(18禁)太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第61話 現実味
浅荷は少しだけ笑った。だけどその笑いには冗談の気配がなかった。
「……そうか~」
俺は気の抜けた声を出してしまった。浅荷はまた俺の上に体を預けた。
今度はさっきよりも深く、静かに。
*
浅荷がまた静かに重なってきた。
今度は伏せじゃなく、身体の傾きでそっと俺に寄り添っている。
顔は俺の肩あたりにあって、息がそこにだけ満ちてくる。
「……」
言葉はなかった。
俺の手は、迷いながらゆっくりと動いた。浅荷の背中を布越しにゆっくりなぞった。
すぐに動きを止めると浅荷の指が俺のシャツの端をそっとつかんできた。強くではない。まるで、俺がどこかへ行かないようにしているかのようだった。
「……このあと、怖くなったらやめていい?」
浅荷の声が、俺の首元にあたたかく刺さる。
「うん。何回でもやめよう」
俺はすぐに答えた。即答に見せたけど、本当はたった今、決意したばかりの言葉だった。
「何回でも」と繰り返して笑われた。
「じゃあ、やめなかったら……?」
「それは……たぶん……」
しばらく沈黙が続く。だがその沈黙には揺らぎがなかった。
「……あたしさ」
浅荷が小さく笑った。少しだけ自分の体を浮かせて、俺の顔を上から見下ろす。
「こう見えて、めちゃくちゃびびってるんだよね」
「俺も」
答えると浅荷の目が一瞬、じっとこちらを射抜いてくる。
真顔だった。けど怖さではなく、素直とか正直であることを確かめるような目だった。
「じゃあ、どうするの?」
「……大事にしたい」
「いま、そう言うのずるいな」
浅荷の肩がふるりと笑った。
「何を大事にするんだろう?この時間なのか、敷いてるあたしの服なのか」
浅荷のことを俺が大事にするとは思わないのだろうか、と聞けなかった。
「あたしを大事にするのってあたしから聞くのは偉そうで聞けない」
だから言うなということなんだろうか。だから笑っているのか。
でもその笑いは、弱さではなく、照れと決意が混じったようなものだった。
浅荷の手が俺の胸に置かれる。
手のひら。指先。ひとつずつ俺もそっと彼女の腰のあたりに添えた。それでもまだ、服の上から。肌の間には一枚、必ず布がある。
「……いまここが、世界のいちばん静かな場所って思える」
浅荷がぽつりとつぶやく。
「ここは確かに俺らの世界だからなのかも……」
「そっか。そうかもね……」
風が通る。
陽はまだ落ちきっていない。でも公園はもともと人気がない。
広場の照明も点いていない。
ふたりは芝生の上。
浅荷の上着の上。
そしてそれでもまだ、互いに触れている部分はごくわずか。
しかしそのわずかが、これまでにないほど大きな意味を持っていた。
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