#539_モノローグ_三面六臂──泣くことも笑うこともできないきみへ
泣くことも笑うこともできない時に、
きみはポツンと言葉を置いて、息を継いだ。ごめんなさい──
きみは、心が揺れていても、
ちゃんと世界を見ていた。
それは、心が凍りつく手前で、
安全を確認している途中の。
言いたい、言えない、わかりたいとき、
泣くことも笑うこともできなくなる代わりに
ありのままを並べて、心を置く。
心の代わりに、言葉が呼吸するみたいに──
感情を無理に揺らさずに、
ただ事実だけを、そっと並べることで、心を守れる。
満開の桜並木は、きみが長い時間を
緊張とともに歩いていた象徴。
桜の下の菜の花は、
きみの中にまだ残っている
小さな優しさや希望の色。
そして──
流れの速い澄んだ川の流れは、
きみの心の奥にある強さ。
そして、言葉を置いたきみの呼吸は──
あの日、僕には見えなかった世界を。
◇
きみの沈黙は、いつも誰かを引き立たせるための優しさだった。
罪悪感を抱えた人の沈黙は、
弱さじゃなくて、
自分は出過ぎてはいけないという
痛いほどの誠実さだね。
ねえ──
きみは、あのときどうやって笑えていたんだろう。
いまは安心していいと、誰かに教えてもらえたのかな。
心がほぐれた瞬間を、きみも感じたかったはず。
僕は、情けないな……。
きみは、笑っていい場所も、
優しい言葉も、
ほとんどもらわずに生きてきた人だった。
好かれたいだけの僕が、
きみを大切にできるはずもなかった。
僕は、大切なことに気づけなかった。
変わるなんて、大げさなことは言えないけれど、
あのときのきみの沈黙だけは、いまも胸に刺さる。
あれが何を守っていたのか、今になってようやく分かる。
ほんの少しだけ笑いたくなっていたきみを
丸ごと受け止められる人に、
きみが出会えていますように。
僕には、もう願うことしかできない。
──おかえり。
あの頃のきみへ。
やっと、きみのあの日が伝わったよ──
今日は、風が少し春の匂いになっていたよ。
<了, 約 790 字>
モノローグ・関連作品はこちらです
夜、昼、朝、光、夜、(本稿)
140字の作品を書き続けていた延長シリーズです。
今夜はどうぞ、温かい夜をお過ごしくださいね🌙
↓昔の作品はこちらです。
▲三面六臂(さんめんろっぴ)、と読みます。
あとがき
この数日、こちらの本を読み返していました。
興福寺さんのミュージアムショップで購入できます(奈良県)
阿修羅像についたとき。
その日は、ふとこう思いました。
筆者: 「あ、あの…。肩、凝りませんか。腕あげっぱなしです。1300年も☺️」
阿修羅: 「だ、だいじょうぶ、です…(くっ)」
そう言っているように見えたのは、
去年の修二会の旅の途中でした。
疲れますよね、腕が6本もあれば☺️

本稿が、本日の作品となります
これからもどうぞよろしくお願いいたします🤭
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