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✅ 壊れたラジオから始まった物語

FMラジオ1号機 DKN-X03 開発記①


この記事でわかること
✅ 壊れたラジオを「修理せずに作り直す」という判断に至った理由  
✅ 海外向けラジオキットが日本で使いにくかったポイント  
✅ Arduino Nanoを選んだ理由と、最低限から作る考え方  
✅ M5807MB+P20D10Aを使った最小構成FMラジオの作り方  
✅ ブレッドボード配線でやりがちなミスと、その気づき  
✅ Arduino用FMラジオライブラリで遭遇したバージョン依存トラブル  
✅ イヤホンから音が出た瞬間までの試行錯誤  
✅ アンプIC TDA2822Mで起きたトラブルと、LM386への方針転換  
✅ スピーカーからラジオの音が鳴るまでの実体験ログ  


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🟦 序章:ある日、ラジオは壊れた

そのラジオは、特別なものじゃなかった。
高級でもなければ、有名メーカー製でもない。
TEMUで手に入れた、ごく普通の小さなラジオキットを組み立てたものだった。

それでも、音は悪くなかった。
作業中に流しておくにはちょうどよくて、いつの間にか、部屋の中に「あるのが当たり前」の存在になっていた。

ただこのラジオは海外向けの周波数帯(87MHz〜108MHz)に設定されていたため、日本のラジオ局では入らない局があることくらいが、唯一の不満だった。

在りし日のラジオキット

その日は、何か特別な日だったわけじゃない。
いつも通り部屋の掃除をするため、掃除機を動かしていただけだ。

ほんの一瞬。
掃除機のホースが机の上で再生されていたラジオに当たった。

ゴトン!

嫌な音がして、流れていた音楽は、急に雑音だけになった。


電源を入れ直す。
ケーブルを抜き差しする。
もう一度スイッチを入れる。
周波数を合わせ直す。

直っていてほしい、という期待と、
たぶんダメだろうな、という諦めが、同時に頭の中にあった。

結果は、予想通りだった。

「あ、これ……ダメなやつだ」

音は、戻らなかった。


分解して、中を見た。
見た目には損傷はないように思える。
でもどうしても周波数が合わない。
今まで合っていた周波数に合わせてもノイズしか聞こえない。

直そうと思えば、直せなくもないかもしれない。
でも、それは「直す」というより、無理やり延命させる作業になる。

それに日本のラジオ局の周波数帯に合っていない部分もある。

触った瞬間に分かった。
これは、もう修理の対象じゃない。

静かに、そう判断した。


普通なら、ここで終わりだ。
壊れたラジオは捨てて、新しいものを買えばいい。

でも、不思議とその選択肢は浮かばなかった。

ケースは、まだ使える。
スピーカーも、アンプICもたぶん生きている。
USBコネクターやネジ、小さな部品も残っている。

新しい同じキットを買って作るのは簡単だ。
でも、それじゃ、つまらない。


この時点では、まだ Arduinoも、回路図も、完成形も見えていなかった。

ただひとつ、決めたことがある。

「捨てるのは、やれることを全部やってからにしよう」

修理じゃない。
再生でもない。

壊れたラジオを土台に、一から作り直すという選択。

こうして、壊れたラジオから始まる物語が、静かに動き出した。


🟦 第1章:修理しようとして、諦めた理由

壊れたと分かった以上、何もせずに諦めるつもりはなかった。

まずは分解する。
これは、もう習慣みたいなものだ。
直すためというより、
「何が起きたのかを知るため」に、中を開ける。

ネジを外し、ケースを開け、基板を取り出す。

見た目は、思ったよりもきれいだった。
焼け焦げた跡もない。
部品が物理的に割れているわけでもない。

一瞬、「いけるかもしれない」と思った。


電源を入れ、
アンテナをつなぎ、
今まで使っていた周波数に合わせる。

……ノイズしか出ない。

ボタンを押し続け、オートシークを試みる。
いつもなら、どこかで局が引っかかる。
でも今回は、どこまでシークしても音楽は戻ってこなかった。

「おそらくラジオモジュールの RDA5807 が逝ったな」

口に出してみて、ああ、やっぱりそうだな、と納得した。

RDA5807は外す時に割れてしまった。
表面実装された部品を外すのはとても
難しかった(ヒートガン集中で取り外し)。

RDA5807は、FMラジオキットではよく使われる、いわば“心臓部”のようなICだ。

ここが死んでしまうと、周辺をいじっても意味がない。

交換用のモジュールを探す。
入手自体は、できなくはない。

でも、そこでふと立ち止まった。


そもそも、このラジオは海外向けの周波数帯(87MHz〜108MHz)を前提にしている。

日本のラジオ局は76MHz〜95MHzが中心だ。

つまり、壊れる前から完全には日本向けじゃなかった。

「直したところで、また同じ不満を抱えることになるな」

そう思った瞬間、修理という選択肢が、少しずつ現実味を失っていった。


直そうと思えば、直せなくもない。
部品を交換して、
配線をやり直して、
動くところまで持っていくことは、たぶんできる。

でもそれは、
“気に入ってるけど、一部の日本のラジオ局が入らないラジオを延命させる”だけだ。

それなら——


ケースは使える。
スピーカーも、アンプICも、おそらく生きている。
7セグ、スイッチ類やネジ、小さな部品も残っている。

この辺りの部品は再利用できそう。
写っていないが、ケースやスピーカーも。

そして、棚の奥には
「いつか使うつもりで買って、そのままになっていた」
Arduino Nanoがあった

この時点で、まだ具体的な完成形は何も見えていなかった。

ただ、ひとつだけはっきりしたことがある。

これは修理じゃない。
作り直す方が、たぶん楽しい。


こうして、
「直す」という選択肢は、静かに消えた。

代わりに残ったのは、壊れたラジオを土台に、一から作り直すという考えだった。


🟦 第2章:なぜ Arduino Nanoだったのか

修理を諦めて、「作り直す」という方向に舵を切ったとき、次に考えたのは、とても単純なことだった。

——何を使って作るか。


世の中には、便利な選択肢がたくさんある。
完成済みのラジオモジュールもあるし、マイコン内蔵のラジオICもある。
極端な話、同じキットをもう一度買ってしまえば、一番早く“音が出るラジオ”は手に入る。

でも、それは今回やりたいことじゃなかった。


棚の奥を探っていると、ずっと前に買って、そのままになっていたArduino Nanoが目に入った。

買った理由は覚えている。
小さくて、安くて、「いつか何か作るだろう」と思ったからだ。

でも、その“いつか”は、ずっと来ていなかった。


Arduino Nanoは、決して最新のマイコンじゃない。
性能も、メモリも、今となっては控えめだ。

それでも、今回の用途には、いくつかの点で都合がよかった。

✴️ サイズが小さい
✴️ 5V系で扱いやすい
✴️ 情報も事例も山ほどある
✴️ 何より、手元にある

新しく何かを買わなくても、まずは始められる。

これは、かなり大きなポイントだった。


もうひとつ、理由がある。

今回は「いきなり完成形を目指さない」と決めていた。

最初のゴールは、見た目でも、多機能でもない。

ただ一局、安定してFMラジオが聴けること。

画面もいらない。ボタンもいらない。
スピーカーすら、最初はいらない。

イヤホンから音が出れば、それでいい。

Arduino Nanoなら、この“最低限”を積み上げていく作り方ができる。


そして何より、Arduinoを使うという選択は、あとからいくらでも拡張できる。

✴️ 周波数を変える
✴️ 表示を付ける
✴️ ボタンを増やす
✴️ 記憶させる
✴️ 見た目を整える

「最初から全部盛り」にしなくていい。

作りながら考えて、動かしながら決めていく。

初めてArduinoを扱うなら、このやり方が一番いいと思った。


この時点で、まだ回路図は描いていない。ラジオモジュールも、まだ決めていない。

決まっていたのは、これだけだ。

✴️ 壊れたラジオのケースを使う
✴️ 使える部品は使う
✴️ 頭脳はArduino Nanoに任せる
✴️ このラジオはDKN-X03と名付ける

完成形は、あとから決めればいい。
こうして、ラジオ1号機DKN-X03の“頭”は、Arduino Nanoに決まった。

次にやることは、そのArduinoに、どうやって「ラジオの心臓」を繋ぐか。


🟦 第3章:最低限のFMラジオを作る

Arduino Nanoを使うと決めたあと、
次に考えたのは、当然これだった。

——どうやって、ラジオを受信させるか。


◾️ラジオの心臓を選ぶ

ラジオ用のICは、意外と選択肢がある。
今回は、その中からM5807MBを選んだ。

理由はシンプルだ。

✴️ FMラジオ専用ICとして定番
✴️ I²C制御でArduinoと相性がいい
✴️ 日本の周波数帯(76MHz〜95MHz)に対応
✴️ 変換基板P20D10Aが用意されている

修理を諦めた理由のひとつが
「日本向けじゃない周波数帯」だった以上、ここは最初から日本仕様で行きたかった。


◾️最低限の構成を決める

この時点での目標は、かなり割り切っていた。
✴️ Arduino Nano
✴️ M5807MB(P20D10A経由)
✴️ アンテナ
✴️ 3.5mmステレオジャック

画面も、ボタンも、スピーカーもなし。

「一局、イヤホンで聴ければ成功」

それだけだ。

まずは最低限の構成で、音を出すことだけを目指す。


◾️ブレッドボード上に回路を作る

まずラジオの最小限の回路をブレッドボード上に下記写真のように組んでみた。
紫色の基板が、P20D10AというM5807MBをDIP化する変換基板である。ともにaitendoさんで手に入れたもの。

最初に組んでみた回路。
あとで気づいたが、右上のセラミックコンデンサーの挿す列を変えていないため意味をなしていない(直列になっていない)。

※注意点
ブレッドボードは、横方向に5つの穴が電気的につながっている。

イヤホンへの出力用にセラミックコンデンサーを2つ直列に入れたつもりだったが、上の写真では同じ列に挿してしまっているため、実際には直列になっていない。

このミスに気づくのは、だいぶ後のことだった。

ブレッドボードで直列接続を作る場合は、必ず列を変えて挿す必要がある。


◾️ライブラリという最初の罠

配線が終わり、いよいよプログラムを書く段階に入った。

Arduino用のFMラジオライブラリは、調べてみるといくつか存在している。
その中から、「Radio by Matthias Hertel」というライブラリを使うことにした。
当然だが最新版のライブラリを選んだ。

——これが、最初の罠だった。

コンパイルは通る。
書き込みもできる。
でも、音が出ない。
デバッグのため、シリアルに文字を表示させようとするが、なぜかLoop関数まで制御が行かない。
原因を切り分けていくうちに、どうもライブラリの挙動がおかしいことに気づいた。
ライブラリをいくつかダウングレードしてテストすると、バージョン2.0.0のライブラリであればちゃんとLoop関数が動くことが分かった(Ver3系は何故か僕の環境ではLoop関数に行かない)。
そこで改めて固定局のみ再生できるスケッチを再コンパイルして書き込み。
そしてイヤホンを挿す。

しばらくして——
ノイズの向こうから、音が聞こえてきた。

はっきりとした、FMラジオの音だ。

「……あ、鳴ってる」

意識していなかったせいか、声に出すまで、少し時間がかかった。

原因は最後まで特定できていないが、
少なくともこの時点では、動くバージョンを使うことを優先することにした。


◾️まずは、FM愛知

周波数をスケッチ内に固定登録し、受信しやすい局に合わせる。

80.7MHzのFM愛知。

アンテナの向きを正しくすれば、ノイズも少なく、安定して音が出ている。

まだ、音量調整もできない。
局も変えられない。

それでも、この時点で「最低限のラジオ」は完成していた。


◾️小さな達成感

ブレッドボードの上で、Arduino Nanoとラジオモジュールが並び、
イヤホンからラジオが流れている。

見た目は、とても地味だ。
市販品とは比べものにならない。

でも、確かにこれは自分で作ったラジオだった。

この段階で、「最後まで作れるかどうか」は、まだ分からない。

でも、ひとつだけ確信したことがある。

ここまで来たなら、もう後戻りはしない。


🟦 第4章:アンプを作る(簡単なはずだった)

ラジオから音が出た。
イヤホンで、しかも一局だけ。

それでも、ここまで来た時点で、
「もう十分じゃないか」という気持ちは、まったくなかった。

やっぱり、スピーカーで鳴らしたい。
ラジオは、空間に音が広がってこそだ。


◾️回収したアンプICを使う

壊れたラジオキットから、使えそうな部品はいくつか外してあった。

その中に、TDA2822Mがあった。
小型ラジオや簡易アンプでよく使われる、定番のアンプICだ。

回路も難しくない。
データシート通りに組めば、とりあえず音は出るはず。

——そう思っていた。


◾️1個目:内部ショート

まずは小さなブレッドボードに、
TDA2822Mのアンプ回路を組んでみる。

電源を入れた瞬間、嫌な予感がした。

ICが、やけに熱い。

配線を見直すと、完全に自分のミスだった。

内部ショート。

電源を切った時には、もうそのICは使い物にならなくなっていた。

「まあ、1個くらいなら」

そう思って、在庫箱を開ける。


◾️2個目、3個目……そして

同じ TDA2822Mは、まだあった。
同じ回路を、今度は慎重に組む。

……それでも、うまくいかない。

スピーカーが異常に熱くなったり、出力も明らかにおかしい。

原因を調べようと、テスターでピン電圧を測ろうとした、その時だった。

プローブの先が滑り、隣のピンに触れる。

一瞬のショート。

ICは、何事もなかったかのように沈黙した。
それからは、もう地獄だった。

✴️ 電圧が合わない
✴️ 出力が常に 4.5V付近に張り付く
✴️ 音が出ない
✴️ 異常に熱だけは出る

気づけば、手元にあった 6個のTDA2822Mは、そのすべてが同じ症状を示していた。

冷静に考えれば、どこかで回路や測定のやり方を根本的に見直すべきだったのかもしれない。

でも、その時の結論は、これだった。

「もう、全部壊したな」

この時、僕はサーモグラフィーカメラを買うと心に決めた。


◾️方針転換:LM386

他にアンプで使えそうなICがないか、在庫箱をもう一度探る。

そこにあったのが、LM386だった。

古い。
性能も、今どきとは言えない。

でも、「とにかく動く」ことで有名なICだ。

いわゆる枯れた技術というやつ。
ただ信頼性も情報量も抜群だ。

今度は、慎重すぎるくらい慎重に配線した。

✴️ 電源
✴️ GND
✴️ 入力
✴️ 出力

一つずつ確認しながら、ブレッドボードに差していく。


◾️一発で、鳴った

テスト用に、iPadのAUX出力をアンプに接続する。

電源ON。

スピーカーから、はっきりと音が出た。

ノイズもない。
ICも、熱くならない。

「……あ、これは大丈夫だ」

思わず、そう口に出た。

小さなブレッドボード上アンプが完成。

◾️スピーカーの異変

壊れたラジオから救出したスピーカーは、8Ω・0.5Wの小さなものだった。

しばらく鳴らしていると、どうも様子がおかしい。

音が歪んだり、割れたり。
触ると、熱を持っている。

おそらく、これまでの実験で無理をさせすぎたのだと思う。

ここは素直に諦めて、TEMUで購入していた 8Ω・1Wのスピーカーに交換した。


🟦 第5章:ラジオとアンプをつなぐ

できたばかりのLM386アンプを、ラジオ回路のブレッドボードの横に移植する。

Arduino Nano。
M5807MB。
LM386。

ブレッドボードの上に、
役者がそろった。

電源を入れる。

今度は、イヤホンじゃない。

スピーカーから、ラジオの音が流れ出した。

アンプの回路をラジオの方へ移植。
この時点でもコンデンサーが正しく直列になっていない問題に気づいていない。

◾️ちゃんと「ラジオ」になった瞬間

周波数も音量も固定値。
操作もまだできない。

ブレッドボードの上だけど、スピーカーからラジオの音が流れている。

まだ操作もできないし、見た目も、とても製品とは言えない。

それでも、この時点でひとつだけ言えることがある。

——これは、もう「実験」じゃない。

次は、このラジオを「使える道具」にしていく。

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