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便利屋修行1年生 ⑲鶴の恩返し 連載恋愛小説

 口をひらけば暴言になるのに、母は綾を手放そうとはしなかった。今思えば、依存していたんだろう。
 自分の不注意で事故を起こしてしまった絶望を、彼女はただ受け入れられなかっただけ。当たり散らす妹をなだめすかし、今では伯母が同居して面倒をみてくれている。

「借りだらけ。恩人だらけ、ほんとに」
「そういう感性だから、手を貸したくなる」
 交互に飲んだミネラルウォーターが信じられないくらいにおいしくて、綾はラベルを熟読してしまった。
「そういえば、あれどうなった?」
 恩返しするという約束をしていたのだ。
「えー、ただいま自分の羽根で織物をこしらえておりまして……」
「なにごまかしてんの」
「ごめんなさい。全然思いつかない」
 もちろん、沢口にもお世話になりっぱなしだから、なんとかしないと。

「気の済むまで、ってどう?」
 焼き肉をおなかいっぱい食べたい、ってことかな。
「なんか心ここにあらずだったから、改めて」
 この人の嗅覚きゅうかく、こわすぎる。
 綾は毛布を頭からかぶって、籠城ろうじょうする。閉じ込めていた感情もなにもかもさらしてしまい、完全に不利だ。
 沢口は毛布ごと抱き寄せ、綾の唇の位置を探りあてた。そして、口を当てながらくぐもった声で言う。
「綾が本当に嫌なら、やめるけど」

 まんまと誘導されるのもしゃくなので、隙を突いて彼を引きずり込んだ。
「負けず嫌い」
「ひねくれオトコ」
 悪口とは裏腹な、ひりつくキスを薄闇でした。
 お互いがお互いにふけっているなか、頭をぶつけないようしっかり支える彼の左手に、綾は参ってしまった。

(つづく)

#恋愛小説が好き #私の作品紹介 #賑やかし帯





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