リリと檸檬とアマリリス|掌編小説 風まかせ文芸部
1611字
うだるような夏の午後。森カフェのテラスで心地よい風を浴びながら、レモンスカッシュの氷を揺らすお客さんたち。
「炭も酸も、単独だと味気なくてまずそうだけど、炭酸となると、とたんにしゃわやかになるよねー」
「レモとネードだと意味不明だけど、レモネードって聞くと、一瞬でじゅわっと唾液が出るよねー」
「そこで区切る、おまえがイミフだわ。唾液腺が発達してる人は、噴水みたいに盛大にしゅわしゅわするらしい」
「ほんまかいな」
「眉唾ですな」
「うまい!」
リスのリリは、避暑地でまったリスる常連さんたちを笑顔で出迎えます。
友人のリルリルのお店でのバイトも板についてきました。
冬場は胡桃の木のほこらで営業していますが、この夏は店舗を拡張し、樹上席も新設しました。
日差しをさえぎる天然の葉っぱフィルター、おひるねを誘うような穏やかな木漏れ日。涼をふくんだ風に皆の会話も弾みます。
超一流のパティシエール、りらさまを師匠に持つリルリル。
今季イチオシのレモンスイーツは、味も見た目もさわやかです。
氷砂糖とお酢で仕込んだレモンシロップをグラスにたっぷり注ぎ、ソーダ水で割ります。つややかにきらめくレモンスライスを浮かべれば、レモンプールに飛び込みたくなるほど。
「おまたせしましたー。涼やかマカロンの三種盛り、瀬戸内レモン、シチリアレモン、ピスタチオ&レモンです。レモンタルトもお持ちしました。風味豊かなレモンスカッシュとどうぞー」
ころんとかわいいマカロンはイエローのグラデーションに黄緑が彩りを添え、歓声が上がります。
――のはずですが、このお客さんはふんふんお鼻を近づけ、全方向からスイーツをながめまわしています。
「……うむ。さっくり軽く焼成できている。焼き時間の見極めをマスターしたようだ。タルトも見栄えがいい」
「りらさま! いらっさいませ! 今、リルリルを呼んできますね」
濃厚なのに、ふわっと軽いクリームチーズ、果皮入りレモンクリーム。リルリルが何度もバターの配合を変えて焼き直していたのを、リリは知っています。
レモンタルトをホールでオーダーしたりらさまは、ちょいちょい手招きしました。
「ナイフを頼めるか。リリも一緒に食せ」
リリのしっぽがピンと先にお返事しました。
「えっ。いいんですか?」
「ああ。よくがんばっているじゃないか」
森の奥で汲んできた湧き水をせっせとお客さんに配り、言われる前におかわりを足す――その行動を認めてくれる、りらさま。
「ただ漫然と給仕するのではなく、扱うメニューの魅力を引き出そうと常に意識している。そなたの働きぶりこそ、すがすがしい」
思わぬお言葉に、おひげがふるふる動揺します。
「あ……ありがとうございます」
うれしさ半分、戸惑い半分。エプロンの紐をいじり、もじもじしてしまいます。
「……わたしなんて、なんの取り柄もない『余りリス』だと思ってました」
りらさまは首をかしげました。
「アマリリス……それは花の名だ」
森をお散歩しているときに聞こえてきて、てっきり悪口を言われていると思っていたリリ。
「有り余る愛を持ったリス、とでもしておけ」
ハイッ、とリリは元気よく応えました。
なにも持たないように見えて、じっと力をたくわえている球根。その花がひらくのを、今か今かと待ちわびる人がいる。
むくむくと自信の芽が、重たい土を押し上げる気配がします。
サクサクの甘さひかえめタルト生地、しっとりなめらかクリームにうっとリスるリリ。こんもりお山のようなビジュアルもたまりません。
夏を凝縮させた気泡を口にふくめば、さらりと毛皮をなでられたみたい。
「どうしよう。止まらないです!」
フォークを振り回すリリに、りらさまはふっと笑みをこぼします。
「だから、おいしいものは、まるごと注文するのだ」
夏風からは、きゅんと甘酸っぱい香りがしました。
(おわり)

風まかせ文芸部に参加いたします
りらさま、またまた友情出演🍋🐿
いつもお世話になっております(`・ω・´)ゞ

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