早春のサラダガレットをどうぞ|連作小説⑩
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ナイトマーケットの注目度が上がったことで問題が起きた。
一部の人気店に行列が集中し、通路をさえぎってしまったのだ。容器や紙コップを道端に捨てる、けしからん輩も散見された。ほかの店や客からも苦情が相次ぎ、七生に報告を上げざるを得なくなった。
閑散期の桜並木通りを盛り上げようと立ち上がったグループは、実質的に百貨店がまとめ役となっていたからだ。
花歩の話を聞き、まず彼が発したのは「いいですね」だった。
「え? どういうことですか」
「目的を果たしたからです」
「はあ……」
眉を寄せるどころか笑みさえ浮かべている。これが百戦錬磨の智将というやつか?
警備員を雇ったりデパート店員をヘルプにまわしたりして、行列を整理。ゴミは購入した店に返すシステムに変更することに。
「おっきなゴミ箱を置くのかと思ってました」
「見栄えが悪いでしょう」
いくらイルミネーションで飾り立てても、桜の根もとをけがされては元も子もない。また来たい、すてきな空間だった、と愛着を感じてもらうための大局的視点。
百貨店で買い物をしたあと、近くのバーや飲食店で楽しむ。これをきっかけにナイトタイムエコノミー(夜間の経済活動)が形成されれば、街全体に活気ができ、よい循環が生まれるという。
「勉強になります!」と花歩は手帳にペンを走らせる。
「きみの引き出しの秘密はそれか」
ヤーンボミングのアイデアは母のおかげだし、とくに自分の手柄とも思っていない。
アナログすぎてどうかと思っていた習慣を、七生に認めてもらえるとは。やわらかな表情が一青に似ているな、とはじめて思った。
ナイトマーケット期間中は、デパートの閉店時刻を後ろ倒し。バレンタインフェアも同時開催。あれやこれやと気を配り、達成感もあるけれど肩や体が重い。
今の花歩には、とっておきの解決策がある。ぬくもりある木の扉を開けると、同じように憔悴したようすの店主がぽつん。
「さすがにつかれた……」
飾らない言葉が笑顔を誘う。キッチンカーだとやはり勝手がちがうらしい。
お皿の上で春の光が躍っている。
殻ごと挽いた国産そば粉がブレンドされているからか、一青の焼いたガレットは風味もよくパリッパリ。できたてを食べるのが最適だと言われあせる。
「やってみる?」と手招きされ、花歩がサラダ部分を担当することになったのだ。
美絵の育てたディルやベビーリーフ、水菜、ブロッコリースプラウトが、サーモンとクリームチーズを彩る。用意されていた素材を合わせるだけでそれなりに見えるが、仕上げの魔法に花歩は目をみはった。
ゆでたまごの黄身をおろし金で軽くおろし、ミモザの花のように散らす。
「わあ! 春だあ」
子どものような感想がもれた。
サラダガレットにぴったりの、オリーブオイルベース・自家製ドレッシング。
ベーコン、チーズ、たまごの定番ガレットもおいしい。サクサク音を立てもちもち噛み、心ほくほく。
「笑顔がうれしいよね」
居心地のよい人と食事をともにする。それだけで満ち足りた気持ちになる。
「花歩さんもお客さんの笑顔のためにがんばってる。同じだなーって」
料理の盛り付けと百貨店のウィンドウ・ディスプレイ。共通点の多さに今さらながら気づく。色彩センスと空間認知能力をほめられたが、大げさすぎるような……
「お世話になっているので、いつもありがとうチョコです」
モゴモゴいいながら渡すと、一青はやった~と大喜び。変に思われるかと心配していたから、安心して魂がふにゃふにゃになった。
「前から気になってたんだよね~、このブランド。ローチョコ知ってるなんて、さすが」
カカオを低温加工し酵素を生かす、栄養価の高いチョコ。会議にも出せるくらいのガチな関連資料を、パンフレットとセットで。
「すごっ。至れり尽くせり!」
へへへ、と照れ笑いがうつったかもしれない。
(つづく)

Eijyoさんの企画に参加いたします
オシャレすぎるお料理の数々
キラキラの世界観
指をくわえて眺めていたgingamomさんのnote
このたび、リアル「早春のサラダガレット」をつくってくださいました!
ヘッダー用にお写真をお借りする許可までいただき、有頂天です
ご縁に感謝です
ほんとうにありがとうごさいます(*- -)(*_ _)


▽第11話(今回のつづき)
▽前回のお話(第9話)
▽第1話~
#蕎麦食推進クラブさざれ石 #Eijyoさん #gingamomさん #賑やかし帯 #小説 #連作小説 #恋愛小説が好き
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