見出し画像

調整方法をどう使う?【後編】―IPTWの「重み」を同じ200人で理解する―

前編では、軽症と重症を共通の50%対50%で平均し、治療A 17.5%、治療B 25%という標準化リスクを求めました。

後編では、同じ問いに重み付けで答えます。

「人に5倍の重みを付ける」と聞くと、患者を5人に増やすように感じるかもしれません。しかし、実際に変えるのは人数ではなく、結果を平均するときの一人ひとりの寄与です。

今回はIPTWの計算を、確率、逆数、重み付け後の集団、結果の順に図で追います。

まず結論:IPTWは「その背景では受けにくい治療」の情報を重くする

治療前の背景から見ると、受けやすい治療と受けにくい治療があります。

IPTWでは、実際に受けた治療の確率が小さい人ほど、大きな重みを持たせます。

受けやすかった治療:小さめの重み

その背景では受けにくかった治療:大きめの重み

こうして、測定した治療前背景が両群で似た計算上の集団を作ります。



同じ200人と、同じ問いを使う

治療A群と治療B群は各100人です。

治療A群は軽症20人、重症80人。治療B群は軽症80人、重症20人です。

30日以内の悪化率は、軽症でA 5%、B 10%、重症でA 30%、B 40%です。



重症度を分けずに集計すると、治療Aの悪化率は25%、治療Bは16%です。しかし、軽症でも重症でもAの悪化率はBより低く、治療A群に重症者が多いという背景差が治療差と混ざっています。

知りたいのは、この200人全体について、全員がAを受けた場合と全員がBを受けた場合の平均リスクです。

つまり、対象は軽症50%、重症50%の200人全体で、狙う量は平均治療効果(ATE)です。

ここではATEを、全員Aの場合の平均リスクから全員Bの場合の平均リスクを引いた差として表します。二つの平均リスクから計算する0.70は、同じ対象集団での周辺リスク比です。



前編の標準化と同じ問いを、今度は重み付けで計算します。

まず「治療Aを受ける確率」を求める

治療前の背景から推定した、治療Aを受ける確率を傾向スコアと呼びます。

記号では e(C)=P(Aを受ける|治療前背景C) と表せます。

今回の背景は軽症か重症かだけなので、計算は簡単です。

軽症者が治療Aを受けた確率:20/100=0.20

重症者が治療Aを受けた確率:80/100=0.80



治療Bを受ける確率はその反対で、軽症では0.80、重症では0.20です。

傾向スコアは、状態悪化の確率ではありません。どちらの治療を受けたかを、治療前背景から表した確率です。

実際に受けた治療の確率を、ひっくり返す

今回のATE向けIPTWでは、実際に受けた治療の確率の逆数を重みにします。



治療A群では、

軽症:1÷0.20=5

重症:1÷0.80=1.25

治療B群では、

軽症:1÷0.80=1.25

重症:1÷0.20=5

です。



たとえば、軽症者が治療Aを受けるのは20%でした。その少ない人たちが、同じ背景の軽症者全体を代表するように、寄与を5倍にします。

重み5は「その患者が5人に増えた」という意味ではありません。平均を計算するときに、その観察が5人分に相当する寄与を持つという意味です。

治療A群を50%対50%へ組み直す

治療A群には、軽症20人、重症80人がいました。

それぞれの重みを掛けると、

軽症:20×5=100人相当

重症:80×1.25=100人相当

になります。



実際には20%対80%だった重症度構成が、計算上は50%対50%になりました。

治療B群も50%対50%へ組み直す

治療B群には、軽症80人、重症20人がいました。

軽症:80×1.25=100人相当

重症:20×5=100人相当

です。



両群が、同じ軽症50%、重症50%の構成になりました。この計算上の集団を擬似集団と呼びます。

重み付け後の悪化リスクを計算する

治療A群の重み付き悪化人数相当は、

軽症:1×5=5

重症:24×1.25=30

です。合計35を重みの合計200で割ると、

治療A:35÷200=17.5%

になります。

治療B群では、

軽症:8×1.25=10

重症:8×5=40

なので、

治療B:50÷200=25%

です。

ここで分母が200なのは、この単純例で各治療群の重みの合計が200になったためです。一般のデータで分母が200に固定されるわけではなく、重み付き結果の合計を、その群の重みの合計で割ります。



したがって、

リスク差:17.5%-25%=-7.5ポイント

リスク比:17.5%÷25%=0.70

となります。前編の標準化と同じ対象集団、同じ効果尺度を狙ったため、この単純例では同じ答えになりました。

IPTWを因果効果として読むための三つの条件

IPTWは、重みを計算すれば自動的に因果関係が分かる方法ではありません。

条件付き交換可能性

重みを作るために使った背景を考慮した後、治療選択と結果の未測定の共通原因が残らないことが必要です。

positivity

対象集団で起こり得る各背景について、治療AとBのどちらを受ける確率も0より大きいことが必要です。

consistency

治療の内容が明確で、実際に受けた治療下の観察結果が、その治療下の反実仮想結果に対応することが必要です。



DAGは交換可能性を考える助けになりますが、未測定交絡がないことをデータだけで証明するものではありません。

重み付け後に、必ず診断する

IPTWでは、傾向スコアを計算しただけでは終わりません。

まず、重み付け後に治療前背景がそろったかを確認します。一般には、各背景の標準化差などを重み付け前後で比べます。

次に、両群の傾向スコア分布が十分に重なるか、0や1に近い傾向スコアと極端な重みがないかを確認します。



一部の人が非常に大きな重みを持つと、少数の観察が結果を大きく左右し、推定が不安定になります。

positivityは対象集団について置く仮定です。一方、手元のデータで傾向スコア分布がどの程度重なるかは、実務上のoverlapとして確認します。重み付け後の有効標本サイズも、実質的にどれだけの情報が残ったかを知る手掛かりになります。

IPTWがそろえられるのは、測定して重みのモデルへ入れた背景だけです。有限のデータでは完全なバランスも自動的には保証されません。未測定交絡、測定誤差、欠測、研究参加者の選ばれ方による偏りは別に検討します。

極端な重みを小さく抑える切り詰めは、元のATEの推定値に影響することがあります。どの基準で切り詰めたかと、基準を変えた感度分析を確認します。

安定化重みは、重みのばらつきを抑える別の工夫です。今回の標準的なATE重み付けでは、目指す対象集団と効果は変わりませんが、使用した重みの式を確認します。

また、ATEと、実際に治療Aを受けた人を対象とするATTでは、対象集団と重みの式が違います。「IPTWを使った」という方法名だけでなく、どの効果を狙った重みかを確認してください。

論文では、この順で確認する

1 誰についての効果か:ATEか、治療を受けた人のATTか

2 傾向スコアへ入れたのは、治療前のどの変数か

3 どの式で重みを作ったか

4 両群の傾向スコアに重なりがあるか

5 重み付け後に背景バランスが改善したか

6 極端な重みをどう扱ったか

7 効果量と95%信頼区間をどう計算したか

重みはデータから推定しているため、95%信頼区間にはその不確実性も適切に反映させる必要があります。

まとめ

IPTWは、実際に受けた治療の確率の逆数を使い、その背景では受けにくかった治療を受けた人の寄与を大きくする方法です。

今回の例では、治療A群もB群も、重み付け後に軽症50%、重症50%になりました。

その擬似集団で計算すると、

治療A 17.5%、治療B 25%

リスク差-7.5ポイント、リスク比0.70

となります。

ただし、重みが作れたことと、因果効果を正しく推定できたことは同じではありません。変数選択、三つの因果仮定、背景バランス、重なり、極端な重みまで確認して、初めて結果を読めます。

次回は、

傾向スコア・マッチングとは?―IPTWと「誰を比べるか」はどう違うのか

について、同じ200人例を使い、対象集団と比較相手の違いから整理します。

参考文献

Hernán MA, Robins JM. Causal Inference: What If. Boca Raton: Chapman & Hall/CRC. 2020.
https://miguelhernan.org/whatifbook

Robins JM, Hernán MA, Brumback B. Marginal Structural Models and Causal Inference in Epidemiology. Epidemiology. 2000;11(5):550–560.
https://doi.org/10.1097/00001648-200009000-00011

Austin PC, Stuart EA. Moving towards Best Practice When Using Inverse Probability of Treatment Weighting (IPTW) Using the Propensity Score to Estimate Causal Treatment Effects in Observational Studies. Stat Med. 2015;34(28):3661–3679.
https://doi.org/10.1002/sim.6607

Westreich D, Cole SR. Invited Commentary: Positivity in Practice. Am J Epidemiol. 2010;171(6):674–677.
https://doi.org/10.1093/aje/kwp436


いいなと思ったら応援しよう!

論文まわり実践室 この記事が少しでも役に立ったと思ったら、チップで応援していただけると励みになります。今後も、研究や論文作成を少し楽にする実践的な内容を書いていきます。