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照射|幼きダヴィデの原罪|あわいの掌編集1|シロクマ文芸部《文庫本》

あの校庭の午後を、いまも思い出す。それがわたしの原罪だったのかもしれない。

文庫本をそっと手に取るたび、今でも胸裏が疼く。いや、そのざわつきは、むしろ深くなるばかりだ。

その頃、わたしの小学校には「青空文庫」という授業があった。晴れた日には名のとおり校庭の木陰で、雨の日には名に反して教室の硬い椅子の上で、図書室で借りたお気に入りの本を、静かに読む時間である。
ただ、実際には、どこで本を読んでもよかったので、活発なグループに属する者は校庭に飛び出し、物静かな者は、そのまま教室にいることが多かった。

悪がきのわたしは、その日も、太陽の下へまっさきに駆け出し、本を放り出して鉄棒にぶら下がり、モグラの穴をつついて、ただ遊んでいた。

その日、みっちゃんが校庭に出てきていたのは、なぜだったのだろう。その理由を、わたしは知らない。いつもなら、天気がよくても悪くても、教室の片隅にいるはずだった。そのことにちょっとだけ興味を持った。

みっちゃんとは保育園の送迎バスの同じ班で、仲が良いわけでもないのに、気づくといつも近くにいた。その頃からずっと同じ、肩につかない黒髪の、静かな子だった。

だから、それは、取るに足らない悪戯にすぎなかった。嗜虐心でもほの恋心でもない、名のつかない衝動。みっちゃんに何かをしてみたい──ただ、それだけだった。

忍び寄るわたしに、みっちゃんはあどけない笑みを向けただけだった。

「みっちゃん、こうやって、いーってしてさ……」

両の手を自分の口の両側に引っかけて引っ張り、わたしは言った。

「『あおぞら、ぶんこ』って、言ってみて」

みっちゃんは、ちょっとだけ首をかしげて、なんにも疑っていない顔で、細くて白い指を、自分の小さな口の両側にそっと掛けた。それから、どうしてだか、じっとわたしを見た。白いブラウスの黒猫のワンポイントが、闇夜のように黒かった。

風もないのに、みっちゃんの赤いスカートがゆらゆらして、そのとき、口の中に、急に汗のにおいがした。

「あおぞら──うんこ」

その瞬間だけ、時間がすごくゆっくりになった。
みっちゃんはぴたりと止まって、
それから、目があっちこっちに泳いで、
顔が上を向いたり下を向いたりして、
頬のあたりがすこし赤くなって、
それから耳朶まで真っ赤になって、
両の目から、水がぶわっと湧き出してきて、
それがまぶたのふちを越えて、ぽた、ぽた、と落ちた。

泣き声も出さず、手で隠しもしないで、みっちゃんは、ただ大きな涙を零した。

「みきが泣いてるぞっ」
「かっぷるがしゅらばだー」

そんなからかいが、どこかで上がった。そして、風もないのに、それがざわざわと響いた。

涙が地面に落ちて、大きな染みを作った。しばらくしてから、みっちゃんは、両の手をそっと下ろし、わたしをきっと睨んだ。それから何も言わずに、校舎の方へ歩いていった。

わたしはただ沈黙した。なにもできなかった。借りてきた文庫本を読もうとしたけれど、内容に集中できなかった。それはいつものことかもしれない。

次の青空文庫の日、空からは大粒の雨が落ちてきていた。みっちゃんは、いつものとおり教室のいちばん後ろの席で本を読んでいたが、ほとんど動かなかった。ただ、机に置いた手をじっと見つめていた。その手は、わたしの真似をした、あの細い指だった。

みっちゃんが、ほんの少しだけ顔を上げた。だけど、わたしの方はもう見なかった。
そのとき、世界がひとつ沈んだ。

彼女は町の外の中学校に進学して、それからの彼女をわたしは知らない。

目を瞑ると、あの熾火の赤は、風のない午後の匂いといっしょに揺れている。

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