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愛媛ひとり旅①〜オレンジフェリー〜 旅先で 挨拶するのは 気持ちいい

フェリーに乗るのはいつ以来だろう。子供の頃、家族旅行で乗った記憶がある。プラスチックの椅子が並んだスペースと、燻んだカーペットが敷かれた広間があり、そこで1〜2時間を過ごした風景が微かに目に浮かぶ。

フェリーに足を踏み入れると、そこは高級ホテルさながらだった。入り口は私好みの幾何学模様が描かれたガラス張りの自動ドア。フロア一面に絨毯が敷かれ、船内の至る所にビシッと制服を着こなした係員が立っている。ロビーは最上階まで吹き抜けで、階段手すりの小柱には可愛い装飾が施されていた。

最上階からの眺め
大きなステンドグラス
階段手すり
小柱の装飾が可愛らしい


子供の頃に乗った無機質なフェリーの面影はそこにはなく、温かみと高級感のある内装に私の胸は躍っていた。
暴風雨に見舞われたことも忘れ、フロントに向かうと上機嫌で鍵を受け取り部屋へ向かう。

フェリにーは部屋のタイプがいくつかある。私はテレビと洗面台付きのデラックスシングルにした。部屋には窓もあり景色を見ることもできるが、あいにく暴風雨で何も見えなかった。

部屋で一息ついたあと、レストランで食事を済ませ、船内を散策する。翌朝が早いせいか人の姿はまばらだ。

いよいよ出航。デッキに出ると風が強く寒かったが雨は止んでいた。フェリーが港から離れる瞬間を私は寒空の下で眺めていた。いよいよひとり旅の始まり。私の気分は高揚していた。
中年の男性2人組が「寒いな」と言いながら強風に煽られお互いの写真を撮りあっていた。私はその2人組に「寒いですね」と声をかけたが「はっ?」と言うような顔をされた。
「寒いですよね」と返事が来たら「お撮りしましょうか」と、2人並んだ写真を撮ってあげようと思っていたのに。
登山や旅の時には、知らない人同士でも気軽に挨拶をするものだと思っていたが、違うのか。初めてのフェリー旅にワクワクし過ぎて、私がおかしいのかもしれない、と少し恥ずかしくなった。

デッキの上から
南港が遠ざかって行く


大浴場は銭湯となんら変わりがなかった。少し揺れる湯船に浸かりながら、私は水のことを考えていた。こんなに沢山の人が使っても無くなることのない水。いったいどれくらいの水がこの船には積まれているのだろう。そして水を補給するのにどのくらい時間がかかるのだろうと。

ベッドに横になるとエンジンの小刻みな振動がマットレスを通して全身に伝わる。いつも寝ながら聞くラジオは電波が入らないので聞けない。今日は眠れないかもしれないと思っていたが、気がつくと朝だった。

カーテンを開けるとまだ薄暗く、窓の汚れで景色はあまり見えない。コンビニで買ったおにぎりで空腹を満たし、デッキへと向かった。接岸の瞬間を見ようと思っていたのに、船は既に入港していた。
日の出前の空はほんのりと明るさを帯び、海の上をカモメが飛んでいる。寒いはずなのに寒さは感じず、ただただ清々しい空気を肺にいっぱい吸い込んでデッキの上を散歩した。

デッキから
日の出前の空


日常から解放され、寝ている間に目的地へと運んでくれるフェリー。
私はすっかりフェリー旅に魅了され、デッキの上で次は九州へ行こう、などと考えていた。

翌日、松山市内を観光し道後温泉へと向かう。その日は道後温泉のホテルへ泊まり、夜はホテルの揺れない温泉で疲れを癒した。
翌朝早く、訪れてみたかった道後温泉本館へと向かう。朝の温泉に入るなんて、私はいつもの旅行ではしない。どちかというと朝はゆっくり寝ていたいタイプなのだ。ひとり旅が私をいつもと違う私にしている。

道後温泉本館は趣のある昔ながらの佇まい。古い建物ながらも中は綺麗に整えられていた。

早朝の道後温泉

浴室に入り私は驚いた。小さい。フェリーの大浴場とさほど変わらない広さ。比較的空いている早朝でさえ少し窮屈に感じる。
道後温泉本館は日本最古といわれる道後温泉のシンボルであり、ゆっくり寛ぐと言うよりは湯に浸かりその歴史に思いを馳せるものなのだ。

ホテルに戻り朝食を済ませ、外の空気を吸いに出ると、そこには仲の良さそうな2人の老婆がいた。そのうちの1人と目が合う。軽く会釈すると「おはようございます」と笑顔で私に挨拶をしてくれた。
「おはようございます」
私は一昨日のフェリーでの出来事を挽回するべく、大きな声と笑顔で返した。
やっぱり旅先で挨拶するのは気持ちいいものだ。

しかしふと思った。旅先で挨拶をするのは歳をとった証拠なのかもしれない。若い人は挨拶なんてしないのかも知れない。


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