学芸員は美術館の「中の人」?いやいや、名前を出してなんぼでしょ!
「中の人」てネットスラングですかね?ほら、Twitterとかでよく見かけますよね。
中の人とは…
SNS上で企業やサービス、キャラクターなどの公式アカウントを運営している担当者のこと。個人名を出さず、あくまで架空の存在としてふるまう。
最近は、その中の人のパーソナリティが注目されることもありますが、基本的に公式アカウントがネット上で活動する際、実際には当然誰かがそれを行っているのですが、表には個人の名前は出てきません。
では、美術館はどうでしょう?
Twitterアカウントがある美術館は、今の時代たくさんあります。展覧会情報とか、いろいろツイートしているでしょうが、そのほとんどは美術館の公式見解という体裁であり、中の人の姿は見えません。
SNS上で、美術館そのものを認知してもらうための活動をするなら、たしかに担当者の顔や名前がいちいち出てきたら、逆効果なのは確かです。だからそれはそれでいいと私は思います。
ちなみに、SNSマーケティングで大きな成果をあげている森美術館の「中の人」が、その戦略を語った本『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』は前に読みましたが、面白かったです。
ただし、今回はそうした美術館のSNS運営の話をしたいわけではありません。
SNSは美術館の広報活動のひとつではありますが、あくまで枝葉の部分です。メインの活動である、展覧会企画。そこには当然担当者として学芸員が存在します。
さて、ここで学芸員の名前が表に出るかどうか、というのが今回の本題です。
学芸員が展覧会においても美術館の「中の人」となり、表に出てこない場合があります。でも、私はきちんと名前を出していくべきだと考えています。
何年か前に、Twitterの学芸員界隈(めっちゃせまいな笑)で議論が巻き起こったことがあります。「学芸員は名前を出すべきかどうか」問題です。詳しくは『美術手帖』さんがこちらの記事でわかりやすくまとめています。
よく美術館でギャラリートークという催しがありますよね。展覧会を担当した学芸員が、お客さんをあつめて、展示の解説をするというものです。
でも、広報に出る情報としては、多くの場合「担当学芸員が解説をいたします」みたいになっていて、なぜか学芸員の個人名が出ないのです。不思議ですよね。
学芸員の名前がようやく出てくるのが、展覧会図録にまとまったテキスト(論文)を書いた時ですが、図録や冊子、パンフレットにすら学芸員の名前が出ないところもあります。あくまで美術館の名前ですべての活動を行い、学芸員は「中の人」として扱われているわけです。
深い考えもなく、なんとなく文章の責任の所在をあいまいにしたいから、特定される個人名を出さない、というスタンスの美術館もあります。
また、もう少し強い意志で「書いたのが学芸員であっても、美術館に所属していなければ、作品を研究することもできないんだから、個人の業績のように名前を出すのはおかしい」と上層部が名前を出させない美術館もあります。
色々な意味で波風を立てたくないから、表舞台に立ちたくないから、個人名なんて出さないでいいよ、という学芸員もいるかもしれません(私が出会った中にはそういう人はいませんでしたが)。
でも、展覧会の企画も、作品解説も、調査研究も、その学芸員が培った経験や知識、ひらめきや考察、つまり個人の能力が発揮されて生み出されるものです。誰がやっても同じことができるわけではありません。
それを理解されずに「中の人」として生きろ、という美術館だったら、学芸員として成長することはできません。他を探すべきです。
とかく日本だと、自分の名前を前面に出すこと、業績をあげようとすることを、単なる目立ちたがり、成り上がり思考ととらえられがちです。
しかし、きちんと名前を出すということは、単に業績を積み上げるということを意味しません。もしも間違ったこと、おかしなことを書いてしまった時、その責任をとるという意味もあわせ持ちます。
その文章に、その展覧会企画に、責任をもつという覚悟こそが、学芸員としてのプライドを育むと私は考えています。
もちろん私の所属する美術館では、自分も他の学芸員もちゃんと名前を出していこうよ、と話をしています。新人学芸員には、最初はちょっとした作品解説や図録のミニコラムのようなところから書いてもらいますが、それでもなるべくどこかに名前を載せるようにしています。やっぱり小さくても自分の名前が出るってうれしいことですし、そこから、小さなプライドと責任感の芽が育っていくと信じています。
と、そこまで言っておいて、このnoteでは「小さな美術館の学芸員」としか名乗っていませんね、はは。だってこれはプライベートなもんで(公式だったら、こんなに自由に書けません)。
バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。
