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傾向スコア・マッチングとは?【後編】―残った人の結果は、誰に当てはまるのか―

前編では、治療前背景から見た「治療Aを受ける確率」である傾向スコアを使い、似た人同士を組にしました。

同じ200人例で、A群は軽症20人・重症80人、B群は軽症80人・重症20人です。悪化数は、軽症A 1人・B 8人、重症A 24人・B 8人でした。

傾向スコアは軽症0.20、重症0.80です。差0.10以内・1対1・置換なしで、結果を見ずに組を作ると、軽症20組+重症20組=40組80人が残りました。

後編では、この40組の背景をどう確認し、結果を誰についての効果として読むかを整理します。

まず復習:40組の悪化率はまだ分からない

40組は、状態悪化の結果を見ずに作りました。そのため、元の四つの集計値だけでは、残った人の悪化数は決まりません。



誰が残ったかを確定し、背景を診断してから、その人たちの結果を比較します。

組を作る → 背景を診断する → 結果を比べる → 設計に対応した95%信頼区間を求める

組を作った後に、背景バランスを確認する

マッチ前の重症者割合は、治療A群80%、治療B群20%でした。

マッチ後は両群とも、軽症20人・重症20人です。重症者割合は50%対50%になりました。



これは重症度について背景がそろったことを示します。

ただし、良好なバランスは因果関係の保証書ではありません。測定しなかった背景は、この図から確認できません。

傾向スコアだけでなく、元の変数を見る

実際の傾向スコアは、年齢、併存疾患、検査値など複数の治療前変数をまとめた値です。

スコアが近くても、有限の標本では元の変数が自動的にそろうとは限りません。



標準化差や分布を使い、各変数の群間差が小さくなったかを確認します。図3は「差が0へ近づく」という見方を示す概念図で、特定の研究結果ではありません。

バランスが不十分なら、傾向スコアモデル、許容距離(caliper)、マッチング方法を見直します。結果を見て都合のよい設計へ変えるのではなく、治療前背景の診断に基づいて再設計します。

置換ありでは、同じBを再利用できる

前編の置換なしでは、一度使ったBを別のAへ再利用しませんでした。

置換ありでは、同じBを複数のAの比較相手として使えます。



今回、重症Aは80人、重症Bは20人です。20人のBを均等に再利用する教材上の単純化では、Bの1人が平均4回使われます。

実際の再利用回数は、同点の扱い、処理順、データによって変わります。Bの実人数が80人へ増えるわけではなく、20人のままです。

マッチ後のバランスと結果を集計するときは、Bが何回使われたかを反映します。20人を一度ずつ数えるだけでは、作った比較を再現できません。

A100人全員が残れば、標的はATTになる

軽症A20人を含め、治療A群100人全員に許容できるBが見つかったとします。

この設計で知りたいのは、実際にAを受けた100人について、

全員がAを受けた場合の平均結果

と、

同じ100人がBを受けた場合の平均結果

の差です。



これを、治療A群における平均治療効果、ATTと呼びます。

置換ありだから自動的にATTになるのではありません。Aを基準に相手を探し、A100人全員が残る設計だからATTになります。Aにも未マッチ者が出れば、標的は残ったAへ狭まります。

caliperには、似やすさと残りやすさの両面がある

caliperは、許容する傾向スコア距離の最大値です。



狭くすると、遠い人同士を避けやすい一方、比較相手が見つからず外れる人が増えます。

広くすると人数は残りやすい一方、背景の異なる人を結ぶ危険が高まります。

今回の0.10は仕組みを見やすくする教材値です。尺度、幅、マッチできなかった人数、マッチ後バランスを研究ごとに確認します。

40人・100人・200人では、問いが違う

同じ200人から始めても、設計により誰について平均するかが変わります。

IPTWは、原則として全員を残し、平均への寄与を重みで変える方法です。



置換なし1対1:比較相手が見つかって残ったA群40人が標的

A全員を残す置換あり:実際にAを受けた100人が標的のATT

ATE向けIPTW:元の研究参加者200人全体が標的

ATEは、元の200人全体で「全員がAを受けた場合」と「全員がBを受けた場合」の平均結果を比べる問いです。

IPTWも重みの式を変えればATTを狙えます。反対に、マッチングを使っただけでATTが自動的に決まるわけではありません。

方法名ではなく、誰を基準にし、誰が残り、誰について平均したかを見る。

これがestimand、つまり推定したい対象と量を読む基本です。

因果効果として読むための三つの条件

マッチングで考慮できるのは、測定し、傾向スコアへ適切に入れた治療前背景です。



条件付き交換可能性:測定した治療前背景を考慮すれば、A群とB群を比べられる

positivity:対象となる各背景で、AとBのどちらを受ける確率も0ではない

consistency:観察結果が、実際に受けた治療下の結果へ対応する

未測定交絡、測定誤差、欠測、対象者選択の問題は残ります。マッチ後の良好なバランスだけで、因果関係が証明されるわけではありません。

未マッチと、構造的positivity違反は同じではない

今回、軽症も重症もAとBの両方が存在し、傾向スコアは0.20と0.80でした。

それでも、置換なし1対1ではA重症60人が未マッチになり、B軽症60人が未選択になりました。



これは、有限の標本、caliper、置換なしという設計のもとで、許容できる未使用の相手数が足りなかったためです。

一方、ある背景ではAを受ける確率が0または1で、そもそも両治療を比べられない状態が構造的なpositivity違反です。

未マッチ者が出たことだけで構造的違反を証明したことにはなりません。ただし、結果を一般化できる範囲が狭くなったことは確認が必要です。

効果量と95%信頼区間も、設計に合わせる

置換なしの40組では、同じ組のAとBに依存があります。80人を独立した二群として扱う計算は、組の構造を無視します。

置換ありでは、同じBが複数の組へ現れます。その共有による依存も反映する必要があります。

したがって、効果量と95%信頼区間は、置換の有無、再利用、組の作り方、採用した推定量に対応した方法で求めます。元の四セル集計から、マッチ後の数値や95%信頼区間を作ってはいけません。

論文では、この8項目を確認する

1 誰についての効果を狙ったか

2 傾向スコアに入れた治療前変数は何か

3 1対1か、1対複数か

4 置換ありか、置換なしか

5 距離の尺度、caliper、同点や処理順は何か

6 各群で何人が残り、何人が外れたか

7 マッチ後に元の背景変数がそろったか

8 組や再利用に対応した効果量と95%信頼区間か



チェック項目は、対象・設計・診断・解析の四つにまとめると読みやすくなります。

まとめ

傾向スコア・マッチングでは、組を作って終わりではありません。

誰が残ったか

元の治療前背景がそろったか

結果は誰についての効果か

組や再利用に対応した解析か

まで確認します。

今回の置換なしでは残ったA40人、A100人全員を残す置換ありではATT、ATE向けIPTWでは元の200人全体が標的でした。

次回は、

二重ロバスト推定とは?―回帰標準化とIPTWを組み合わせると何が変わるのか

について、結果モデルと治療モデルの二つを使う意味から整理します。

参考文献

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https://miguelhernan.org/whatifbook



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