やさしいミモザケーキをどうぞ|連作小説 最終話
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このところ、彼は疲れがとれないようで心配だ。「ふたりともがんばりすぎる傾向があるから、お互い気をつけようね」と言ってくれたばかりだけど。
約束の時間に扉を開け、花歩はくらりとした。
自分がどこにいるのかわからない。
輝く光と緑に覆われ、息苦しいほど。よくよく観察してみれば、やさしい木目調の店内は、たしかにヒナタボコのもの。
お店いっぱいにミモザの花枝がディスプレイされている。
鉢植えや花瓶、バスケットに飾られたもの。リースやスワッグが天井や壁を埋め尽くし、愛らしいミルクピッチャーの一輪挿しでテーブルセッティングも抜かりなく。あちこちに、ラメの入ったゴールドリボンがひらひらしている。
「お誕生日おめでとー!」
そろって声をあげ、わらわらと皆が出てきた。
誕生日3/8は、ミモザの日。ひなまつりパーティーやら桜フェス準備やらで、花歩自身もすっかり失念していた。
「まずは謝罪を。誕生日もホワイトデーも忘れてて、ほんっとにごめん!」
「ええ~? もうサイアクなんだけど~。1カ月遅れって大失態じゃん!」と花歩のかわりに一青に返事するありさ。
相性判断をしたいからと、雪野に生年月日をリサーチされていた。今になって一青の耳に入ったらしい。
大事そうにそっと渡されたのは、黄、紫、黄緑の春を束ねたブーケ。日本のミモザはそれほど香りがしないと聞いていたが、ふんわりとよい匂い。
「あ、それセンティッドゼラニウムっていって、香りのするハーブね」
我慢しきれず、の風情で美絵が解説。
「師匠、さすがです。こんな花束もらったことない!」
ハーブ農園オーナー兼フラワーレッスン講師は満足げ。
「ムチャなお願いしてくんのよー。ミモザをなんとか長引かせてくれって。こっちはプロですから? 最盛期をずらすくらいワケないんだけど」
どの枝にもまあるい黄色のほわほわがつき、こぼれんばかり。光が跳ねる、秘密の花園・ミモザ特化型。
視界にあふれる、いきいきとしたイエローに胸がいっぱい。ゆらゆらしているのは、にじんだ涙のせいだろうか?
「ありがとう、一青さん」
えへへと笑う一青を押しのけ、われもわれもと自分の役割を申告する面々。
「えー、デザインおよび設営は、わたくし関ありさが責任監修いたしました。いずれ家族ともなる浅からぬご縁ですので」
「ありさも、ほんとうにありがとう。……えっと、後半どゆこと?」
狙った獲物ははずさない。セリフともにエア銃を構えるありさ。
「傷心の某を狙い撃ち。ま、私にかかればちょろいもんですよ」
「ええ?」
「……てのは、盛ってるけども」
差し入れセレクトの絶妙さに着目したありさ。弟がつくったから、という単純な理由ではないと見抜いた。
「あの顔で甘党だよ、エモくない? そぶりも見せないっていうか、必死に隠してたわけ。ギャップにやられる乙女あるあるっすわ」
七生と遠距離恋愛になる点については、問題はないときっぱり。
「私、こう見えて行動力あるんだ」
「うん、見たまんま」
ありさの感覚では、日本全国、新幹線で1本。または飛行機でひとっとび。
「遠征慣れしてるからね~、自慢じゃないけど。国内だしヨユー」
ダテにフィギュアスケーターを推していたわけではなかった。
心がまるごと温泉につかった気分。
初めてヒナタボコに迷い込んだ、気を張りつづけ疲弊していたあの日を、はるか遠くに感じる。
イタリア式に、感謝の気持ちをミモザの花でつたえたかったらしい。皆に協力を仰いだら、あれよあれよと大仰に。これはプとポのつくアレにちがいあるまい、と大はりきり。
「本番のハードル自分で上げてどうすんの、いっちゃん」と母の雪野。
「マジか。どーしよ……」
本気で困り果てている一青と、彼を見守るやわらかな笑顔たち。
ああ、ほんとうにひだまりみたい。
「苦手をカバーするって、いいコンビじゃない? 厨房の棚がここまでおとなしいの、びっくりだし」
おかげさまで食材がかくれんぼしなくなりました、と一青は花歩を両手で示す。
「いやになったら、スパッと切ってさっさと次に行っていいからね。まだ若いんだから。そのかわり、私の友達ステータスはキープで」
友達の友達は、友達。友達の娘も友達。息子の彼女も友達。雪野の底抜けの明るさに救われる。
一青からのプレゼントは、ふわふわとかわいいミモザケーキ。
スポンジをおろし金でこまかくし表面にまぶすのだが、黄身の色が濃いものを使うのがポイントだとか。
なだらかなお山のてっぺんには、飴細工の王冠が。
やわらかなスポンジ、ほどよい甘さのカスタードクリームは、ほんのりラム酒を利かせたなめらかな舌ざわり。
「幸福感やばっ! この店こわっ」とありさは身を震わせ、皆を笑わせる。
本日のメニューはミモザイエロー縛り。
夏みかんピッツァは、モッツァレラチーズ、パンチェッタ、果肉、果皮の蜜漬けをトッピング。果汁とオリーブオイルをまわしかけいただく。ほろにがさと塩味、甘酸っぱさがなんともいえず新鮮だ。
塩レモンで和えたイカとほたてのマリネは、スライスレモンとイタリアンパセリでおめかし。ホタルイカと菜の花のペペロンチーノで、舌は春をめでる。
ゆで卵、厚焼き卵、卵サラダのトリプルたまごサンド。分厚いから、大きく口を開ける気合いが必要。まちがいのない、ぜいたく三重奏。
「まんぷくまんぞくまんきつ~」と将来のミュージカル俳優・樹里はオリジナルソングで歌い踊る。
ほっとできる場を育てたい。お客さんのおいしい笑顔に疲れもふっとぶ、と彼はよく語る。
「花歩さんの笑顔は別格。ミモザみたいな人だなって。光の粒でできてんじゃないかってくらいまぶしいし。一緒にいたらあったかい気持ちになる。好きだなあと思ってたけど、好きどころじゃない、……って、ふたりのときに言いたかったんですが」
うえーい、とありさ(シラフ)にグータッチさせられる彼。
とりあえずハグしとけ? と促され、テレテレ抱擁。つられて花歩も顔が熱い。
太陽がないと生きていけない。日向ぼっこするためには、日の光が不可欠です。
羞恥心が壊れてしまったのか、抱きしめたまま彼はささやく。
「やっぱガチじゃん!」
おませな樹里の合いの手に全員がずっこける。
来年もそれからも、ミモザのほほえむ頃になれば、この日を思い出すだろう。
ひとりで生きていくためにはしっかりしなきゃと、ガチガチに力が入っていた。孤独じゃないことに気づけたことは、大きな意味がある。
ずっとこうしていられたらいいな、という淡い願望ではなく、これからも続くよう努力しよう。できないことも補いあえば、なんとかなる。
泣いたり笑ったり、悩んだり立ち止まったり。甘い層や苦い層、いろんな味を積み重ねる日々。そんな歩みも、きっと悪くない。
またまたイベントごとになってしまった一青は、やっと腰を下ろした。
「しあわせをありがとう。これからもよろしくね」
家で特訓してきたオニオンスープを鍋で温め直す。ガーリックバゲットをのせて、彼の好きなパルミジャーノ・レッジャーノをいいというまで好きなだけ。
はじめて一緒に料理した、思い出の卵のミモザもはらはらと。スープを吸ってふやけたパンは、身も心も包み込む。
人生は、こうやって喜びをシェアするだけでいいのかも。
「感謝のほっこりスープをどうぞ」
とろける笑顔は、なによりのごちそう。
きまぐれな空が早すぎる夏を連れてきても、これからはへこたれずに立ち向かえる気がする。
(おわり)

▽ヘッダー画像はご厚意に甘え、gingamomさんにお借りしました
春の光あふれるすてきなお茶会記事、たまりません
ありがとうございました💛
ミモザケーキのレシピは、gingamomさんちでチェック(oゝд・o)


最後までおつきあいくださり、感謝いたします
最終話は長くなっちゃいました(*´σー`)エヘヘ

#gingamomさん #賑やかし帯 #連作短編 #連作小説 #恋愛小説が好き #飯テロ
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