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巽くんと今日子さん 第9話

前回のお話


 第9話 伝えあって


じゃあ、この前教えてくれたお店で。
待ち合わせは駅の改札前でいいですか。
11時半とかでどうでしょう。


巽くんのLINEメッセージに返信する。
ええっと伝えておきたいことは何かあるかな。
そうだ、とトークを返す。

              11時半。大丈夫です。
      先にがっかりポイント伝えておきます。
      いつも時間ギリギリの人で待ち合わせ
      たまに遅れることがあるとかないとか。
          なんか、回りくどいですね💦
        待ち合わせ早めに来なくて大丈夫。
  丁度の電車がなければ時間過ぎてもいいですよ。

わかりました!
時間ちょうどに行きますね。
じゃあまたバイトとオムライスデートで。

『オッ、オムライスデート?!』

 “楽しみです“おやすみなさい”の文字が入ったスタンプを送ったけどデートという文字に胸の中がホワホワして何度も読み返してはにんまりしちゃう。顔を上げた拍子に封筒の中の北里さんと目があったような気がして封筒に向かってペコリと一礼。ついに会えますね、なんて気持ちで封筒をそっと持ち上げ透かしてみる。
 
封筒を戻した横には買ったばかりの手帳を置いている。バイトのシフトはスマホに入れるので手帳は出かけるときのメモがわり。今年の手帳も書き込むことがあまりなくもう手帳はいいかなと思いつつ、落ち着きと華やぎが品よくブレンドされたようなラベンダーの色合いに惹かれてつい買ってしまった。
 
 1月始まりの手帳にはスケジュールが上手く繋がるように前年の12月のページがついている。今年でありつつ来年の一部でもあるかのようなのりしろみたいな特別な1ヶ月。その12月のページに記すはじめてのプライベートな予定ができた。真新しいページの11日水曜の枠にオムライスのイラストを描いていく。ケチャップは赤色ハート型。デートとは恥ずかしくて書けないけれどオムライスデートを意味して丁寧に描いた。


 そして迎えた待ち合わせの日。
 
 遅れるかもなんて伝えていたのにソワソワして落ち着かず30分も早く着いてしまった。先にお店ても覗きに行こうと駅から5分もかからない距離をゆっくり歩いていく。時間も早いし席は大丈夫そう、外から店内覗き見ているその時、巽君から遅れますとのLINEが入ってきた。遅刻で慌ててる感じの様子がなんだかかわいい。大丈夫ですよ、と返して時間もできたことだしと他にオープンしたお店も見ようと通りをぐるっと散策する。お蕎麦に中華にハンバーガー、焼き肉店まで、お洒落なお店が色々できてる。他には何が好きなんだろうなんて考えながらまた駅に戻った。
 待ち合わせから10分遅れて巽くんが到着。
「ごめんなさいっ。遅れてしまいました。」
「いいですよ。私もいつもは遅れる側なので…。なんだか新鮮です。」
 そう笑い合ってあらためて巽くんをみる。きれいに磨かれたスニーカーにきちんとセットされた髪、いつもの整ってる巽くんそのままだ。それと遅刻して頭を低くしている様子のギャップが新鮮で親近感が湧いてくる。いつも落ち着いていて年下なんて気がしないのだけど今はちょっとお姉さんになった気分。
「行きましょうか。」なんてお店までエスコートする。もうだってこのお店3回目。一緒にくるのははじめてだけど。予定より遅れたけれどできて間もないお店には並ばずに入ることができた。

「ほんとに種類たくさんあるんですね。僕はデミグラスソースにします。今日子さんは?」
ときかれてプレーンなケチャップソースを選んだ。実は前にパスタを頼んだとき、凝ったソースを選んで最後まで食べ切れなかった。いつも冒険してしまってあとから後悔する。巽くんは生活もいつも整ってる感じがして食べ物も『定番』がありそうだと思う。

「オムライス、お好きなんですね。」
注文を終えて待つ間、とりあえずと話題を選ぶ。

「実はうち、家、洋食屋だったんです。父親が作るオムライスが一番好きで。コロナで店も畳んだし一昨年他界してしまったんですけどね。あんなに好きでなん十回、なん百回と食べたのに、味覚も含めて感覚って残らないというかその時限りっていうか。誰とどこでとか美味しかったという思い出はあるんだけど。なんか無性にオムライス食べたいと思うときがあって。」
「あっ、そうそう。それで今日子さんのイラスト見たとき、なんか父親の作る料理思い出したんです。あったかくて人をしあわせな気分にさせるような。へんなお誘いでしたよね。今日はありがとうございます。念願のオムライスです。それと今日子さんのオムライスのイラストも見てみたいです。」

 とりあえずの話題のつもりが巽くん自身にいきなり踏み込んでしまった。そうしてる間にオムライスが運ばれてきて巽くんが笑顔になる。その笑顔ごとイラストに閉じ込めたい。
「私のイラストで良ければ。味わって食べて後でゆっくり描きますね。ふわふわ卵にソースたっぷり美味しそう。写真だけ先に撮らせてもらっていいですか。」
そういってオムライスだけ写真に収めてスマホをスプーンに持ちかえる。
「お店の雰囲気も落ち着いていて味も美味しい。満足です。いいお店、ありがとうございます。」 
 食べ終えてからの巽くんの言葉を聞いて、以前きたときもいいお店だと思ったけれど一緒に食べる今はさらにそうだと実感する。
「こちらこそ。掛け持ちで忙しかったんですね。なんかたくさんLINEしてすみませんでした。」
「そうなんですよ。僕こそLINEすぐに返さずスミマセンでした。」
自分から振った話題が重くのし掛かって下を向く。
「あっ、えっえっ。掛け持ちはホントにバイトですよ。今は付き合ってる人も他に仲良くしてる人もいません。来年は就職活動もあるし今はお金を貯めて、一旦は就職するけどキッチンカー持つのが目標なんです。今も掛け持ちバイトはキッチンカーで。お店と違って外で子どもたちにありがとう、なんて笑顔向けられるとたまりません。キッチンカーするときは今日子さんメニューのイラスト描いてくださいね。」
私はそういうあなたの笑顔が眩しいです、とは言わずに、上手く笑えてるか分からないけど顔を上げてから頷いた。

 「この後はどうしますか。映画でも行きます?」
ちょっと考えてから答える。
「映画いいですね。なんか気になる映画はありますか?でも先にがっかりポイント伝えておきますね。
近いか遠いかでいうと、近い方です。緊張するとますます…。」
「あっ、わかったトイレですか?」
「はい。この間も観た映画が長くってラスト30分は頭の中の半分それでした。いいところだと席立つタイミングも悩みますし。気心が知れててリラックスしてるとそうでもないんですが、今日はちょっと緊張してます。」
「分かりますよ。僕は食べるとおなか弛くなります。今日はまだ暖かいから映画はやめて散歩でもしましょう。お店でる前トイレに行きますか。先にどうぞ。」
巽くんといると楽だなぁと手洗いの鏡に映る自分をみて、そして席で巽くんが戻ってくるのを待つ間に実感する。
一緒にオムライス食べることができて良かった。



第10話に続く


なんのはなしですか

8話目の最後部分をもう少し細かく描写し直しました。犬も食わない恋愛創作小説、お読み頂きありがとうございます。ラストまでもう少し、丁寧に書きたいと思いますので良ければよろしくお付き合い頂ければ嬉しいです。

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