「憧れ」だけでは食べていけない…~鉄道員離職問題から考える~
皆さん、こんにちは。
鉄道員Kです。
この春、参加させていただいているSaka.先生のメンバーシップ『Saka.の教室』の「春のバトンをつなげよう!」企画に参加させていただき、こちらの記事を書かせていただきました。
おかげさまで様々な方に読んでいただき、温かいコメントも数多く頂戴することができました。改めて御礼申し上げます。
しかしながら・・・この記事を書きながら、同時に私は非常に「虚しい気持ち」に苛まれていました。
ちょうどこの記事を書いていた頃、職場でずっと懇意にしていた先輩乗務員が突然退職されました。公私にわたってお世話になっていたこともあり、退職前に一緒に呑みに行ったのですが、そこで退職される理由などを聞いている内に、この業界で働く人々の「リアル」についても伝える必要があるのではないかと思いました。
一般的に退職の理由は様々で、それは私たちの業界とて例外ではありませんが、「辞めたくないのに辞めるという選択を取らざるを得ない」という事例も私たちの業界では数多く存在します。
今回の記事では「鉄道員の相次ぐ離職」にスポットをあてることで、今の鉄道業界が抱える「闇」を改めて考えていきたいと思います。
・なぜ鉄道員は「退職」していくのか
・働き方がしんどい
鉄道は24時間、365日動いています。そのため、駅係員であれば朝出勤したら翌日の朝まで、乗務員でも大抵は泊まり勤務で行路を組まれるのが一般的です。当然泊まり勤務中は帰宅できませんし、仮眠ができるのはよくて6時間、大抵は3,4時間程しか眠れません。
また、勤務中はカスハラめいた顧客対応など、心身すり減る機会が大変多いです。
当然体への負荷は大きいですし、入社したての新人の中にはこの勤務体系が耐えられなくて早々に退職してしまう者もいます。
この点について私は「入社する前にこんな勤務体系なことくらいはわかるだろうに・・・」とは思いますが、聞いていた話と実際の働き方にギャップがあるなんて話はよく聞きますし、早めに見切りをつけること自体は否定しません。
また、体への負荷が大きいため、割と「早死に」しやすい職業であるということも付け加えておきます。(実際、私も定年直後に亡くなられた先輩のお葬式に何度も参加しました・・・)
なので、これから就活などでこの業界を目指す方には改めて言っておきます。
「マジで泊まり勤務は体を蝕みますし、長生きしたければ勤める業界ではありません」
・給与待遇が悪い
以前、こちらの記事で鉄道員のお財布事情について触れたことがあります。
(もしご興味あれば、ご覧ください!)
このときの記事でも触れましたが、鉄道員の給与は高くありません。
大手私鉄と言われている鉄道であっても基本給が20万円を下回っていることもざらですから、地方私鉄などはもっと低い水準です。
(↓参考までにこんな記事を見つけましたのでリンクを貼ります。)
(これはあくまでも一例です)
この金額を見て皆さんが「多い」と思うか「少ない」と思うかはわかりませんが、私は見たときに正直「そら、人手不足にもなるわな」としか思いませんでした。
私たち鉄道員が食べていけるのは、「諸手当」があるからです。決して基本給だけでは食べていけません。
ところが、最近では諸手当が必要となる勤務そのものを縮小する動きも出てきています。
こちらの記事内では、前項でお話した「泊まり勤務を敬遠する若年層に配慮して泊まり勤務を縮小する」とコメントしていて、さも働き方改革をしていますと言わんばかりの姿勢を見せていますが、これでは逆に「稼げない」となって辞めていく離職者を増やしていくだけだよね…と思ってしまいます。
要するに鉄道従事者に「余計なお金を払いたくない」という企業の姿勢とすら受け取ってしまいそうです。
ちなみに、乗務員の見習中は諸手当が一切ないため、基本給だけで何ヵ月も生活していくことになるため、生活は火の車になります。
私も前の会社で運転士見習いをしていたとき、実家から遠く離れて一人暮らしでしたので親からお金を借りました・・・。
社会人なのにお金を借りないと生活していけないことへの恥ずかしさ、情けなさは今でも時折思い出します・・・。
では、そもそもなぜ基本給が低いのか。
これはあくまで私の推測ですが、大きく2つ理由があると思います。
1つ目は、これまで会社側が私たち鉄道員のことを「代わりはいくらでもいる存在」と思ってきたことです。
私達の仕事は、子供の頃から憧れる人も多く、就職活動の際にも数多くの人が受験していきます。すなわち「なりたいという需要」が一定数以上あるため、多少辞められたとしても、新卒採用・既卒採用でその数をすぐに補えるという楽観的な見方があったのではないかと私は思っています。
2つ目は「対外的な視点」です。
「お客様」というのは実に目ざといもので、私たちのようないわゆる「エッセンシャルワーカー」の給与の額にシビアな見方をしてきます。
業界は異なりますが、「市営バスの運転手の給料が高すぎる!!」と市民が挙げた声を「真摯に」受け止めた自治体が、給与をカットした結果、バス運転手不足で苦しんでいる・・・なんて話もありましたよね(どことは言いませんが・・・)
我々、鉄道業界もその「公共性」の観点から、あからさまに高い金額を基本給として設定することを避けてきた傾向がありました。その分、諸手当を積むことでトータルの金額をそれなりの金額にしてきたというわけです。
しかし、昨今の人手不足や若年層の「生き方そのものの価値観の変化」、さらには急速な物価高など、働き手を巡る環境が変化するなかで、旧態依然の給与体系でいられたら、そら働く方もより安定してお給料をもらえる仕事なり、より高い給与の同業他社にシフトしようとなりますよね・・・。
実際、同業他社でもある一定以上の水準の基本給の会社には、人が集まりますし、私の会社からも数多くの優秀な人材が同業他社に流れています。
そりゃ、生活がかかってくるとなると、まともなお給料がもらえない会社にいては未来はありませんからね。
・プライベートがなくなる
先述の通り、我々がまともなお給料を手にしようと思ったら、諸手当で積み重ねていく必要があります。
諸手当の中には、「時間外手当」というものがあります。そう、いわゆる「残業」です。
一口に「残業」といっても様々です。
純粋に休日に出勤するのはもちろんのこと、明け番で午前中に乗務終了してからそのまま引き続いて夕方、夜まで乗務する、あるいはそのままもう1泊するなんてこともありますし、それ以上さらに連泊していく・・・なんてこともあります。
(実際、私も今年の年始は1月2日に出勤してから、1月6日の朝までずっと会社に泊まり込んでいましたから・・・。)
これ、会社側からしても新たな要員を確保するより、既存の人間に時間外をさせた方が人件費を削れるということもあってか、どこの会社でもざらにあります。(程度の差はありますが・・・)
私も、家庭がある関係で毎月かなりの時間外勤務をしている方ですが、確かにお給与はそこそこの金額になります。
でも、その代わり「プライベート」は完全に犠牲になります。趣味の時間(私の場合はこのnoteでの投稿もです…)だけでなく、家族と過ごす時間すらままならなくなります。
家族や友人、恋人などとの時間が確保できないという環境は、特に今の若年層の方々には耐えられないことだと思います。
私も残業がかさんできたときなどは、休日の乗務で家族連れが楽しそうにしているのを見ると「俺、何しているんだろうな…」と虚しい気持ちになることもあります。
公私のバランスが重んじられる現代において、残業ありきのシフトを組まざるを得ない現状が、離職者をさらに増やす悪循環に陥らせています。
・一人当たりの業務量と「責任」だけが増えている
人手不足が叫ばれている中、会社側も「人手不足の解消」は急務であると言えます。それを否定するつもりはありませんが、今の鉄道員一人一人に対して「求める業務量と責任」が圧倒的に増えています。
例えば「ワンマン運転」。これ、単純に運転士一人になるんでしょう?と思っている方が多いんですが、これ相当な「負担」です。
(ちなみにワンマン運転の是非については、今後きちんと記事を書く予定ですので、しばしお待ちください!)
他にも、乗務員に「本社での事務仕事」「駅係員業務」等を兼務させる会社も多数あります。
乗務員の仕事は単調に見えますが、勤務中は気を抜くことが出来ないため、かなり神経を使っています。そのため、肉体的・精神的疲労が多いです。
にもかかわらず、そこに加えて各種業務を兼務で担わせるなど、「安全を軽視」しているとしか思えない所業であると言えます。
聞こえの言い言い方をすれば「マルチタスクをこなす人材育成」「様々な領域の仕事にチャレンジできます!」と言えるのでしょうが、裏を返せば「日々の安全運行を守る」ことはそれほど「重要な仕事ではない」ということなのでしょうか?
皆さんはどう思いますか?
・昭和気質の職場環境
職場環境。これも仕事をする上では重要ですよね。しかしながら、この点にも「闇」があります。
鉄道会社の現場は昭和気質、体育会系の雰囲気が根強く残っています。それは時に「パワハラ」の温床となります。
例えば休暇の申請、私は2社鉄道会社で勤務しましたが、1社目の時は年休を申請する際に理由を聞く上司がいました。そして「旅行に行くので…」などと言おうものなら「ものすごい嫌味」を言われました…。
あと、「休暇申請者が複数名いるときは若い奴は遠慮しろ!!」なんて平気で言う人もいました…。
(ちなみに、今の会社は快く休暇を受け付けてくれます。本当にありがたいことです…。)
また、1社目の監督職時代には他の乗務員が見ている前でものすごい叱責を受けたりすることもしばしばありましたし、人格を否定されるようなことも何度も言われました。最後の方は感覚がマヒしていました…(笑)。
ちなみに、「ハラスメント」と聞くと「上司と部下」がシチュエーションとしてはよく挙げられますが、我々の世界では「運転士と車掌」の間でもハラスメントはよくあります。
よくあるのは「無視」。こちらが話しかけても返事を一切返さない方というものです。一度組むと24時間近くを共にすることになるので、さすがに会話が一切ないはきついですよね…(笑)
そういう方と組んだ時は、「何もトラブルなく終わってほしい…」といつも以上に念じながら乗務しています。
あとは言いがかりをつけてくる運転士さんもいます。
一度あったのが、折り返し回送としてすぐに車庫に入る列車だったため、すぐに終われるように乗務員室の空調を切って乗務員室を交代したところ、乗務終了後に「なんで切ってんだよ!!ふざけんな!おまえ、アホなのか?」と休憩所にいる皆の前で叱責されたことがありました。
さすがにあの時は堪えましたね…。しばらく人間不信になりましたし。
ちなみにハラスメントをしてくる人はほぼ100パーセント、ベテランさんでかつ「女性には甘い」方が多かったです。
ちなみにこう書きましたが、今は世代交代も進んでいることや世相も鑑みてか、大抵の方は互いを尊重して働いています。
こうしたハラスメント行為をする方はごく少数となっていますので、近い将来過去の光景になっていくと思います…そう信じています。
・鉄道員の退職は食い止められるのか…(最後に代えて)
ここまで鉄道員の退職に至る要素について書いてきましたが、そもそも退職の波を食い止めることはできるのでしょうか?
私の意見は「このままでは無理」です。
鉄道員も人間です。無理な働き方を強いられたり、心身の健康を損なう、そして生活に不安を覚えるような業界でわざわざ働くほど「お人好し」ではありません。
鉄道員一人一人が守ってきている「安全・安定運行」に対して、会社側や利用客等が軽んじるような態度で応じるならば、我々も「離職」というカードを切らざるを得ないでしょう。
毎年、何人もの新入社員が入社しては数年もたたずに去っていくのを見ると彼らに職を変えるという選択を強いた会社や世間に腹も立ちます。
鉄道業界がこれからも生き残るためには、まず働き手である鉄道員たちを「守る」姿勢を会社も見せるべきですし、利用客の皆様にも今一度ご自身の振る舞い(車内マナーの遵守や、不正乗車をしないetc.)を考えていただければと思います。
それらがなされないのであれば、今後も人材の流出は止まりませんし、ひいては顧客サービスの低下は免れないと思います。
この業界の抱える「闇」である「人材流出」について触れましたが、これは現実です。
でもその一方で、やりがいや使命感をもって日々働く鉄道員も多く存在します。その証拠に今日、今この瞬間も数多くの列車が事故なく走っています。
どうか皆さんにこの現実を知ってもらったうえで、それでもなお多くの鉄道員がプライドを持って業務にあたっているということを知ってもらえたらと思います。
☆私のページでは、鉄道業界を巡る時事問題や、私の体験談といった鉄道業界の裏事情、さらには鉄道業界を目指す方向けのお話などを順次掲載したいと思っています。
もし、「こんな話題を聞いてみたい!」というテーマがありましたら、ぜひコメント欄で教えてください!よろしくお願いいたします。
