに及ぶが、それはメディアサービス提供者が当該コンテンツを宣言に示したとおり人間の審査または編集上の管理に服させている場合に限られる(同41項)。
2 「何が書いたか」ではなく「誰が責任を負うか」
ここから読み取れるのは、EMFAにおける保護の核心が、コンテンツの生成手段ではなく、生成されたものに対する責任の所在にあるという設計思想である。AIが生成したテキストであっても、人間が編集上の判断を行い、責任を持って世に出すのであれば、それは保護されるべきメディア活動となりうる。逆に、人間の関与なきAI生成コンテンツの機械的配信は、たとえニュースの体裁をとっていても保護の対象外となる。
生成AIの普及に伴い、メディアの現場では記事の下書き生成、画像の加工、見出しの候補生成など、多くの場面でAIが日常的に利用されている。この設計は、AI利用そのものを保護の欠格事由とするのではなく、人間の編集責任の存在を保護の要件とする構成であり、メディアの自由と情報の信頼性の両立を図るうえで妥当な線引きであると筆者は考える。プラットフォーム上での特権的な保護を受ける対価として、Human-in-the-loopの所在を明確化することを求めていると解される。
ただし、人間の審査や編集上の管理がどの程度のものであれば(e)号の要件を充足するのか、ガイドラインの記述からは必ずしも明確でない。ガイドラインが示すのは任意の補足情報として組織内の担当機能や役職の存在を示しうるという例示にとどまり(同40項)、具体的な基準の提示には至っていない。今後、AI法第50条との整合的な解釈の形成を含め、運用のなかで基準が具体化されることが期待される。
Ⅲ DSAとの緊張関係
EMFA第18条の法的性質を理解するうえで避けて通れないのが、DSAとの関係である。DSAは、オンラインプラットフォームの利用者を平等に取り扱うことを基本原則としている。第17条はコンテンツ制限時の通知・理由説明義務を、第20条は内部苦情処理制度を規定し、これらはすべての利用者に等しく適用される。
EMFA第18条は、この利用者平等原則に対する明確な例外を設けた。メディアサービス提供者は、コンテンツ削除の事前通知を受け、24時間の対応期間を得る。苦情は優先的に処理され、繰り返しの不当な制限に対してはVLOPとの対話を要求する権利を有する(EMFA第18条第5項)。メディアサービス提供者は、この対話の結果をメディア委員会および欧州委員会に通知し、メディア委員会に意見の発出を求めることもできる(同第6項)。
この特権的地位の付与は、メディアの自由と多元主義の保護という目的に照らせば正当化しうる。VLOPのコンテンツモデレーションが、専門的な報道基準に従って作成されたコンテンツの流通を不当に妨げるリスクは現実に存在するからである。EMFA前文4項が、グローバルなオンラインプラットフォームはメディアコンテンツへのアクセスを中抜きし、偏向的なコンテンツや偽情報を増幅する傾向を持つビジネスモデルを有すると指摘しているのは、この認識の表れである。
他方で、この特権的地位が偽情報の拡散者によって濫用される可能性は否定できない。EMFA前文53項が、ガイドラインは宣言機能の潜在的な濫用リスクを最小化することに寄与すべきであると明示しているのは、まさにこの緊張の表れである。ガイドラインの適用範囲について、欧州委員会はEMFA前文53項を踏まえ、メディアコンテンツへのアクセスを提供するVLOP、すなわち編集上かつ専門的な基準に従ってメディアサービス提供者が制作した番組または報道出版物を含む情報を保存し公衆に配信するVLOPに限定されるとの解釈を示した(ガイドライン10項)。オンラインマーケットプレイスやアダルトコンテンツプラットフォームのように、この規定の目的にとって不均衡または無関係となるVLOPは対象外とされている。
European Broadcasting Unionがガイドラインの公表を歓迎しつつも、主要プラットフォームが遵守を遅延させ続けていることに懸念を示しているのは〔注3〕、法規範としてのEMFA第18条と実務上の実装との間の乖離が、施行から半年を経てなお解消されていないことを端的に示している。
Ⅳ むすびにかえて
EMFA第18条ガイドラインは、プラットフォームによるコンテンツモデレーションとメディアの自由という二つの要請の調整を、具体的な機能設計の水準にまで落とし込もうとする文書である。自己申告制を基盤としつつ、合理的な疑いに基づく照会制度、市民社会団体の関与、透明性の確保といった複層的な仕組みによって濫用を抑止しようとする設計は、理論的には均衡のとれたものといえる。
AI生成コンテンツに関する(e)号の要件については、コンテンツの生成手段ではなく編集責任の所在を保護の基準とする設計思想は妥当であるが、人間の審査の具体的な水準が明確化されていない点は将来の紛争の種になりうる。
筆者が指摘しておきたいのは、この仕組みが前提とする制度的インフラの不均一性である。共同規制・自主規制メカニズムの発達度は加盟国間で大きく異なり、ファクトチェック団体の活動基盤も一様ではない。ガイドラインが「VLOPの柔軟性」を繰り返し強調するのは加盟国間の相違に配慮した結果であろうが、同時に、実装の一貫性を損なうリスクを内包している。欧州委員会はガイドラインの実施状況を監視し必要に応じて改訂を行うとしており(同64項)、EMFA第19条第1項に規定される構造化された対話の枠組みが、プラットフォーム・メディアサービス提供者・市民社会の三者間で実質的に機能するか否かが、この制度の成否を分けることになるであろう。
(参考)
〔注1〕 European Commission, "Commission guidelines on the implementation of the declaration functionality for media service providers pursuant to Article 18 (1) of Regulation (EU) 2024/1083 (European Media Freedom Act)", C(2026) 594 final, Brussels, 5.2.2026.
〔注2〕 Regulation (EU) 2024/1083 of the European Parliament and of the Council of 11 April 2024 establishing a common framework for media services in the internal market and amending Directive 2010/13/EU (European Media Freedom Act) OJ L, 2024/1083, 17.4.2024, Art. 18.
〔注3〕 Digital Watch Observatory, "EMFA guidance sets expectations for Big Tech media protections", 10 February 2026 (https://dig.watch/updates/eu-emfa-article-18-media-protection-guidelines, last visited 2026年2月12日).
他にもEU AI法等については以下にまとめているため、必要あらば目次を参照いただきたい。
(マガジン)「AIと法-雑感」
※目次は以下を参照
note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。
