📝【短編小説】置いてかれる
みんなは、いつの間にか先へ進んでいる
同じ場所に並んでいたはずなのに、気づけば少しずつ距離が開いている
急いでいるようには見えない
無理をしているようにも見えない
ただ、迷わない
進むべきところで進み
曲がるべきところで曲がる
それだけのことを、ずっと自然に繰り返している
始まりを知らせる三つの灯りが消えた瞬間から
みんなは前だけを見ている
わたしも進む
けれど、わたしはよく迷う
本当にこちらで合っているのか
今のまま進んでもいいのか
少し待った方がいいのか
前を走る誰かの真似をした方がいいのか
考えているうちに、みんなはもう次の場所へ向かっている
慎重なだけだと思っていた
間違えないようにしているだけ
遠回りをしないように
余計なものにぶつからないように
けれど、慎重に進んでいるはずなのに
なぜかわたしだけが遅れていく
みんなは、曲がり角を怖がらない
速度を落とすこともなく
わずかに姿勢を変えるだけで、そのまま向こう側へ消えていく
わたしは、そのたびに迷う
いつから向きを変えればいいのだろう
どこまで進んでから曲がればいいのだろう
早すぎれば外れてしまう
遅すぎれば、ぶつかってしまう
だから、一度確かめる
今、自分が何をしているのか
次に何をすればいいのか
ほんの一瞬だけ、前から目を離して
その一瞬が、いつも少し長い
顔を上げると
さっきまで遠くにあったものが、すぐ目の前まで迫っている
避けようとして、間に合わない
ぶつかる
止まる
向きを直す
また進む
そのころには、みんなの姿はずっと小さくなっている
それでも、ときどき近づけることがある
前を行く誰かが失敗したとき
運よく近道へ入れたとき
道の上に浮かぶ何かに触れて
思いがけない速さで前へ押し出されたとき
もしかすると、このまま追いつけるかもしれない
そう思った直後には
また曲がり角がやってくる
みんなは速度を落とさない
少し横へ滑るように向きを変え
足元に火花を散らしながら、さらに遠くへ進んでいく
わたしは知らない
あの曲がり方を
名前だけは聞いたことがある
けれど、どうすればいいのかは分からない
たぶん、知っている人にとっては簡単なことなのだと思う
考えなくてもできること
前を見たままできること
けれど、わたしはまた確かめる
右だっただろうか
左だっただろうか
それとも、もう少し奥だっただろうか
ほんの一瞬だけ、手元へ視線を落とす
顔を上げれば
また壁が待っているのかもしれない
そうして何度走っても
わたしは一番になれない
同じ場所から始まり
同じ道を走り
決められた回数だけ同じ場所を巡る
誰かより先に着かなければ
その走りには順位がつく
わたしは、あまりその走り方が得意ではない
だから、競争が終わったあと
誰もいない広い場所へ向かう
決められた道はない
急いで曲がる必要もない
行き止まりなら引き返せばいいし
気になるものを見つけたら、そこで止まってもいい
誰かの背中を追わなくてもいい
誰かに追い抜かれても
そもそも順位がない
好きな道を選び
好きな速さで進む
ときどき立ち止まり
景色を眺める
その世界では
わたしはもう置いてかれない
だからわたしは
レースよりも、自由に走る方が好きだ
🎧 この物語から生まれた歌
アンサーソング『好きな速さで』

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