二重ロバスト推定とは?【前編】―AIPWの「予測+補正」を同じ200人で計算する―
これまで、同じ200人の治療例を使い、回帰標準化、IPTW、傾向スコア・マッチングを見てきました。
回帰標準化は、結果モデルで「全員が治療Aなら」「全員が治療Bなら」を予測します。IPTWは、治療を受ける確率から重みを作り、一人ひとりの平均への寄与を変えます。
では、この二つを一つの推定量の中で使うAIPWは、何を計算しているのでしょうか。
前編では、同じ200人例を使い、AIPWを予測、ずれの補正、集団平均の順に追います。
まず結論:AIPWは「予測」に「補正」を足す
AIPWは、回帰標準化の推定値とIPTWの推定値を半分ずつ平均する方法ではありません。
最初に結果モデルで予測を作り、実際に観察された結果とのずれを、治療を受ける確率の逆数で補正します。

AIPW=結果モデルによる予測+治療モデルを使った残差補正
ここでいう残差は、実測-予測です。まず、この計算の出発点となる200人を確認します。
同じ200人と、四つの悪化率
30日以内の状態悪化を調べた観察研究です。治療A群とB群は各100人でした。
軽症:治療Aは1/20=5%、治療Bは8/80=10%
重症:治療Aは24/80=30%、治療Bは8/20=40%

治療A群には重症者が80%、治療B群には20%しかいません。このまま全体を比べると、治療の違いと重症度の違いが混ざります。
今回知りたいのは、研究参加者200人全体について「全員がAを受けた場合」と「同じ200人全員がBを受けた場合」の平均結果の差です。200人全体は軽症50%、重症50%です。
この集団で平均すると、A時のリスクは17.5%、B時は25%です。
ATEのリスク差:17.5%-25%=-7.5ポイント

本稿では、このリスク差を主な標的量とします。同じ二つの周辺リスクを比で表せば、周辺リスク比は17.5%÷25%=0.70です。これは同じ対象集団を別の尺度で比べた量で、平均結果の差として定義したATEそのものと同じ表現ではありません。
AIPWは、仕事の違う二つのモデルを使う
一つ目は、治療と治療前背景から状態悪化を予測する結果モデルです。
二つ目は、治療前背景から治療Aを受ける確率を予測する治療モデルです。この確率が傾向スコアです。
今回の傾向スコアは、軽症0.20、重症0.80です。治療Bを受ける確率は、軽症0.80、重症0.20になります。

結果モデルは「結果がどう起きるか」、治療モデルは「治療がどう選ばれるか」を担当します。どちらも最終的に知りたいリスク差を直接表すモデルではないため、補助モデル、またはnuisance modelと呼ばれます。
第1段階:同じ200人をAとBで二度予測する
まず結果モデルを使い、一人ひとりについて二つの予測を作ります。
もしこの人がAを受けたら、悪化リスクはいくつか
もし同じ人がBを受けたら、悪化リスクはいくつか

ここまでは回帰標準化と同じです。A時の200個の予測を平均すればA時の予測平均、B時も同様です。
ただしAIPWは、予測だけでは終わりません。
第2段階:実際に受けた治療側のずれだけを補正する
実際にAを受けた人なら、観察できるのはAを受けた後の結果です。その人について、実測結果-A時の予測を計算できます。
一方、その人がBを受けた場合の結果は観察していないため、B側の残差は作れません。B側の補正は0とします。実際にBを受けた人では、この関係が逆になります。

補正に使うのは、実際に受けた治療の確率の逆数です。
軽症A:1÷0.20=5
重症A:1÷0.80=1.25
軽症B:1÷0.80=1.25
重症B:1÷0.20=5

その背景では受けにくかった治療を実際に受けた人ほど、観察された予測誤差を大きく平均へ反映します。
粗い20%予測を、治療Aについて補正する
補正が見えるように、結果モデルが治療も重症度も区別せず、全員のA時・B時リスクを20%と予測したとします。これは意図的に粗いモデルです。
A群の軽症20人では、予測悪化数は20×20%=4人、実測は1人です。
軽症Aの補正:1-4=-3、-3×5=-15
A群の重症80人では、予測悪化数は80×20%=16人、実測は24人です。
重症Aの補正:24-16=+8、+8×1.25=+10

全200人のA時予測平均20%に、補正合計を200人で割って足します。
A:20%+{(-15+10)÷200}=17.5%
治療Bも、同じ方法で補正する
B群の軽症80人では、予測悪化数は16人、実測は8人です。
軽症Bの補正:8-16=-8、-8×1.25=-10
B群の重症20人では、予測悪化数は4人、実測は8人です。
重症Bの補正:8-4=+4、+4×5=+20

したがって、
B:20%+{(-10+20)÷200}=25%
となります。適切な治療モデルが、背景の偏りを反映して粗い結果予測を補正した教材例です。
第3段階:一人分の寄与を200人で平均する
式で確認します。治療AをX=1、BをX=0、結果をY、背景をC、傾向スコアをe(C)、A時・B時の結果予測をm_A(C)、m_B(C)とします。
A時への一人分の寄与は、
H_Ai = m_A(C_i) + X_i/e(C_i) × {Y_i-m_A(C_i)}
B時への一人分の寄与は、
H_Bi = m_B(C_i) + (1-X_i)/{1-e(C_i)} × {Y_i-m_B(C_i)}
です。それぞれを200人で平均してA時・B時の周辺リスクを求め、その差を取ります。

H_AiやH_Biは個人の反実仮想結果や個人リスクではありません。集団平均を作るための計算上の寄与です。ここでは標準的な非安定化・非正規化の式を示しました。
三つのシナリオを、先に短く確認する
ここまでの計算だけを見ると、AIPWがいつも正しい答えを出すように感じるかもしれません。そうではありません。

結果モデルが適切・治療モデルが不適切:大標本で標的量へ一致できる
治療モデルが適切・結果モデルが不適切:大標本で標的量へ一致できる
両方が不適切:二重ロバスト性による保証はない
今回17.5%と25%へ正確に戻ったのは、この整った集計例での結果です。一方だけが適切なら有限標本で毎回正解になる、常に不偏になる、常に精度が高くなる、という意味ではありません。
また、因果効果として読むには、少なくとも次が必要です。
条件付き交換可能性:測定した治療前背景を考慮すれば、A群とB群を比べられる
positivity:対象となる各背景で、AとBのどちらを受ける確率も0ではない
consistency:観察結果が、実際に受けた治療下の結果へ対応する
これらの因果仮定と必要な正則性条件のもとで、二つのモデルの少なくとも一方が正しく特定され、その真値へ一致するように推定されることが二重ロバスト性の前提です。
ここでいう因果仮定のconsistencyと、標本が増えると推定値が真値へ近づく統計学的な一致推定性は、別の概念です。
95%信頼区間には、結果モデルと治療モデルを推定した不確実性も反映する必要があります。点推定が二重ロバストでも、通常の回帰係数の標準誤差をそのまま使えばよいわけではありません。AIPWの全推定手順に対応した方法を使います。
まとめ
AIPWの計算は、
全員についてA時・B時を予測する
実際に受けた治療側の予測誤差を、逆確率で補正する
補正後の寄与を対象集団で平均する
の三段階です。
今回、全員20%という粗い結果予測も、適切な治療モデルによる補正でA 17.5%、B 25%、リスク差-7.5ポイントになりました。しかし、「AIPWならいつも正解」ではありません。
後編では、
二重ロバスト性は何を守り、未測定交絡やpositivity不足など何を守らないのか
を、三つのシナリオと四つの組み合わせから整理します。
参考文献
Bang H, Robins JM. Doubly Robust Estimation in Missing Data and Causal Inference Models. Biometrics. 2005;61(4):962–973.
https://doi.org/10.1111/j.1541-0420.2005.00377.x
Funk MJ, Westreich D, Wiesen C, Stürmer T, Brookhart MA, Davidian M. Doubly Robust Estimation of Causal Effects. Am J Epidemiol. 2011;173(7):761–767.
https://doi.org/10.1093/aje/kwq439
Hernán MA, Robins JM. Causal Inference: What If. Boca Raton: Chapman & Hall/CRC. 2020.
https://miguelhernan.org/whatifbook
タグ:
いいなと思ったら応援しよう!
この記事が少しでも役に立ったと思ったら、チップで応援していただけると励みになります。今後も、研究や論文作成を少し楽にする実践的な内容を書いていきます。