【SF小説】新・木漏れ日荘のアオイさん 第14回
アオイの駅前広場リニューアル 計画編
【読了目安:5~6分】
前回のあらすじ
アオイは市の職員から
「駅前広場の花時計」の修理を打診されるが断る。
しかし新年のカウントダウンのイベントを
そこで行いたいという市長の依頼に対して
花時計のデジタル化、装飾も電子化する案を図解した。
白石の事務所
翌日、アオイは白石の事務所を訪ねた。
「白石さん、ちょっと作業させてください」
寒そうにストーブの前で縮こまった白石が
「おう、ええど」と答える。
普段は港を飛び回っている白石だが
今日は暇そうだ。
アオイは自分の腕に開いたUSBスリットに
ケーブルを接続すると、それを図面専用の
大型印刷機に差し込んだ。
印刷されたものを白石も覗き込む。
「ほう、こりゃ。。。星図かいな?」
「はい。これを駅前広場の床面に仕込んで
花時計を中心に表示されるようにするんです。
ほう、と白石も興味を示した。
港でタグボートの会社をしているが、土木や
建築の作業も経験がある。
「しかし、あの床面、そんな機能あったか」
「機能自体は仕込まれています。プログラミングも私ができます」
それはアオイがクラリスに借りた図面で
知った駅前広場の当初の構想だった。
床面の底部にプログラム可能な素子を
敷き詰めそのうえをアクリルのプレート
で覆う。
普段は電源が切られているのでわからないが
ところどころ点灯しているのが、逆に物寂しい。
花時計が止められ、駅前の雑踏が
少なくなるとその機能も停止されてしまったのだ。
制御用のPCは入れ替えないと仕方
ありません、とアオイは見積もりのメモも出力した。
図面10枚。見積書。作業工程表。
「くはは、さすがじゃな。ここにいた時を
思い出すのう、アオイさん」
「懐かしいですね」
「もう5年になるのう。それにしても
あの頑固親父はいつまでアオイさんを
元の名前で呼ぶつもりじゃあ。」
ちょっと義憤に駆られた様子の白石を
見つめながら、アオイは打ち合わせを
思い出す。
R13登場
「白石さん、R13いますか?」
「おいよ、今日は作業がないけえおるよ」
そういうと気軽に立って表に声をかける。
その声に応答してキャタピラ走行してきた
無骨一筋のロボットがR13だった。
アオイを視認したのか、スピードが上がる。
出口まで迎え、アオイはR13と軽く
ハイタッチを交わした。
発言:アオイヲ視認。R13ハ小躍リ。
疑問:何カ手伝エル事アルカ?
R13は工事現場などで使われる汎用タイプの
ロボットだった。会話は胸部に表示される文字とデジタル表示の簡略化された顔で表現する。
今、その顔に笑顔と同時に涙が表示されている。
「私もあえて嬉しいです、R13。実は見てほしい図面があります」
アオイはそういうと出力した図面を広げた。
R13は平静な表情に戻る。
疑問:詳細希望
そこでアオイは白石に失礼しますといい
R13とヒューマノイド専用プロトコルで
会話した。暗号化された通信は人間には
解読できないとされている。
30秒の議論ののち、R13は自分が
図面を出力し始めた。
修正されたプランでは、作業期間は
1ヶ月となっていた。
アオイのプランより2ヶ月短い。
その代わり費用が30%上乗せされていた。
発言:最優先事項:納期
発言:重要ミッション:市長ノ説得
疑問:説得者:アオイ 可否?
「なんとかしてみます」
疑問:重要事項:作業監督者任命?
「どういうことじゃい。市の工事は
大体元請が監督をするはずじゃろ?」
数ミリセカンドの会話でアオイが
引き取った。
「納期を間に合わせるには
通常の監督者では難しいと。」
アオイはR13を指さす。
白石はジロリとR13を睨んだ。
「お前、自分がやりたいわけか」
R13の顔に今度は笑みが浮かんだ。
発言:御意
発言:R13ハアオイ支援ヲ熱烈二希望スル
カフェこもれび
白石の事務所から帰ったアオイを
カフェで美波が待っていた。
カジュアルなセーターにジーンズでも
美波が着こなすと色気が漂う。
「なんだか大変そうね、アオイ」
「いえ、それほどでも」
「そう?駅前広場のリニューアルでしょ?」
聞いていた達也がガクッとする。
「どこの情報ですか?耳が早いな」
美波は呆れ顔の達也にニヤリと笑う。
「この街であたしに隠れて何かするのは
まず無理ね。言ってなかったかしら?」
そういうと美波はアオイに耳打ちした。
「いい?市長を黙らせるにはね、この
あたしの名前を出せばいいから」
「どんな弱みを握っているんですか?」
「野暮なこと聞かないの。とにかく黙るから」
そういうと、美波は澄ましてコーヒーを
飲み干し、颯爽と出ていった。
アオイの隣で、達也は唖然としていた。
「俺、とんでもない人ナンパしてたんだ…」
そのつぶやきは、アオイをしばし笑いの
発作に突き落としてしまった。
談話室の激論
アオイは、シンイチと睨み合っていた。
「そんな計画は無理じゃ」
「R13とは打ち合わせ済みよ」
「しかし部材の調達さえ間に合わまいが」
「大丈夫よ」
白石は割ってはいる。
「まあまあ、兄いもカッカせんと」
「うるさい、お前のところの
ロボット三等兵みたいなのが
妙な知恵つけさせおって」
白石はウイスキーのグラスをぐいと飲み干した。
「ほんなこついうたって、兄いも
この間は賛成しとったじゃないか、のう?」
「そりゃ、3ヶ月あればできるわい。
物事スケジュールが一番じゃろうが。
できもせん計画で市長に借りを作るのは
ワシは真平じゃ」
白石は腹を括った顔でシンイチを
静かに見据えた。
「兄い、そりゃ自分が借りを作りとうない
そっちが本音じゃろうが。アオイはもう
やる気ぞ。ワシもアオイの味方じゃ。
うちのR13を三等兵呼ばわりは、兄いとは
言えちと許せんのう」
今度はアオイが割って入る番だった。
「お父さんも少し落ち着いて。白石さんも。
市長には私がプレゼンします。
お父さん、市長には変なコンプレックス
あるみたいですからね」
「コンプレックスなどないわい。」
じゃあ何よと詰め寄るアオイに
シンイチはそっぽを向いたまま答えた。
「あいつはの、わしの変人ぶりを
笑わんかった数少ない本当の友人の一人じゃ。
だから嘘をつくわけにいかん。それだけよ」
「すると何か?このプランさえ納得行けば
兄いの心配はないわけじゃないか」
「…どれ、見せてみい」
アオイが手渡した計画書を仔細に読み
シンイチは、舌打ちした。
この計画書には、重要な要素が抜けとる。
「それはなんですか?きっちり無駄なく」
「それが問題よ。いい計画はな、はなから
無駄、余白、を幾分入れておくのが大事なんじゃ。」
「意味がわかりません」
「予想通り行かんのが、この手の作業よ。
きっちり詰め詰めの計画は、それ自体失敗を
宣言したようなもんじゃ。白石、おめえも
それぐらいわかっとるだろう?」
今度はシンイチが、お茶をずずずとすする。
白石は頭をかいてみせる。
「やっぱり兄いには敵わんのう。それは
確かにちょっと不安ではあったんじゃけんど」
アオイは白石をまじまじと見つめた。
「白石さん、いい計画だと言ったのに」
「そりゃあ、あの場で言っても始まらんけえの。
こうして兄いが、けちょんけちょんに言うたら
アオイさんにはわかると思うたけえ。」
シンイチがニガリきった表情で白石をにらむ。
「つまりあれか、ワシがこう言うことまで
織り込み済みっちゅうワケか?おんどれ策士やのう」
すんません、と手をあげて拝む白石。
まあええ、そんならこの計画だけ
少しずつバッファを入れて練り直しじゃ。
大晦日までこれから大忙しになるど」
風が冷たい端方市の冬。
暖かい談話室より三人の熱気が熱い。
続く
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