#551_モノローグ_心のコンパスと軌跡
朝の通勤前、ふと空に向けて言ってしまった。
……さん。
好き──
まるで冬の終わりに差し込む光のような──
空のどこかに向けて放った言葉が、
ちゃんと届いてしまわないかと、我に返った。
朝の光に紛れて、消えてなくなればいい。
俺は、あの人の横顔を思い出していた。
──だから、この気もちを、俺はまっすぐに受け取る
この気持ちが生まれた場所も、
向けた先も、全部大事にしたい。
今の自分の心はこうだと、空に掲げる旗のように。
2時間はやく家を出た。
3駅手前の、このお寺には思ったよりも人がいた。
空の先にあるような、
大きなお堂の前にしばらくいると、
空に向けて放った言葉が急に恥ずかしくなった。
ひょっとして、聞こえてしまったかな。
強く主張する、誰かを呼び寄せるよりも、
ただ心の温度を、そっと確かめるように息を吸った。
心が、淡い色から影へ、また光へと変わっていく。
触れれば消えてしまいそうな儚さと、
ふっと現れた、まだ名前のついていない色は、
確かに同時にあった。
なんでこんな気持ちになるのか、
自分でもよく分からなかった。
でも、あの人の声だけはすぐに思い出せる。
その言葉が生まれた瞬間の空気は、
胸の奥で何かがほどけたのか、それとも、
まだ名前のない揺れがそっと形を求めたのか──
──俺は、俺に負けない。
言葉にした瞬間、なんだか少しだけ力が抜けた。
その柔らかさを、解釈も、期待も、
余計な色もつけずに受け取りたい。
心が動いた、その一点だけを、掌にのせて──
意味を決めつけず、方向を縛らず、
ただ「今ここにある揺れ」として。
──水みたいに掬えばこぼれる。閉じ込めれば濁る。
心がどんな風に動いた、
その軌跡こそが、本音になる──
いや、これが本音なのかもよく分からないけれど、
でも、たぶん、これが俺の気持ちだ。
この言葉が空に溶けていくのを、そのまま見ていた。
この街の、朝の静けさが、
俺にはとても美しく思えた──。
だから……。
──ちょっとだけ、ちゃんとしたくなる。
<了, 約 800 字>
モノローグ・関連作品はこちらです
夜、昼、朝、光、夜、(本稿)
140字の作品を書き続けていた延長シリーズです。
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