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展覧会は撮影OKが常識になりつつあるけれど[学芸員のつぶやき]

美術館業界、ここ数年で明らかに変わったことがあります。
それは、

展示室での撮影を許可する展覧会があきらかに増えた

ことです。

少し前に、たしか東京ステーションギャラリーで「全点撮影可」とする展覧会があり、その良し悪しについてSNS上で意見が交わされていたのがもはや懐かしく感じられます。
いまは撮影可能だからといって、ことさら話題になることはありませんよね。

現在開催中の東京国立近代美術館「重要文化財の秘密」展も、自由に撮影できるみたいで、みなさんバシバシ撮ってネットに上げてますね。

さて、そんな感じで来館者の常識(展示室では撮影できない→展示室では撮影ができる)が変わってくるのを、日々現場でヒシヒシと感じている学芸員の私です。

そこでひとつ困っていることがありまして。

これまでは撮影禁止が当たり前だったから、そんなに口うるさく注意する必要なんてなかったんですよ。
まぁ、控えめな禁止サインがあれば事足りたわけです。

学芸員の美意識としてはですね、展示室にはあまりうるさい表示を設置したくないのが本音です。
なるべく作品を邪魔したくないんですよね。
ゴチャゴチャと表示があるのって、どうしても許せないというか…。

でもそうも言っていられなくなってきたな、と。

見に来る人の常識が変わってきたため、今は入り口と展示室内に撮影禁止サインを出しておく程度では、カシャカシャと撮りまくる人が後を絶ちません。

で、そういう人もルールを破ってやろうというような悪意があるわけではなくて、当然撮影できるものだと思っているから禁止サインが目に入らないだけなんですよね。

むしろ良い展覧会だから、知り合いに見せたい、SNSで知らせたい、そんな気持ちで撮影しているのは、よくわかっているつもりです。
なので一言注意すると、「あぁそうだったの」とすぐにやめてくれる人がほとんど。

かと言って、監視スタッフが写真撮影をとりしまる役目に追われるも考えものです

仕方がないので、受付のスタッフには、なるべく入館者ひとりひとりに「展示室内は撮影はお断りしています」と声をかけるようにしてもらい、展示室内の撮影禁止サインも(本当は嫌だけど)大きく目立つようなものにして、設置する数も増やしています。

やれやれです。

ここで誤解してほしくないのですが、私も展示室で写真が撮影できたらうれしいよなぁと思っているので、なるべくそうしたいと努力しています。

ただ、事は単純ではありません。

まず展示室の撮影を許可することで、懸念されるのは、

  • 図録が売れなくなる可能性。

  • 全作品を一点一点撮影するような人が出てくる(他の鑑賞者に迷惑)。

  • 撮影を気にして鑑賞に集中できない人が出てくる。

  • 展覧会で撮影可の作品と撮影不可の作品が入り交じると、そのチェックをするために人員を割かなくてはいけない。

また、法的な話も軽くしておきましょう。

著作権がない(著作権保護期間が満了している)作品で、なおかつ自館の所蔵品であれば撮影可にするのはそこまで難しい話ではありません。
しかし、所蔵品であっても著作権のある作品だと、著作権法的にグレーになってきます。著作権者に許可をとっておくのが無難でしょう。
著作権者からNGが出たらあきらめなくてはいけませんし、場合によっては著作権使用料が上乗せされる可能性もあります。そうなると、つらい…。

また他館から作品を借用する場合は、当然そちらの所蔵館に撮影許可の可否を問います。これも、おおっぴらに賛成してくれるところはまだ多くはありません。
特にメリットがありませんからね。

以上のような諸々をクリアしなくてはいけないので、お気持ちだけで簡単にオールOKにはできないわけです。

[この件については、こちらも合わせてお読みください]

もう一点、老婆心ながら。

学生時代に先輩から言われた言葉があります。
調査のために先輩と一緒に美術館にお邪魔して、特別に収蔵庫の中で作品を見せてもらうことがありました(大学院生ぐらいになると結構そういうことをやります)。
調査のための撮影は許可してもらったので、ここぞとばかりに写真を撮りまくる私。

その時、先輩からは「最初から写真に頼らず、まず自分の眼で見なさい。そして眼で記憶するようにしなさい」と言われました。
ガラス越しではなく実物を間近で見ることができるのだから、しっかり肉眼で観察しろということだったと思います。その上で、必要な箇所の写真を撮れと。

たしかに、今もスマホでパシャッと撮って満足することが多いですが、その分、自分の目と頭に残っていないということはありませんか?
スマホで見返さなければ思い出せないのであれば、それは逆にもったいないことでは?

なーんて説教くさいことを言ってみましたが、私だって撮影OKな展覧会を観に行ったら、やっぱり気に入った作品はすぐに撮りたくなります。
みなさんも写真撮りたいですよね?

この後はどうなっていくのでしょう。
撮影可の展覧会の方が大多数になったとしたら、「撮影できてうれしい!」ではなく「撮影できて当たり前」になっていき、しまいには「もっときれいに撮影できるようにケースの反射をなくせ」とかいう人が出てきたり、有名作品の前では撮影待ちの列ができてそもそも鑑賞ができなくなったり、そんなネガティブな未来を想像してしまいました。

まぁ、その都度その都度、変わっていく常識に対応していくしかないんですけどね。


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