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(18禁)太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第65話

息が少しずつ深くなる。

同時に自分の中の観察する癖が顔を出してくる。状況を俯瞰したがる思考が、なにかを分析しようとする。でも今は止めた……理屈よりも先に、目の前の存在を感じていた。

浅荷の指が俺の首にそっと触れた。人差し指が喉のラインをなぞる。それだけの動きなのに自分の存在がそこで始まる気がした。

言葉はなかった。でもたぶん合図は伝わっていた。肌と肌の距離、呼吸の重なり、布越しの温度が会話だった。

さっき少し感じたようにきっと古代の誰かも同じように、名前をつけないやり取りの中で、相手とひとつになっていたんだろう。手順も理論もない。ふたりの間にあるこの時間だけが、何よりも濃く、ただ静かに積もっていった。

浅荷の呼吸が俺の肩口でふわりと広がっていた。一定のリズムではなかった。浅いようでいて、ところどころ深く、身体の内側から浮かんでくるような息づかいだった。

どちらからともなく、ほんの少しだけ身体が動いた。これは傷口なのだろうか?

それは始まったというような劇的な瞬間ではなかった。ただ互いに「ここにいる」ということを忘れないための、小さな反応だった。

俺は指先で浅荷の背中をなぞった。背骨の少し脇を布越しにゆっくりと下へなぞった。布の継ぎ目があってそこからまた肌の丸みが伝わってくる。見ていなくてもわかる。視覚の代わりに触覚だけが何倍も強くなっている。

浅荷の手は俺の脇腹に添えられたまま、指だけがわずかに動いていた。つかむでも撫でるでもない。ただ居場所を確かめているようだった。

擦れる音がひとつ、草の上で鳴った。脚と脚がぶつかった。熱がそこに集中していた。どこが触れていて、どこが触れていないのか?情報量が多すぎて、身体の全体像を追えなくなってくる。

少しだけ深く浅荷の中に入った感覚があり、浅荷の肩がほんのわずかに震えた。声にはならなかった。でもそれは、「やめて」とも「もっと」とも言っていない。ただ俺が気づくべき感触だった。

「……大丈夫?」

小さく聞くと、浅荷は頷く代わりに俺の背中に両腕を回してきた。そのまま指先をそっと沈ませて、静かにこちらへ引き寄せた。

言葉を話しても意味がない。

ふたりの呼吸が合っていく。もともと決まりなんてない。そんなもの決まってるわけない。ただ何かを押し出すように、互いの間にあった空気を何度もゆっくりと外に追い出すのと同じ操作をしているのと同じだと思えてくる。

ときどきどちらかの動きがずれて、違う音がする。小枝を踏んだような乾いた音だったり、思ってもないところに力が入って、息が詰まるような音だったりした。完成された動作より、そういう不揃いな音が今この瞬間が本物だということを示しているように感じた。

脚の位置を直そうとした俺の膝が、浅荷の服の上で滑った。

「っ……あ、ちょっと待って、ごめん、」

「……だいじょぶ」

浅荷の声が息の隙間からかすれた。決して余裕があるわけではなかった。でもそれは今ここにあるすべてを受け入れている声だった。

「痛い?」

「痛くはないけど……なんか正しい位置じゃないかも」

「うん、ごめん。ちょっと戻す」

少しだけ体勢をずらすと重心が変わって、身体がまた新しい位置を覚えようとする。ほんの数センチの差なのに重なりの深さや、圧の伝わり方が違ってくる。

その一つひとつを意識しすぎず、でも確かに記憶していった。意識しないなんてことは今後できるものなのだろうか。いや……今後もあって当然みたいな偉ぶった考えが俺の中にあるのか。あってどうなるというのか……

再び静かな動きのなかで少しずつ擦れあう音が続き、草が体温で押し潰されていった。俺の髪が肩口から落ち、浅荷の胸元にふれて止まる。毛先が汗を吸った肌にあたることがある。

「……なんかさ」

浅荷がぽつりと言った。息を吐くように。

「うん」

「こういうのって……もっと、なんかこう……」

「ロマンチック?」

「……そう。でもさ、ぜんぜん違うね」

「うん。……たぶん手順とか理想とかそういうのじゃない気がする」

「……わかる」

俺は一気にまくし立て過ぎたかと思ったが、ふたりともほんのわずかに笑った。やわらかく、逃げ道をつくるみたいに。

そしてまた少しだけ動いた。もう一度静かに、でも確実につながり続けるための動きだった。互いの心拍が伝わるような距離でふたりだけのリズムを探すように。

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中村風景 このサイト内ではいかなる場合でも返信行為をしていません。