DAG(因果ダイアグラム)とは?【後編】―バックドア経路から「調整する変数」を選ぶ―
前編では、DAGの箱は変数、矢印は因果についての仮定を表すことを確認しました。
そして、同じDAGの中に、治療から結果へ向かう道と、治療前の背景を通る別の道があることを見ました。
では、どの道を残し、どの道を閉じれば、治療の因果効果を考えられるのでしょうか。
後編では、経路が調整によってどう開閉し、そこから調整変数をどう選ぶかを順番に整理します。
先に結論を一文でいうと、
治療の総効果を知りたいときは、治療から結果へ向かう因果経路を残し、治療前の背景を通って混ざる別の経路をすべて遮ります。
まず結論:「原因の道は残し、別の道は閉じる」
前編と同じ、入院時の治療A・Bの選択X、治療前の重症度C、30日以内の状態悪化Yを使います。
知りたいのは、治療Xから状態悪化Yへ及ぶ総効果です。
総効果には、XからYへ向かうすべての因果経路を通る作用を含めます。

単純なDAGには、
因果経路:X → Y
別の経路:X ← C → Y
があります。
目標は矢印そのものを消すことではありません。比較の中で、後者の経路が治療と結果の関連へ寄与しないようにすることです。
条件づける変数によって、経路は開いたり閉じたりする
DAGの経路を読むときは、何の変数へ条件づけたかを明確にします。
直感的には、ある変数の値が同じ人どうしを比べることです。
層別して比べる、対象をある値へ制限する、回帰モデルに変数を入れる、といった操作は条件づけとして扱えます。
標準化、重み付け、マッチングは計算の形が同じではありませんが、DAGで選んだ背景変数を使って効果を推定する実装になり得ます。いずれも、変数を使っただけで比較可能性が保証されるわけではありません。

DAG上で「経路が開いている」「経路が閉じている」という表現は、どの変数集合へ条件づけたかに対して決まります。
経路に固有の永久的な性質ではありません。
開いた経路は、その経路が二つの変数の統計的関連へ寄与しうる状態です。
閉じた経路は、その経路を介した関連が遮断されている状態です。
途中のノードで矢印の頭がぶつからないとき、そのノードを経路上の非コライダーと呼びます。非コライダーへ条件づけると、その経路は閉じます。
反対に、矢印の頭がぶつかるコライダーは、条件づけていないときに経路を閉じます。コライダー自身、またはコライダーから矢印の向きにたどった先の変数である子孫へ条件づけると、閉じていた経路が開き得ます。

つまり、覚える規則は二つです。
経路上の非コライダーへ条件づけると、その経路は閉じる。
経路上のコライダー、またはその子孫へ条件づけると、その経路は開き得る。
少し発展すると、条件づけた後に二つの変数を結ぶすべての経路が閉じているという関係を形式化した概念が、d-separationです。
分岐では、共通原因を調整すると経路が閉じる
まず、治療前重症度Cを通る分岐を見ます。
X ← C → Y
Cは治療Xと状態悪化Yの共通原因で、この経路上では非コライダーです。
Cへ条件づけていないと、この経路は開いています。重症者ほど治療Aを受けやすく、同時に悪化しやすいという背景差が、治療と結果の関連へ寄与し得ます。

Cで層別するなどして条件づけると、`X ← C → Y` は閉じます。
これは重症度が治療や予後へ及ぼす現実の作用を消すという意味ではありません。
重症度が同じ患者どうしで治療を比べ、重症度差を通る関連経路を遮断するという意味です。
連鎖では、媒介因子を調整すると総効果の一部を閉じる
同じ治療研究に、治療後の反応Mを一つ加えます。
X → M → Y
たとえば、治療Xが治療後の血圧低下Mを起こし、それが状態悪化Yへ影響するという経路です。
このMは、XからYへ向かう因果経路の途中にある媒介因子です。

総効果を知りたいのにMへ条件づけると、`X → M → Y` を通る作用を遮断します。
したがって、媒介因子Mを通常の交絡調整変数として入れてはいけません。
ただし、媒介因子は常に調整禁止という意味ではありません。直接効果を知りたい研究では、媒介を通らない効果を別の因果問いとして定義します。
その場合でも、回帰モデルへMを追加した治療係数が、そのまま因果的な直接効果になるとは限りません。たとえば、媒介因子Mと結果Yの間に別の共通原因がある場合など、追加の因果仮定と目的に合った分析法が必要です。
さらに、直接効果にも複数の定義があり、どの直接効果を問うかによって必要な仮定が異なります。
コライダーでは、条件づけると閉じた経路が開く
同じ治療研究に、受診継続Sと未測定の早期症状Uを加えます。
治療選択Xが受診継続Sへ影響し、未測定の早期症状Uも受診継続Sと30日以内の状態悪化Yへ影響するとします。
経路は、
X → S ← U → Y
です。
Sでは二本の矢印の頭がぶつかるため、Sはこの経路上のコライダーです。
また、受診継続Sの後に決まりうる「検査データがそろったか」Dのように、Sから矢印の向きにたどった先の変数を、Sの子孫と呼びます。

Sへ条件づけていないと、経路はSで閉じています。
ところが「受診を継続した患者だけ」に対象を絞る、Sで層別する、Sを回帰モデルへ入れると、閉じていた経路が開き得ます。
S自身だけでなく、その子孫Dへ条件づけても、この経路は開き得ます。
コライダーは存在するだけで偏りを生むのではありません。コライダーまたはその子孫へ条件づけることが問題になります。
また、コライダーという役割は変数に固定された名前ではなく、見ている経路で決まります。
バックドア経路は、治療へ入る矢印から始まる
治療Xと結果Yを結ぶ経路のうち、Xから見て最初の矢印がXへ入る経路をバックドア経路と呼びます。
今回の、
X ← C → Y
がその例です。

「治療以外の経路」すべてをバックドア経路と呼ぶわけではありません。
Xへ向かう矢印から始まることが定義の要点です。
バックドア経路が存在しても、途中のコライダーですでに閉じている場合があります。総効果の交絡調整で閉じる必要があるのは、開いているバックドア経路です。
調整集合は、すべてのバックドア経路を閉じる
調整に使う変数を一つずつではなく、集合として考えたものが調整集合です。
単純なDAGで総効果を考えるPearlの古典的バックドア基準では、
治療Xの子孫を調整集合に含めない
Xへ矢印が入って始まるすべての経路を閉じる
という条件を満たす集合を探します。
たとえば、年齢Gと重症度CがそれぞれXとYの共通原因なら、`X ← G → Y` と `X ← C → Y` の両方を閉じる必要があります。
片方だけ調整しても、もう片方の開いた経路が残ります。

なお、古典的バックドア基準は分かりやすい十分条件です。より一般的な調整基準では扱える状況が広がりますが、基本は「知りたい因果経路を残し、偏りを作る非因果経路を閉じる」です。
十分な調整集合は一つとは限らない
対象とする因果効果について、偏りを生む非因果経路を閉じ、求める因果経路を残す変数集合を十分調整集合と呼びます。
このDAGとほかの仮定が正しければ、その集合を使った調整式で因果効果をデータから一意に表せます。これを因果効果を同定するといいます。
十分調整集合は一つとは限りません。
調整集合が複数になることを示すため、同じ治療研究に別の単純な因果仮定を置きます。
X ← C ← G → Y
という一つのバックドア経路なら、重症度Cへ条件づけても年齢Gへ条件づけても経路を閉じられます。
このDAGでは `{C}` と `{G}` が、それぞれ十分調整集合です。
集合から一つでも変数を除くと不十分になるとき、その集合を最小十分調整集合と呼びます。
少し発展すると、ここでの「最小 minimal」は、要素をこれ以上取り除けないという意味です。変数の個数が全候補中で最も少ない「minimum-size」とは別の概念です。
最小十分集合が複数あるとき、測定の正確さ、欠測、比較可能性、推定精度なども考えて実際の集合を選びます。
変数を多く入れるほど安全、というわけではありません。余分な変数は精度を下げたり、コライダーやその子孫を含めたりする可能性があります。

調整集合が見つかっても、未測定原因と他の仮定は残る
もし、
X ← U → Y
という未測定の共通原因Uがあり、この経路を閉じる観測済み変数がなければ、通常の共変量調整だけでは総効果を同定できません。
DAGは、測っていないUをデータから作り出してはくれません。
しかし、「観測済み変数を全部入れればよい」という誤解を避け、どの仮定が限界になっているかを明示できます。
代理変数を一つ入れれば未測定交絡が完全に消える、とも限りません。追加測定、別の研究デザイン、感度分析などを検討するときも、それぞれ別の仮定が必要です。

DAGから妥当な調整集合を得ても、それだけで因果効果が証明されたわけではありません。少なくとも、次の三つの条件を確認します。
条件付き交換可能性:調整変数が同じ人どうしでは、治療の選ばれ方に、結果を左右する別の未調整要因が残っていないこと
positivity(重なり):各背景の人に、治療A・Bのどちらも実際に選ばれる可能性があること
consistency(整合性):実際に受けた治療について観察した結果を、「その治療を受けた場合の結果」と対応づけられること
整合性を考えるには、治療の用量、開始時期、期間などを十分に定義します。さらに、測定誤差、欠測、対象者の選ばれ方、患者間の影響、解析モデルの誤りも別に検討します。
DAGが正しいことと、DAG以外の因果推論の仮定が満たされることは同じではありません。
実際に調整集合を選ぶ7つの手順
実務では、次の順で確認します。
1 対象集団、治療、比較、アウトカム、時点、知りたい効果を決める
2 結果を見て都合のよい矢印を選ぶ前に、因果知識からDAGを描く
3 治療Xと結果Yを結ぶ経路を列挙する
4 因果経路、バックドア経路、コライダーを含む経路を区別する
5 開いたバックドア経路をすべて閉じる集合を探す
6 総効果では媒介因子など因果経路上の変数を含めず、古典的バックドア基準を使う場合は治療Xの子孫を含めていないか確認する
7 未測定原因、測定誤差、欠測、比較可能性、解析法を再確認する
DAGittyなどのソフトウェアは、与えたDAGから経路や調整集合を調べる助けになります。
ただし、ソフトウェアが医学的に正しい因果構造を自動発見するわけではありません。入力したDAGが変われば、出てくる調整集合も変わります。
後編のまとめ
総効果を考えるときは、治療から結果へ向かう因果経路を残し、開いたバックドア経路をすべて閉じます。
非コライダーへ条件づけると経路は閉じ、コライダーまたはその子孫へ条件づけると経路は開き得ます。
重症度Cは `X ← C → Y` を閉じるために調整する。
媒介因子Mは総効果の因果経路を閉じるため、通常の交絡調整集合には入れない。
コライダーSは、閉じていた経路を開くため、むやみに条件づけない。
十分調整集合は複数あり得ます。最小集合を見つけた後も、未測定交絡、測定の正確さ、重なり、解析法を確認します。
次回は、
DAGで選んだ調整集合を、回帰・標準化・重み付けへどうつなぐのか
について、同じ治療例と具体的な解析結果を使って整理します。
参考文献
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https://jmlr.org/papers/v18/16-319.html
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