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値引き交渉される人、言い値で売れる人。名著に学ぶ「アンカリング」の罠

皆さまのセールスコンサルタント、ごりごりのおちびさんです。
いつもお読みいただきありがとうございます。

6月に入り、街やWeb上では少しずつ「サマーセール」や「ボーナスキャンペーン」といった文字を見かけるようになりましたね。
一方で連日の食品や日用品の値上げもあり、「少しでも安くお得に」という消費者心理がより一層働く時期です。

そんな世間の空気に飲まれ、ご自身で事業を営むクリエイターや個人事業主の皆さまも、「少し値引きをしないと買ってもらえないのではないか」と弱気になってしまう瞬間があるのではないでしょうか。

商談の最終盤で、適正価格を伝えた際にお客様からこう言われることはありませんか。

「うーん、予算オーバーですね。もう少し安くなりませんか?」

安易な値引きは、ご自身のブランド価値を毀損する最も危険な行為ですが、この交渉を断れば案件が流れてしまうかもしれないという葛藤は、非常に苦しいものです。

売り手と買い手、双方が陥る「アンカリングの罠」


実は、このような値引き交渉が常態化してしまう背景には、買い手と売り手の双方が陥っている「アンカリングの罠」が存在します。

まず、売り手である私たち自身が罠にかかっています。

「同業他社の相場がこれくらいだから」「ネットの平均単価がこれくらいだから」と、市場にある安い数字を自分自身のアンカーにしてしまい、適正価格を堂々と提示することに、自らブレーキをかけてしまっているのです。

そして、買い手であるお客様もまた罠にかかっています。

適正な比較対象がないまま金額だけを伝えられると、人間の脳は無意識のうちに見当違いな基準(過去の経験や、日常のまったく別の出費)を引っ張り出してきて、相対的に「高い」と思い込んでしまうのです。

人はモノの「絶対的な価値」を理解できない


この、人間が価格を判断する際の不合理なメカニズムを理解する上で、推奨したい一冊があります。

著者は本書の中で、人間はモノの「絶対的な価値」を測る能力を持っておらず、提示された数字を手がかりにただ引きずられるだけの生き物であると指摘しています。

例えば、「このプランは30万円です」 あなたが単にこの価格だけを提示したとします。

するとお客様の脳は、無意識のうちに「自分の日常生活の支出、例として数千円のランチや数万円の家賃」を比較のアンカーにしてしまいます。
結果として、「日常の出費と比べて高い」という極めて不合理なジャッジを下すのです。

これが、適正価格を提示しているにもかかわらず値引き交渉をされてしまう「アンカリングの罠」です。

では、ご自身の価値を適正価格で受注する売り手たちは、この罠をどう回避しているのでしょうか。
それは、自分の価格を提示する前に、お客様の脳内に『仮想のアンカー』を意図的に下ろしているのです。

たとえば、あなたがクリエイターであれば、単なる「制作費」として価格を伝えてはいけません。

お客様の脳内に「もし低単価な外注先に頼んでブランドイメージを毀損した場合の損失」や「大手代理店に発注した場合の数百万円というコスト」を先に意識させます。

あなたがコンサルタントであれば、単なる「面談の時給」で比較させてはいけません。

「自己流で数年間迷走した場合の機会損失」や「採用に失敗して無駄になる莫大なコスト」を基準値としてセットするのです。

浅い解釈と、トップセールスが操る「3つの深層メカニズム」


noteなどのプラットフォームを眺めていると、「アンカリング効果」を得意げに解説する記事を目にすることがあります。
ただし、その多くはいわゆる「定価に線を引いて、割引価格をお得に見せるテクニック」のような文脈で語られており、確かに日用品の小売などでは有効なセオリーでしょう。

しかし、ご自身の価値を適正価格で届けようとする際、行動経済学をそのような「値札の小細工」のように表層的に解釈してしまうのは、いささか危険です。
リテラシーの高い顧客層にはすぐに見透かされ、かえってブランドの品格を落とします。

実戦で人を動かすプロフェッショナルたちは、視覚的なトリックには頼りません。

我々はこの理論を人間の認知バイアスをハックする、強力な「3つの深層メカニズム」として使いこなしています。

① 無関連アンカリング
人の脳は面白いことに、価格とは全く「無関係の数字」であっても、直前に聞いた大きな数字に金銭感覚が引っ張られます。価格提示の前に「この技術の習得には1万時間かかっています」「過去に2,000人のデータを分析しました」など、無関係な大きな数字を会話に混ぜるだけで、直後の価格への抵抗感が無意識に薄れます。

② 精緻性のアンカリング
「30万円」とキリの良い数字を提示すると、相手は「25万円で」と大きな値引きを要求します。しかし「31万4,500円」と端数のある細かな数字を提示すると、相手は「厳密に計算された限界価格だ」と錯覚し、値引きの幅が極端に縮小します。

③ 自己アンカリング
最も強力な手法です。売り手が数字を出すのではなく、お客様自身の口から「もし自社でスタッフを雇ってやったら、総額で300万円くらいはかかりますね」と言わせます。人は他人の言葉には反発しますが、自分が発した言葉は否定できませんよね。

会話の中で「最強のアンカー」を自然に下ろす方法


比較の物差しを日常からビジネスの投資へとすり替え、これらの心理バイアスを的確に配置していく。

では、この高度な心理技術を「押し売り感なく、極めて自然な会話の中で」どうやってお客様に意識させるのでしょうか。

先日、私自身が64万円のコンサルティング契約を自腹で決断した際、見事なまでにこの深層の「アンカリング効果」を突かれました。

相手の担当者はいきなり64万円という数字を出さず、私の脳内にまず「1,800万円という莫大な仮想コスト」を、一切の違和感なくセットしました。

私が「なるほど、それなら64万円はむしろ安すぎるくらいですね」と完全に納得し、値引き交渉の「ね」の字も出さずに決済へと進んでしまったトークの全貌と心理設計については、こちらの記事で解剖しています。

あなたが情熱と時間をかけて作り上げた価値ある商品は、スーパーの夕方の特売品のように、数十円、数百円の単位で値踏みされるべきものではありません。

「いいものを作っている自信はあるのに、最後のお金の話になると、つい弱気になって値引きをしてしまう」 もしそんなもどかしさを感じているなら、それはあなたのスキルが足りないからではありません。

まずはご自身の脳に刺さった「相場」というアンカーを引き抜き、正しい「価格提示の構造」を知るだけでいいのです。

ご自身の価値を、妥協のない適正価格で届けたい方へ。
明日からの商談の景色を変えてみましょう。

ごりごりのおちびさん


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