調整方法をどう使う?【前編】―標準化と回帰予測を同じ200人で理解する―
前回は、因果関係について置いた仮定を矢印で表すDAGを使い、治療前の重症度を調整する必要があると判断しました。
しかし、調整する変数が決まっても、まだ解析は終わりません。
「標準化とは何をそろえるのか」「回帰を使うと、なぜ集団全体のリスクが求められるのか」は、式だけを見ると分かりにくいところです。
そこで今回は、同じ200人の治療例を最後まで使います。前編では直接標準化と回帰標準化に絞り、計算を一段ずつ図で追います。
まず結論:標準化は「比べる背景の割合」を共通にする
DAGで決めるのは、何を調整するかです。
今回のDAGでは、治療前の重症度が治療選択と30日以内の状態悪化の共通原因なので、重症度を考慮します。
一方、標準化で決めるのは、軽症と重症をどの割合で平均するかです。

DAG:調整する変数を選ぶ
標準化:その変数ごとの結果を、共通の背景構成で平均する
この二つは役割が違います。
同じ200人でも、群の背景は大きく違う
30日以内の状態悪化を調べた観察研究を考えます。治療A群と治療B群は各100人です。
治療A群には軽症20人、重症80人がいました。治療B群には軽症80人、重症20人がいました。
悪化した人は次の通りです。
軽症:治療Aは1/20=5%、治療Bは8/80=10%
重症:治療Aは24/80=30%、治療Bは8/20=40%

軽症でも重症でも、治療Aの悪化率は治療Bより低くなっています。
ところが、重症度を分けずに集計すると、治療Aは25/100=25%、治療Bは16/100=16%です。
未調整リスク比:25%÷16%=1.5625(約1.56)
全体だけを見ると、治療Aの方が悪いように見えます。

治療A群に重症者が多いため、治療の違いと重症度の違いが混ざったのです。
解析の前に「誰について比べるか」を決める
今回知りたいのは、この研究に参加した200人全体について、
もし全員が治療Aを受けたら、何%が悪化するか
もし同じ200人全員が治療Bを受けたら、何%が悪化するか
の差です。

研究全体では軽症100人、重症100人です。したがって、比べる対象集団の構成は軽症50%、重症50%です。
この200人全体での平均的な差を、ここでは平均治療効果(ATE)として考えます。
対象集団が変われば、平均に使う背景構成も変わります。解析方法より先に「誰についての効果か」を決める理由はここにあります。
直接標準化:両治療を同じ50%対50%で平均する
まず、軽症と重症の悪化率を、対象集団の割合で平均します。
実際の治療A群は軽症20%、重症80%ですが、その割合をそのまま使いません。治療B群も同様です。
両治療とも、対象集団と同じ軽症50%、重症50%で平均します。

治療Aでは、
5%×0.5+30%×0.5=17.5%
治療Bでは、
10%×0.5+40%×0.5=25%
です。

標準化後の比較は、
リスク差:17.5%-25%=-7.5ポイント
リスク比:17.5%÷25%=0.70
となります。

標準化は、実在する患者の重症度を書き換える操作ではありません。同じ背景構成なら、結果はどう違うかを計算する操作です。
回帰標準化:細かい層の代わりに予測モデルを使う
重症度が二つだけなら、表から直接計算できます。
しかし年齢、併存疾患、検査値などが増えると、背景の組み合わせが細かくなり、各マスの人数が少なくなります。
そこで、まず状態悪化を治療と背景から予測する結果モデルを作ります。

今回の単純例では、治療、重症度、そして「治療効果が重症度によって違うこと」を表す治療と重症度の交互作用を含め、四つの組み合わせを再現できるモデルを考えます。予測リスクは5%、10%、30%、40%です。
次に、同じ200人全員について、治療だけをAにした場合とBにした場合をそれぞれ予測します。

最後に、Aの場合の200個の予測値を平均し、Bの場合の200個の予測値も平均します。

この手順を回帰標準化、またはg-computationと呼びます。
大切なのは、回帰式の治療係数だけを読むのではなく、対象集団全員の予測リスクへ戻して平均することです。
ロジスティック回帰で治療と重症度の交互作用を含めた場合、治療の主効果係数を指数変換した値は、重症度の基準層における条件付きオッズ比です。別の重症度層のオッズ比には交互作用係数も関わります。いずれも、今回求めた集団全体の標準化リスクやリスク比とは別の量なので、数値を直接比較できません。
二つの標準化は、同じ問いへ別の道から答える
直接標準化は、観察された背景別リスクを共通の割合で平均します。
回帰標準化は、結果モデルから各治療下のリスクを予測し、同じ対象集団で平均します。

今回のような単純例でモデルが四つのマスを再現すれば、どちらも治療A 17.5%、治療B 25%になります。
実際の研究では、回帰モデルの形、交互作用、非線形な関係の扱いによって推定値は変わり得ます。
因果効果として読むには、計算以外の条件も要る
17.5%対25%を因果効果として読むには、少なくとも次の条件が必要です。
重症度を考慮した後に、治療選択と結果の未測定の共通原因が残らない
対象集団に現れる各重症度で、治療AとBのどちらを受ける確率も0より大きい
治療と結果が明確に定義され、観察結果が実際に受けた治療下の結果に対応する
それぞれ、条件付き交換可能性、positivity、consistencyに対応します。
positivityは対象集団における治療確率についての仮定です。実データで各重症度に両治療の人が十分いるかは、経験的な重なりとして別に確認します。
DAGで変数を選び、標準化を正しく計算しても、これらが自動的に保証されるわけではありません。
実データで、ある重症度の人が治療Bを一人も受けていなければ、直接標準化ではその層のBのリスクを計算できません。回帰モデルが数値を出しても、観察のない領域への外挿です。空セルや極端に少ないセルは、positivityをデータ上で支える重なりが不足しているサインです。

未測定交絡、測定誤差、欠測、研究参加者の選ばれ方による偏りも残り得ます。実際の研究では、点推定だけでなく、用いた解析法に対応した95%信頼区間と感度分析も確認します。
論文では、この順で確認する
1 対象集団、治療、アウトカム、時点は何か
2 誰についての効果を求めたか
3 どの背景変数を、なぜ調整したか
4 直接標準化か、回帰標準化か
5 回帰モデルに交互作用や非線形性をどう入れたか
6 標準化リスク、リスク差、リスク比と95%信頼区間を示したか
まとめ
標準化は、治療群の実際の背景割合をそのまま比べるのではなく、共通の対象集団の割合で結果を平均する方法です。
今回の200人例では、軽症50%、重症50%にそろえると、
治療A 17.5%、治療B 25%
リスク差-7.5ポイント、リスク比0.70
となりました。
直接標準化は表から平均し、回帰標準化は一人ひとりをAとBの両方で予測してから平均します。入口は違っても、同じ対象集団へ戻して平均する点が共通しています。
後編では、
IPTWは、なぜ「その背景では受けにくかった治療を受けた人」を重くするのか
について、同じ200人の寄与を変える計算として整理します。
参考文献
Hernán MA, Robins JM. Causal Inference: What If. Boca Raton: Chapman & Hall/CRC. 2020.
https://miguelhernan.org/whatifbook
Snowden JM, Rose S, Mortimer KM. Implementation of G-Computation on a Simulated Data Set: Demonstration of a Causal Inference Technique. Am J Epidemiol. 2011;173(7):731–738.
https://doi.org/10.1093/aje/kwq472
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https://doi.org/10.1016/j.jclinepi.2021.06.004
Westreich D, Cole SR. Invited Commentary: Positivity in Practice. Am J Epidemiol. 2010;171(6):674–677.
https://doi.org/10.1093/aje/kwp436
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