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傾向スコア・マッチングとは?【前編】―「似た人」を選ぶと、誰が残るのか―

前回は、傾向スコアからIPTWの重みを作り、一人ひとりの「平均への寄与」を変える方法を整理しました。

では、同じ傾向スコアを使うマッチングでは、何が変わるのでしょうか。

マッチングは、背景の似た人を治療A群とB群から選び、比較する組を作る方法です。似た人を比べやすくなる一方、比較に使われない人が出ることがあります。

前編では、同じ200人例を使い、傾向スコアを付けるところから40組が完成するまでを、一段ずつ図で追います。

まず結論:マッチングは「比較する人」を選ぶ

傾向スコア・マッチングは、治療前背景から見て似た比較相手を探し、解析に使う人を選びます。

一方、IPTWは原則として観察された人を残し、結果を平均するときの寄与を変えます。



マッチング:誰と誰を比べるかを決める

IPTW:一人ひとりをどれだけ平均へ反映するかを決める

方法名だけで優劣は決まりません。まず知りたいのは、誰についての効果かです。

出発点は、背景の異なる200人

30日以内の状態悪化を調べた観察研究を考えます。治療A群とB群は各100人です。

治療A群:軽症20人、重症80人

治療B群:軽症80人、重症20人



A群には重症者が多く、B群には軽症者が多くいます。このまま比べると、治療の違いと重症度の違いが混ざります。

傾向スコアは「治療Aを受ける確率」

今回の教材例では、治療前背景は軽症か重症かだけとします。

軽症者は全体で100人、そのうち治療Aは20人なので、

軽症の傾向スコア:20÷100=0.20

重症者も全体で100人、そのうち治療Aは80人なので、

重症の傾向スコア:80÷100=0.80



これは仕組みを見やすくした単純例です。実際は、年齢、併存疾患、検査値など複数の治療前変数から推定します。

傾向スコアは状態悪化の確率ではありません。治療前背景から見た、治療選択のされ方を0から1の間にまとめた値です。

二人のスコアの差を「距離」として見る

同じ重症度なら、傾向スコアの差は0です。

軽症と重症では、

|0.20-0.80|=0.60

離れています。



距離が小さいほど、測定した治療前背景から見た治療の選ばれ方が似ています。

ただし、スコアが近いことと、一人ひとりの背景が完全に同じことは同義ではありません。組を作った後の診断が必要です。

まず「最も近い未使用の相手」を探す

1対1最近傍マッチングでは、たとえば治療Aの1人に対し、まだ使われていない治療Bの候補から、傾向スコアが最も近い1人を探します。



しかし、「最も近い」というだけでは、かなり離れた人まで結ばれることがあります。

caliperで、遠すぎる相手を結ばない

そこで、許容する最大距離をcaliper(キャリパー)として事前に決めます。

今回の教材例ではcaliperを0.10とします。



距離0:0.10以内なので結ぶ

距離0.60:0.10を超えるので結ばない

したがって、今回は同じ重症度同士だけが組になります。0.10は仕組みを見せる教材上の設定で、どの研究にも使える万能な推奨値ではありません。

スコアの尺度、caliper、同点の扱い、誰から順に組を作るかは、結果を見る前に決めます。

置換なしでは、同じBを2回使わない

次に、同じ比較相手を2回使わない置換なしの1対1マッチングを考えます。



組を作るときに使うのは、治療より前に分かっていた背景です。30日後に状態が悪化したかという結果は見ません。

背景で組を作る → 組が決まる → 最後に結果を見る

この順番が大切です。

軽症では20組ができ、Bが60人余る

軽症は、治療Aが20人、治療Bが80人です。

1対1で作れるのは20組です。



治療Bの軽症者60人は、比較相手が存在しないのではありません。1対1で必要な人数を超えたため、選ばれませんでした。

重症でも20組ができ、Aが60人未マッチになる

重症は、治療Aが80人、治療Bが20人です。

こちらも作れるのは20組です。



治療Aの重症者60人には、caliper内に未使用のBが残っていません。そのため未マッチになります。

最終的に、40組・80人が残る

軽症20組と重症20組を合わせると、

20組+20組=40組

治療A 40人+治療B 40人=80人

です。



この設計で因果効果の標的になるのは、比較相手が見つかって残ったA群40人です。B群40人は、そのA群40人がBを受けた場合を推定するための比較群です。

元の200人全体や、A群100人全員についての効果ではありません。「誰についての効果か」は後編で整理します。

まだ、マッチ後の悪化率は決まっていない

元の集計表にある悪化人数は、次の通りです。

軽症:治療Aは1/20、治療Bは8/80

重症:治療Aは24/80、治療Bは8/20

マッチ後は、A軽症20人とB重症20人は全員残ります。一方、A重症80人とB軽症80人から実際にどの20人が選ばれたかは、集計表だけでは分かりません。結果を見ずに選ぶため、残った20人の悪化数が元の割合どおりになるとも限りません。

したがって、元の四つの集計値だけから、マッチ後をA 17.5%、B 25%と決め打ちすることはできません。実際に残った人の結果を使って計算します。

今回そろえた重症度は、両群とも軽症20人・重症20人、すなわち50%対50%です。

その前に、傾向スコアだけでなく年齢や検査値など元の治療前変数がそろったかを、標準化差や分布で確認します。

組ができても、因果関係が証明されたわけではない

マッチングでそろえられるのは、測定して傾向スコアへ入れた治療前背景です。未測定交絡や測定誤差などは残ります。

因果効果として読むには、背景を考慮すれば比較できること、各背景で両治療を受ける可能性があること、観察結果が実際に受けた治療下の結果へ対応することも必要です。詳しい条件は後編で整理します。

今回A重症60人が未マッチなのは、置換なし1対1でcaliper内の未使用Bが不足したためで、B軽症60人は余剰で未選択でした。軽症・重症ともAとBが存在し、傾向スコアは0でも1でもないため、この未マッチだけで構造的なpositivity違反を意味しません。

現時点では40組の結果が分からないため、効果量も95%信頼区間も計算できません。結果を確認した後は、同じ組の人どうしの依存を反映した方法で求めます。

まとめ

傾向スコア・マッチングは、治療前背景から見て似た比較相手を選ぶ方法です。

今回のcaliper 0.10・1対1・置換なしの例では、

軽症20組+重症20組=40組、80人

が残りました。

A重症60人は相手不足で未マッチ、B軽症60人は余剰で未選択です。120人が同じ理由で外れたわけではありません。

後編では、

残った40組の背景は本当にそろったのか。結果は誰に当てはまるのか

を、置換あり、ATT、ATE、IPTWと結び付けて整理します。

参考文献

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https://doi.org/10.2202/1557-4679.1146

Hernán MA, Robins JM. Causal Inference: What If. Boca Raton: Chapman & Hall/CRC. 2020.
https://miguelhernan.org/whatifbook



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