【地方創生 第1弾・本編】「農家には土日休みなどない」61名の大人たちが絶句した、地域創生のリアル
◆ 「それ、唯一無二ですか」
「地元の◯◯ニンジンを使って、加工品を……」
その声が会場に響いた瞬間、私は間を置かずに問い返していました。
「それ、その地域独特ですか。唯一無二ですか。どこにでもあるものではないですか」
続けます。
「県外や外国の方が沖縄を訪れた時、わざわざ購入したい、飲んでみたい、食べてみたいと思いますか」
会場が、静まり返りました。
怒りでも反論でもありません。「言われてみれば……」という、苦い自省の表情です。

この沈黙こそが、地域活性化に商品開発で取り組もうとする時の「最初の罠」です。優秀な大人たちほど、もれなくこの罠へと落ちていきます。
◆ 61名が、答えなき舞台に集まりました。
6月4日と5日。沖縄県・リザンシーパークホテル谷茶ベイを舞台に、「第37期かりゆし塾」の開幕合宿が始まりました。
参加者は61名。民間企業の中堅社員〜管理職と市町村職員が一堂に会する、官民協働の実践課題解決型プロジェクトです。
彼らの背景は様々でした。
「自分で応募した」という意欲の塊のような市役所職員もいれば、「会社から成長を期待されて送り込まれた」という参加者もいます。それぞれが異なる思いと緊張を抱えながら、同じテーブルを囲みました。
初日の講義では、かりゆし塾の核心と地域活性化の概論を伝え、さらにチームビルディングの理論として「タックマンモデル」を提示しました。チームは必ず、形成期・混乱期・統一期・機能期というプロセスを経る。今、あなたたちが感じている「ぎこちなさ」は、正常なスタートラインですと。
そしてチームリーダーの選出へと移りました。
「年功序列はなし。やりたい人が手を上げる」
私がそう告げた瞬間、真っ先に動いたのは、会場ホテルに勤める20代の女性社員でした。
周囲がまだ空気を読み合っている中、彼女は迷わず手を挙げ、リーダーに立候補しました。
「動いた者が、最初に場を制する」かりゆし塾では、37年間、変わらない現実です。
◆ 安堵のあとに、私は「掟」を突きつけました
チーム編成が終わり、場の空気が少し柔らかくなったタイミングで、私は一枚のスライドを提示しました。
昨年の第2位のチーム「やまぐすく茶」の、活動実績です。

これは彼らが、フルスペックで取り組んだものです。現地訪問の回数。農家との交渉記録。ミーティング回数。
一枚一枚をめくるたびに、会場の空気が変わっていくのが分かりました。「これを、半年でやるのか」という静かな圧力が、全員の顔に滲み始めていました。
そこで私は言いました。
「これはマストではありません。皆さんご家庭があり、本業があります。この70%でも、50%でも構いません」
会場に、ほっとした空気が漂いました。
しかし私は、そこで止めませんでした。
間を置いて、言葉を変えました。
「ただ、一つだけ。絶対に守ってほしいことがあります」
静寂が戻りました。
「農家など地域の皆さんには、土日休みなどありません。365日、作物と向き合っています。その方々が、皆さんのために貴重な時間を割いてくださる。だから、彼らの話に真摯に耳を傾け、誠実に向き合ってください。それだけは、絶対に」
誰も笑いませんでした。メモを取る手が、止まっていました。
これが、地域活性化の「プロの覚悟」です。この研修は、美しいプランを作ることが目的ではありません。地域の皆さんが費やしてきた時間と労力に対してリスペクトを示し、真剣に向き合うことから始まります。
「お勉強」気分で、AIを使って書いたどこかにあるような作文(提案書)は、地域の皆さんに一蹴されます。日々作物と向き合い、真剣に課題解決に取り組んでいる方々の目は、厳しいのです。
36期2班の皆さんも最初は何者でもなかったのです。彼らは石川さんという、幻のお茶を4年がかりで復活させた方と、真剣な対話を重ねながら変わって行ったのです。
私は、地域の皆さんとの真剣な対話を通じて、新たな価値を生み出す。このゼロイチの体験プロセスの中に、かりゆし塾の価値があると考えています。そして、世の中の価値観が変わりゆく今だからこそ、その重要性は増しています。かりゆし塾が37年の長きに渡って、人材育成研修として高い評価を受け続けている理由がここにあります。
◆ 親子2代で、この舞台に立つ。
今期の塾生の方から嬉しいお話がありました。
那覇市郊外、ある町の市役所に勤める若手の職員の方です。
実は彼女の母親が、第21期のかりゆし塾生でした。
その事実を知った時、私の胸に込み上げてくるものがありました。年月を重ねこの研修が、地域に根付いていることの証です。そして確かに、次の世代へとバトンが手渡されてきたことの証でもあります。
◆ 戦いは、もう始まっています。
合宿が終わり、2日も経たないうちに、7つの班から活動計画の完成版と議事録が届き始めました。
すでに地域に足を運んだ班もあるようです。
「まだ開講したばかりなのに」と思う読者もいるかもしれません。しかし私には、驚きよりも手応えの方が大きかったのです。
修羅場に放り込まれた人間は、動き始めると速い。
さて、この半年間の実況中継について、あらかじめお伝えしておきます。
7つの班すべてを均等に追うことは、しません。
美しく順調に進む班より、衝突して立ち止まって、それでもまた前に進もうとする班を書きたい。この半年私は特に泥臭く、もがく「象徴的な班」を中心に、そのリアルをお届けしたいと思っています。
綺麗事のない群像劇を、どうか最後まで見届けてください。
◆ 最後に、あなたに問わせてください。
あなたの組織では、上司であれ、部下であれ、同僚であれ、顧客であれ、その方々の痛みに寄り添い、血の通った対話ができていますか?
第37期の180日は、始まったばかりです。
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