二重ロバスト推定とは?【後編】―二重ロバスト性は何を守り、何を守らないのか―
前編では、AIPWを「結果モデルによる予測+治療モデルを使った残差補正」として計算しました。
しかし、二つのモデルを使うことは、因果推論の前提が二重に保証されることを意味しません。
後編では、結果モデルだけが適切な場合、治療モデルだけが適切な場合、両方が不適切な場合を比べ、二重ロバスト性の守備範囲を整理します。
まず結論:守るのは「モデル誤指定への一定の頑健性」
AIPWは、結果モデルで全員のA時・B時を予測し、実際に受けた治療側の実測-予測を、治療確率の逆数で補正する方法です。

必要な因果仮定と正則性条件のもとで、結果モデルか治療モデルの少なくとも一方が正しく特定され、その真値へ一致するように推定されれば、AIPWは大標本で標的量へ一致します。
これが二重ロバスト性です。守るのは、二つの補助モデルのうち一方の誤指定に対する一定の頑健性です。未測定交絡やpositivity違反を消す盾ではありません。
同じ200人とAIPWを、短く復習する
30日以内の状態悪化を調べる200人例です。治療A群とB群は各100人でした。
軽症:Aは1/20=5%、Bは8/80=10%
重症:Aは24/80=30%、Bは8/20=40%
全200人は軽症50%、重症50%です。主な標的量は、この200人全体で全員A時と全員B時の平均結果を比べるATEのリスク差です。
A時17.5%-B時25%=-7.5ポイント
同じ二つの周辺リスクを比で表した周辺リスク比は0.70です。これは同じ対象集団を別尺度で表す量で、平均結果の差として定義したATEと同じ表現ではありません。
傾向スコア、つまり治療前背景から見たAを受ける確率は、軽症0.20、重症0.80です。
治療をX、結果をY、背景をC、傾向スコアをe(C)、A時・B時の結果予測をm_A(C)、m_B(C)とします。A時とB時への一人分の寄与は、
H_Ai = m_A(C_i) + X_i/e(C_i) × {Y_i-m_A(C_i)}
H_Bi = m_B(C_i) + (1-X_i)/{1-e(C_i)} × {Y_i-m_B(C_i)}
です。実際に受けていない治療側の補正は0です。それぞれを200人で平均し、A時とB時を比較します。
結果モデルだけが適切ならどうなるか
結果モデルが、軽症A 5%、軽症B 10%、重症A 30%、重症B 40%という条件付きリスクを適切に表したとします。
一方、治療モデルは重症度を無視し、全員の傾向スコアを誤って0.50としました。

今回の集計例では、各治療・重症度の中で予測値と実測平均が一致するため、予測誤差の合計は0です。補正後もA 17.5%、B 25%になります。
一般の有限標本で補正項が必ず0になるわけではありません。それでも結果モデルが正しく特定され、その真値へ一致するように推定されれば、治療モデルが誤指定でもAIPWは大標本で標的量へ近づきます。
治療モデルだけが適切ならどうなるか
今度は、傾向スコアが軽症0.20、重症0.80と適切に推定されたとします。
結果モデルは治療も重症度も区別せず、全員を20%と予測する粗いモデルです。

軽症Aと重症Aの補正合計は-5人相当なので、A時は20%-5÷200=17.5%になります。軽症Bと重症Bの補正合計は+10人相当なので、B時は20%+10÷200=25%です。
この整った教材表では正確に基準値へ戻ります。一般には、治療モデルが正しく特定され、その真値へ一致するように推定されれば、結果モデルが誤指定でも大標本で一致性を保てる、という性質です。
両方のモデルが不適切なら、保証はない
結果モデルは全員20%、治療モデルも全員0.50とする、二つとも粗いモデルを考えます。
この場合、補正後は観察された各治療群の値に戻り、A 25%、B 16%になります。

リスク差は+9ポイントで、標準化した-7.5ポイントとは方向まで逆です。
両方が不適切でも、偶然に標的量へ近い結果が出ることはあります。しかし、二重ロバスト性による保証はありません。「二つの誤りが互いに打ち消し合う方法」ではないからです。
四つの組み合わせで整理する

四つの組み合わせのうち、少なくとも一方が適切なら、大標本で標的量へ一致できます。両方が不適切な右下だけは保証されません。
ただし、これは「二つのモデルが半分ずつ正しければよい」という意味ではありません。また、どちらが適切かをAIPW自身が自動判定するわけでもありません。
「一致推定」は、有限標本で毎回正解という意味ではない
二重ロバスト性は、標本が大きくなると推定量が目的の値へ近づく一致推定性の話です。

小さな標本では、一方のモデルが適切でも推定誤差が残ります。常に不偏、常に高精度、信頼区間が自動的に正しい、という保証でもありません。特に傾向スコアが0や1に近いと、少数の大きな補正が結果を左右し得ます。
ここでいう統計学上の「一致推定性」と、因果推論の仮定であるconsistencyは別です。後者は、観察結果が実際に受けた治療下の反実仮想結果へ対応する、という意味です。
「モデルが適切」とは、変数を入れただけではない
結果モデルが適切とは、治療と背景に応じた条件付き平均を十分に表すことです。必要な交互作用や非線形関係を落とせば、変数名が式に入っていても誤指定になり得ます。
治療モデルが適切とは、背景に応じた治療確率を十分に表すことです。重要な治療前交絡因子を落としたり、関係の形を誤ったりすれば、傾向スコアは適切に推定されません。

一つの変数を一方のモデルだけへ入れれば必ず安全、という単純な規則でもありません。少なくとも一方のモデル全体が、必要な条件付き平均または治療確率を適切に表す必要があります。
二重ロバスト性でも、因果推論の前提は守れない
因果効果として読むには、少なくとも三つの仮定が必要です。
条件付き交換可能性:測定した治療前背景を考慮すれば、A群とB群を比べられる
positivity:対象となる各背景で、AとBのどちらを受ける確率も0ではない
consistency:観察結果が、実際に受けた治療下の結果へ対応する

重要な交絡因子を測定していなければ、結果モデルと治療モデルの両方で適切に扱えません。治療確率が0の背景では、観察データから両治療を比較できません。
治療やアウトカムの曖昧な定義、測定誤差、欠測、対象者選択による偏りも別の問題です。二つのモデルを使うことは、因果仮定を二重に保証することではありません。
二つのモデルと、極端な補正を診断する
実際の研究では、点推定値だけでなく二つのモデルを確認します。
治療モデルでは、傾向スコアの重なり、0や1に近い値、極端な重み、重み付け後の背景バランスを見ます。
結果モデルでは、予測と観察のずれ、較正、残差、外挿、交互作用や非線形関係の扱いを確認します。

AIPWでは、一人分の寄与が極端になっていないか、モデル仕様を変えると結果が大きく動かないかも確認します。診断が良好でも、未測定交絡がないことを証明したわけではありません。
論文では、この順で確認する

確認点は、次の四群にまとめられます。
対象:誰について、どの効果尺度を求めたか
モデル:二つのモデルへ何を入れ、関係の形をどう指定したか
診断:重なり、背景バランス、予測誤差、極端な重み・寄与を確認したか
推論:推定手順全体に対応した95%信頼区間か
95%信頼区間には、二つのモデルを同じデータから推定した不確実性も反映する必要があります。点推定の二重ロバスト性だけで、信頼区間の妥当性まで自動的に保証されるわけではありません。論文では、AIPWの全手順に対応した計算法を使ったかを確認します。
まとめ
二重ロバスト性は、必要な因果仮定と正則性条件のもとで、
結果モデルか治療モデルの少なくとも一方が適切なら、大標本で標的量へ一致できる
という性質です。
一方で、両方のモデルが不適切なら保証はありません。有限標本で毎回正解になるわけでも、未測定交絡、positivity違反、測定誤差、欠測、対象者選択を解決するわけでもありません。
「二つ使ったから安心」ではなく、標的量、二つのモデル、因果仮定、診断、95%信頼区間を別々に確認することが大切です。
次回は、
TMLEとは?―AIPWの補正を「予測モデルの更新」として行うと何が変わるのか
について、二重ロバスト性と推定値の範囲を結び付けて整理します。
参考文献
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https://miguelhernan.org/whatifbook
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