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掌編小説「ロングディスタンスドライバー 〜元デラシネの帰還〜」

流れ行く見慣れた、退屈な景色。
大量の精密機器を積んだ大型トラックを走らせる。
長野県の諏訪支店を出発し、茅野市で荷物を積み込み東大阪トラックターミナルを経由、兵庫県の姫路支店へ向かう。
翌日、姫路支店を出発し長野県の松本支店で荷物を降ろし諏訪支店へ戻る。

そう、俺は長距離トラックドライバー。

伊那市の支店で荷積みを終えた時刻は13時。
7時20分に自宅を出たというのに、毎日時間が過ぎ行くのが早い。
そんなことを思いながら、ふとロードサイドにあるミスタードーナツを見て思い出す。

店内で一人ドーナツを頬張る、かわいいあの娘。
風俗嬢の送迎ドライバーをしてる頃、
ミスドで女の子を勧誘したなあ……。

あの頃の俺は、まさにデラシネ。
根無草とののしられても仕方のない生活をしていた。
ビールと女とダンスダンスレボリューションに溺れた日々。
何ともただれた美しき日々──。

そんな過去に想いを馳せている内に、気付けば伊吹PAに着いていた。
車を停め菓子パンを頬張り、束の間の休息を経てまた車を走らせる。
時刻は16時になろうとしていた。

俺は何が変わったのだろう? 何が変わっていないのだろう?
毎朝のアルコールチェックに引っ掛からないために、飲酒量は減った。
おかげで健康診断の結果は優良になった。
結婚をした。二人の子供に恵まれた。癒してくれる猫もいる。
そう、今の俺には家族がいる。
俺の青春は過ぎ去った話なのだろうか──。

東大阪トラックターミナルに到着した時、そんな想いを頭から打ち払った。
時間は18時を少し過ぎている。
九州からのドライバーと車を交換し、姫路へ向けて走り出す。
行きの道程はまだ半分だ。

18時50分頃。
いつもこれぐらいの時間に大阪府守口市を通過する。
ここは俺にとって思い出の地。
俺が大阪で初めて弾けた地。

1990年代、ネット環境は光回線どころかADSLすら登場前の頃。
某チャットで知り合った、いまだに付き合いのある30年来の友人。
彼に誘われ参加することになった、彼が主催のオフ会。
その開催地が守口市だった。
2月の寒波が到来していたその日、仕事の都合で開始時間から1時間は遅れることが確定していた。寒さが厳しい中、電車と新幹線を乗り継ぎ到着した守口市。
思いの外、暖かかった。
俺は着込んだ上着を脱いでリュックに捻じ込み、友人へ「もうすぐ待ち合わせ場所へ着くでね」と連絡を入れた。
数分歩き、待ち合わせ場所へ到着。
数分待っていると、不意に背後から怒鳴られた。

「なんで半袖やねん!」

確かに上着を脱いだ俺は半袖のポロシャツだった。
しかし見ず知らずの人に、いきなり怒鳴ることがあるのか? 大阪とはそういう土地柄なのか? そんなことを考えながら振り向くと、そこには1人の男が立っていた。
そう友人である。
面識はない。が、直感で分かる。
「人違いだったらどうすんの?」
そんなことを思ったが、口から出たのは違う言葉だった。
「だって、大阪暑いんだもん!」
「んな訳ないやろ!」
「いや、本当なんだって!」

その時の気温は2℃だった──。

その時の大阪が楽しすぎて、友人がオフ会を開く度に参加した。
たこ焼きの美味さに感動して大阪に移り住み、たこ焼き屋へ勤めたこともあった。
その頃は摂取する水分がほとんどビールで、白目が黄ばみ、風呂場にはビールの缶が並んでたっけ……。
友人とは何度も飲みに行き、結婚の際には披露宴に出席、一緒に働いたこともあった。バカ笑いし、大喧嘩もした。
結果、俺が長野県に帰っても付き合いは続いた。

しばらくすると、俺も結婚することになった。

妻にはずっと大阪の楽しかった思い出を話していた。そして俺は妻に1つのお願いをした。
「新婚旅行は大阪に行かない?」と。
妻は二つ返事で「いいよ」と言ってくれた。
妻には感謝しかない──。

新婚旅行の日程が決まり、早速友人に連絡した。
「結婚して、新婚旅行は大阪に行くでね!」
「いや、まず結婚の報告を先にしろや!」
「あははは! 守口にも行くから飲もう! 妻も連れて行くから!」
「あー、分かった。弟にも連絡入れとく」
「よろしく!」
そう、友人の弟とも友人で、とても楽しいヤツなのである。
友人兄弟と飲めるのが楽しみで仕方がなかった、その時は……。

その日、友人弟は少し遅れるとのことで、友人兄とだけ先に会った。
妻を紹介し、和やかな雰囲気であの居酒屋に向かった。
大阪で初めてのオフ会で行った、あの店に。
店に入る直前、俺は妻に聞こえないように友人兄へ耳打ちした。
「ちょっとお願いがあるんだけど……」
内容を伝えると、友人兄は戸惑った半笑いの表情で
「ん、分かった。後で弟にも伝えとく」
と言ってくれた。俺は安心した。

店に入り、3人で飲み始めた。
しばらくすると友人弟がやって来て、友人兄の隣に座った。
妻の紹介が終わると、すかさず友人兄が友人弟へ耳打ちする。
「あ、ちゃんと伝えてくれてる。持つべきものは友だな」
などと思ってると、友人弟が言った。
「あ、そうなんや? で、奥さんはシェイシェイ知ってんの?」

おいーっ!
それを言うなと頼んだのにっ!
友人弟が入店してからこの間、僅か2分ほどである。

友人兄が「いや、ちょ、おまっ……」と絶句しながら笑っている。
友人弟は「え? 押すなよ的なフリとちゃうかったん?」などと白々しいとぼけ顔で言う。
「さすがに空気で分かるやろ!」大爆笑する友人兄。
「シェイシェイって何?」
妻に問われるが答えを言い出せずにいると、
「しょっちゅう行ってた風俗やんな? すぐそこ」
などとシェイシェイの方向を指さす友人弟。

人手なし、ろくでなしである……。

「そんなに行ってたの……?」
妻の冷たい視線を感じていたが、そっちを見れなかった。
その日飲んだビールは、今までで一番苦く感じた。
飲んでいたのが三ツ矢サイダーだったとしても、苦く感じていたかもしれない──。


20時を少し過ぎた頃、姫路支店に到着した。
荷降ろしを済ませ、翌日松本支店へ運ぶ荷物を積み込む。
全ての業務が終わったのは21時頃だった。
姫路支店に併設された寮でコンビニ弁当をかき込み、エアコンが効く部屋で23時には就寝。自宅の自室にエアコンが無いので、この点だけは快適だ。

早く眠ろう、明日に備えて──。

5時20分起床。
30分ほどで準備をすませ、6時前には姫路支店を出発する。
途中で休憩は挟むが、山陽姫路東の入口から山陽道に入り、新名神高速道路、京滋バイパス、名神高速道路、中央自動車道と乗り継ぎ、塩尻北の出口で降りる。
ここまで来ると「あー、地元に戻ってきたな」という実感がある。

松本支店に到着する頃には、すっかり太陽は真上に昇っている。
1時間ほどで荷降ろしを終え、マイカーが置いてある諏訪支店へ向かう。
途中、左手に諏訪湖が一面に拡がり、そのずっと向こうには霧ヶ峰が見える。

八百屋に勤めてる頃、よく軽トラで配達するのに霧ヶ峰を越えたっけ。
途中で野生の鹿が道を塞いでるなんてこともよくあった。
鹿の尻は、真夜中に降り積もった雪のように真っ白で、和歌山で見たパンダより余程きれいだったな──。

そんなことを思い出しながら14時頃諏訪支店に到着し、マイカーに乗り換え家路を辿る。そして30分ほどで玄関の前に到着する。
今日も無事に帰ってきた。
そして俺は玄関を開けて言う。

ただいま──と。



CAST


 まんまる

友人
 遠井秀哉

俺の奥さん
 まんまるの奥さん

友人弟
 遠井秀哉の弟

STAFF

監督・脚本
 遠井秀哉

エンディングテーマ曲
 THE YELLOW MONKEY
 「この恋のかけら」

取材協力
 まんまる

信州弁監修
 まんまる

ネタ提供
 まんまる

Special thanks
 まんまる & YOU

※この作品は99%の実話を元に作られた「ほぼノンフィクション」です。
フィクション部分はエンディングテーマ曲のみです。


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正直、おっさんが舞い上がります。

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