「私を信じて!」と、嫁さんは言った。(2,538文字)
2026年4月19日、その日は2時に起床した。
愛知県の名城公園で行われるドラクエウォークのリアルイベント「ドラゴンクエストウォーキング〈中部〉」に行く為である。
まさに草木も眠ると言われる、丑三つ時である。
3時の出発の前に、昨晩使った食器を食洗機へ投入、スイッチオンヌッ!
その頃、やっと嫁さんが起き出す。
歯磨き、髭剃り、着替えを済ませる。
その頃、やっと娘が起き出す。
愛猫りんたの餌と水の容器を洗い、新鮮なキャットフードと水を準備。
なんで、ここまで早起きせにゃならんのか?
大阪の堺市から名城公園へ向かう手段は、嫁さんの軽自動車なのだ。
しかも、嫁さんから「少しでも高速代を浮かせよっ!」との命令もあり、自宅から30分ほどの松原の入口から、高速に乗ることとなったからである。
そして嫁さんは高らかに宣言した。
「帰りは私が運転するから!」と。
そして俺ははっきりと思った。
「あ、フラグ立てよったな……」と。
いざ、出発!
俺はひたすら運転した。
嫁さんは助手席、娘は後部座席で眠っている間、骨伝導BluetoothイヤホンでNirvanaのNevermindをループで聴きつつ、途中1回の休憩を挟んで6時30分頃、名城公園に到着した。
その後、名古屋名物の小倉トーストのモーニングを喫茶店で食し、イベントも存分に楽しみ、昼食はこれまた名古屋名物の味噌カツを食し、帰る段になった。
イベントの感想は「めっちゃ楽しかったです、存分に楽しみました」
それはもちろんのことである。
だがしかし、ここからが本題なのである。
さて、ここからが本番なのである。
正直、この時点で割と眠かった俺は、助手席に乗り込んでアイマスクを装着し、座席を倒した。
そこで嫁さんが言い放った。
「待って! 高速に乗るまで寝んといて! 不安やから!」
渋々了承した。
「俺ってなんて優しいんや!」
そう思わずにおれんかった。
そう思わんと、眠気で気が狂いそうやった。
ナビが女性の声で案内する。
それに従って運転するだけの簡単なお仕事である……はず。
「何が不安やねん!」
心の中で一度だけ絶叫した。
ナビの女性に案内されること、30分ほど。
高速の入口に到着した。
「もう大丈夫やろ、寝るで」
そう言ってアイマスクを再装着、座席を倒して目を閉じた。
少しずつ、うつらうつらと意識が遠のいていく……
「しんめいしん しんめいしん しんめいはん しんめいしん? しんめいはん?」
これは夢の中で聞こえる、嫁さんの独り言か?
バン! バン! バン!
文字通り、嫁さんに叩き起こされた。
「何やねん! 痛いなぁっ!」
「なあ! なあ! これ、どっち? 新名神? 新名阪?」
「新名阪や! 俺らはどこへ帰るねん! 大阪やろ! 名古屋と大阪を繋ぐから新名阪! 新名神やったら高槻とか川西とか、とんでもない方向に行くぞ!」
「あーそっか、名古屋と神戸方面やから新名神か。あ、寝てええよ」
「叩き起こしといて、やかましわっ! 言われんでも寝るわっ!」
そう言ってアイマスクを再々装着し、目を閉じた。
イライラして寝つけんかったが、徐々に眠りの世界に誘われて……行きそうになった時であった。
さぶりな♪ さぶりな♪
ぱっぱっぱっぱら♪
さぶりな♪
ぱっぱっぱっぱら♪
さぶりな♪
タイトルは失念したが、おそらく「サブリナ」的なタイトルであろう歌を、嫁さんが熱唱しだした。
「寝れるかっ!」
「だって歌ってないと眠くなるんだもん!」
「もうええっ! 次のサービスエリアかドライブインで代われ!」
「え? 大丈夫?」
「どっちにしろ寝られへんやろ!」
「ありがとう! 優しいわぁ!」
到着した伊賀のドライブインで、嫁さんと娘がトイレと買い物を済ませる間にストレッチをし、俺はエナジードリンクを片手に運転席へ乗り込んだ。
国道へ合流し、しばらくすると「大阪まで108km」の標識。
「え? まだ100km切ってへんかったんか……」
「うん、途中で1車線規制があったり渋滞してたりで」
「いや、まぁしゃあないんやけど……もう大阪まで80kmみたいな標識を期待してたわ」
「ごめんねぇ、優しいなあ。運転代わってくれて」
「そういうセリフは感情を込めて言うもんやぞ」
「ちゃんと感情込もってるって!」
「で? 帰りも松原で降りるんか?」
「そうやで、しばらく道なりで」
国道から西名阪道に入り、法隆寺の出口を過ぎ、香芝の出口も過ぎ、香芝のサービスエリアに近づいた時、ナビの女性は言った。
「藤井寺の出口を出ます」
一応、嫁さんに尋ねた。
「なあ、藤井寺で降りろって言うてるけど、降りんでええんやんな?」
「え? 何が? ごめん、寝てた」
「……。ナビが藤井寺で降りろって言うてるけど?」
「え? 松原まで降りんでええから! そんな女の言うことより、私を信じて!」
「そんな女に名古屋で案内されとったんやろが」
「いや、これはホンマに意味が分からへん。何で藤井寺?」
「俺に言われても知らんけど、とりあえず松原やな?」
「うん、松原まで行っちゃって!」
コロコロチキチキペッパーズのナダルの微妙なモノマネが、俺の何かを苛立たせた。
きっと、眠気だけが原因ではない。
そこからさらに走り、松原の出口で高速を降りた。
そこで嫁さんが言った。
「この車線でしばらく走ったらええから」
その数分後、ナビの女性が言った。
「次の交差点をUターンです」
「何でよ! こんなところでUターンさせて、どこに連れて行くつもり? こんな女の言うこと聞かんでええから、道なりで!」
「あー、分かった……」
俺はツッコミを入れる気力も失っていた。
が、次の嫁さんの言葉でツッコミを入れていた。
「こっちに来なさい、ふふんって感じで金を使わそうとしてる! この女は!」
「どこの美人局を車に搭載しとんねん!」
「で、この車線をこのまま進むと、高架にゔぁ〜っと入るから、そのまま右の方にうぁ〜っと行って」
「お前のオノマトペはどないなっとんねん!」
そんなこんなで19時頃に無事帰宅し、玄関を開けるなり愛猫りんたに
ゔなぁ〜! んなぁ〜! なんぁ〜!
と、叱られたのであった。
帰るのが遅くなってゴメンよ、りんた……。
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正直、おっさんが舞い上がります。
