【SF小説】新・木漏れ日荘のアオイさん 第13回 駅前広場の花時計
第13回 駅前広場の花時計
登場人物紹介
アオイ:木漏れ日荘に住むヒューマノイド
シンイチ:アオイの製造者。変人エンジニア
市長:シンイチの高校時代の同級生
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駅前広場
アオイは、駅前広場に立っていた。
ありふれたベージュのコートにベレーをかぶった
アオイに、隣にいる市の職員が話しかけた。
「この花時計なんです」
「はあ。。。。」アオイの返事は気乗り薄だ。
無表情だが、市の職員は幾分
眩しそうにアオイを見ている。
アオイはヒューマノイドの標準的な
フェースはしていない。
背が高く、色白で神秘的な紫の瞳のアオイは
人間に混じっていても目立つ。
え?ヒューマノイドだよね、すごい綺麗
そんな声は街ではいつも聞こえている。
アオイはメモリされたデータを元に喋る。
「今から40年前に、駅前の再整備があって
その時設置されたんですよね?」
「はい、その通りです。ただ見ての通り」
花時計とはいうものの、花がなかった。
時計も止まったままだ。
その前は、場所も違い、もっと大きかった。
実際に待ち合わせの場所にもなっていた。
今は、もっと駅寄りの噴水のあたりが
待ち合わせに使われている。
噴水の中心には武将の像がある。
記念写真を撮る人もいて、その武将の
真似をしたりしている。
「故障したままになっているんですが、
修理できないですかねえ」
カフェこもれびに連絡があったのが
昨日のことだ。カフェをマスターと
スタッフの達也に頼み、打ち合わせが
現場で始まって10分だった。
「まあ、時計としてはなくても
困らないですね。」
「そりゃまあ、みなさん時計なり
多機能のスマートウォッチはお持ちで」
えへへ、と職員は笑う。
「ただ、ここを中心に、ニューイヤーの
カウントダウンをしようって計画をのね、
市長が言い出しまして」
「市の方で直すとか」
「それが、ただ直すだけではなくて、ですね」
アオイはちら、と職員を見る。
少し赤くなった職員が早口に続けた。
「この広場全体をもう少しショーアップ
できないか、って言われまして」
「すればいいじゃないですか?」
職員の顔が輝いた。「え、いいんですか!?」
「市の方ですればいいんじゃないですか?」
言い直したアオイの様子はそっけない。
「ですよね……」
わかりやすくしょげた職員に
アオイはもう一言ダメ出しをした。
「それは私の父はエンジニアとしては
かなりの腕です。でもこういう仕事は
大勢のチームでやるもので、そういうのに
あの変人は、全く向いてないですね」
製造者だから父と呼んでいるが
冷静に見て協調性があるとは思えない。
「実は私にも市長の考えがわかりませんで」
職員は白状して、頭をかいた。
どう考えても一人でする作業ではないです。
「お引き受けは致しかねます」
そういうとアオイは歩き去った。
年の瀬とはいえ、普段通りの雑踏の中
花時計の周りだけ、時が止まったようだった。
図書館
引き受けてはいないが、アオイは
なぜか図書館にクラリスを訪ねていた。
司書を務める有能はヒューマノイドであり
資料収集を自分の使命と心得る巫女のような
ヒューマノイドは、手に分厚い資料を
携えていた。
「これが駅前広場の資料ね」
どさり、と紙の資料をおく。
資料からは古い紙の匂いがした。
「あの花時計の前は、確かに
もっと駅の出入り口に近かったし
待ち合わせの目印にもなっていました」
「それは、昔のニュース映像にもあります」
「そう。でもずっと昔よ。私がこの街に
来た時には、今と同じだったもの」
見た目には、クラリスは10代の少女、
アオイは20代の見かけになっているが
稼働期間としては数十年の開きがある。
「当時のアイデアでもあれば助かります」
「そうね。。。駅前広場自体も当初の予定と
似ても似つかない使われ方で、デザインも
二転三転している。」そう言いながら
クラリスも改めて資料をめくっていく。
「本当は、しょうでんの端方港駅は、
JRの端方駅と同じ場所のはずだったの。」
え、とアオイは顔を上げた。
クラリスは無表情に続ける。
「大通りの向こう側から、地下に入って
端方駅の地下でJRと繋がる計画があった。
ただ、何らかの事情でその計画は宙に浮き
それぞれの駅ができてしまった。」
「それ、残念ですねえ」
海辺だからね、とクラリスは答えた。
「どうしても水の問題とかあったのかな。
いずれにせよ、その空間を埋めるのが
駅前広場ってわけね」
図書館から、それらのクラリス個人持ちの
資料を借り出し、アオイは熟読してみた。
歴史はわかったが、そのおかげで
駅前広場は何かにつけてイベントが
行われるようになってもいる。
音楽イベントでも使われるし
今は特大のクリスマスツリーが
駅から出てきた人を出迎えている。
カウントダウンのイベントは
出店も出せば賑わうだろう。
よくわからないのは、それを市長が
シンイチに頼もうとしていることだ。
イベントなら他の場所でもいいのに
わざわざ止まった時計を直して、
というのも腑に落ちなかった。
イベントなら中央公園でもいいし、
市役所の前も人の集まるスペースはある。
その日から、アオイはしばらく
広場の隅に、
まるで人形のように佇み
広場と時計の様子を眺めていた。
駅から出てきた人は、足早に 商店街やビジネス街に消えていく。噴水のヘリに腰かけて、談笑している男女もいる。
夕方ともなれば、弾き語りやら
バンドの演奏やらも行われている。
カフェこもれび
カフェの仕事の合間で、アオイは達也にも相談してみた。
「ああ、あの花時計ねえ。。
僕が子供の頃は
動いていたかもね。
でも意識したことないなあ」
「なんか市長の方で、直したいと」
「直してもらったらいいんじゃないの?
修理業者っていうかさ、いるんでしょ?」
「それが市長の意向があるそうで」
「………なんで?」
「……わかりません」
カウントダウンなら他の場所でいい。
それが達也の意見でもあった。
アオイも首を傾げながらうなづいた。
そもそも、端方駅も、端方港駅も
どちらかといえば街の中心からは
外れたところになっている。
ミントシティやそこから商店街を抜けた
最近できた商業ビルのあたりの方が
人の集まりもいいはずだった。
ただ、幻に終わった計画と
そこからの年月だけが、アオイには
どことなく引っかかり続けていた。
その時カフェに入ってきたのは
どことなく見覚えがある人だった。
座るなり、男はアオイに
快活な様子で
「シンイチは今いるかい?」と尋ねた。
「父はいますが、どちら様でしょう」
すると男は、意外そうに言い出した。
「やっぱり、35%しかないってことだ」
「???」
「私に投票してくれた人は市民の35%。
半分にも遠く及ばない。
そりゃあ知らないのも当然だ。」
横から達也が助け舟を出す。
「お客様、森さんですか?市長の森さん」
「やあ、君は支持者の人かい?」
「すいません、選挙にはいきません」
アオイは達也のシャツの裾を引っ張り
「誰ですか」と囁いた。
市長の森さんという方だよ、と囁き返す。
「ああ、初めまして」
ずっこける市長はどうにか
「やあ、初めましてお嬢さん」と
握手を求めた。
「すいません、この子こう見えても
ヒューマノイドなんで選挙権ないし
多分興味持たれてないです」
「そうだったのか。」素早く手を引っ込める。
アオイはそれをみて、 票にならないことはしない主義だと思った。
大きな顔、大きな瞳、自信ありげな表情。
上背はないが、どことなく目立つ。
なるほど、政治家というのはこういう
感じか、とアオイはメタデータを
視覚情報に付け足した。
少しお待ちください、と告げ、
店の裏から木漏れ日荘の中に戻る。
シンイチを アオイは呼びに行った。
工作室にいたシンイチは
「森?ああ、エリート森か?」
昼飯らしいカップ麺を啜りながら
アオイに答えた。
何をしたのか今日も
白衣姿で、
あちこちに焼けこげがある。
「エリートかは知らないけど、
向こうはお父さんを知ってるみたい」
「そりゃそうだ、高校の同級生だからな」
麺を啜り込んでしまうと、シンイチが
スタスタ歩き出した。
ついて歩きながら、アオイは一瞬
計算回路に空白が生じたのと検知した。
エラー。
「お父さんに高校の時代があったの?」
「当たり前じゃ、ワシを生まれた時から
こうだと思っとるのか?」
そう言いながらカフェに出てきたシンイチは
挨拶を飛ばした。
「森、なんか用か」
「おお、シンイチ。久しぶりじゃないか」
「ふん。相変わらず胡散臭いのう。
エリートは」
「またまた。エリートなのは事実だけどね」
森の取ってつけたような笑顔には
アオイも気づいていたが、シンイチは
辛辣だった。
「相変わらず全身嘘っぽいのう。
昔、隣の家の柿を盗み食いしたら
思い切り渋柿じゃって、泣いとっただろうが。
それで端方市の市長どのが何の用かな?」
「シンイチ、時計を直してくれ」 「断る」
「話ぐらい聞いてくれよ」
ここでようやく達也がコーヒーを手に
割って入り、二人はコーヒーをずずい、
と啜った。
「………どこの時計じゃ」
「ほら、駅前広場のだよ。
昔彼女との待ち合わせしていたろ?」
「待ち合わせしとったのはお前だけじゃ。
そんなことより、あれは無理じゃ」
「そこを頼むよ。無理は承知だ。知恵を貸してくれ」
「どういうことなんです?」
ようやくアオイが口を挟む。
「あの時計はな、アオイ。
子供がいたずらして
壊してばかりいたんで
止めたんじゃ。」
「え、故障じゃなくて?」
「故障もしとるだろうな。
長年整備も
しとらんだろうから」
シンイチの顔には、ワシに関係ないわい、
と
書いてあるようだった。
アオイはそこで、市の観光課からなんとか
直して欲しいと言われたことを報告した。
「まだ引き受けてはおらんのだろ?」
「もちろんよ。でも図書館のクラリスから
話を聞いたら、ちょっとは気になって」
資料まで借りてきていることは
シンイチには黙っておくことにした。
その夜、アオイは木漏れ日荘の
談話室でも時計のことを聞いてみた。
「そういや昔は待ち合わせしたわね」
「そうじゃそうじゃ、あそこで
ねえちゃんに
声をかけるとよう引っかかったわい」
柚葉も柳も思い出があるようだった。
「そういやいつの間にか止まってね。」
「あの駅が綺麗になって、その時整備
したと思っていましたが」
「そうそう、一旦は綺麗になっとった」
「花時計は、植え替えが大変ですよね」
「それよ。手間がかかるのう。」
その話を聞きながら、アオイはある イラストを描き上げていた。
「駅前広場、どっちが正面なんですか?」
「広場だから正面って言ってもねえ」
そう言いながら、達也は「端方駅だろうね」
柚葉は反対だった。
「端方港駅じゃないのかい?」
えーそれは違うよ、と達也がいう。
だって道の向こうじゃない。
その情報もアオイは書き足した。
「お。すごいねえ」
「ちょっとイメージをまとめました。」
「ん?これ花時計じゃない」
アオイは花時計ではなく、
デジタル時計を
描いていた。そして、その文字盤には、
花ではなく
デジタルアートが描かれている。
「広場も、デジタルアートを使って、
ライトアップや、駅ビルの
ショーアップも
したらいいと思うんだけど」
アオイは続ける。
「しかし嬢や、これは見栄えはするのう」
柳の言葉にアオイは大きくうなづく。
その言葉にシンイチは
頷いた。
「デジタル時計にするなら針を
イタズラされる問題はクリアか。
業腹だが、森の顔を立ててやるか。となると計画をせねばな。」
そういうなり、談話室を後にする。
ドアのところで振り返ると
シンイチはアオイに、にっと笑いかけた。
「ナイスアイデアだった。アオイ」
続く
最後までお読みくださり
ありがとうございました。
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