短編小説「春を憎み、春をやがて愛す」
入学、卒業、進学、転勤、転職。出会いと別れ。新しいスタート。希望に満ち溢れたこの時期が私は嫌いだ。儚さを思わせるピンクの花も。
昔は私も希望に満ち満ち溢れていた。心機一転新しいスタート!と、気合を入れてリクリートスーツに身を包み、新しいパンプスを履いて企業の面接へ繰り出していた。4月初旬暖かく桜の華が咲いていた。
真新しいランドセルに黄色い帽子を被った小学生、少し大きい制服に身を包んだ中学生、少し髪の毛を染めた高校デビューのあの子、一生懸命頑張ります!と、挨拶した新社会人。
どれもこれも鬱陶しくて仕方なかった。
面接しては何社も落ち、すり減っていくパンプスのかかと。シワになっていくスーツのスカート。
出版社への就職を希望している私は、今日の面接で15社目だった。なんとか最終面接までくることができた。ここまでこれたけど、どうせだめだろう。すっかり自信を失っていた。
私は小さい頃からとにかく本が好きだった。今の時代、電子書籍が流行っているが私は紙のページをめくることが生き甲斐だった。次の物語はどうなるか、ワクワクしながらぺーじをめくる。母には、あなたは本で字を覚えたと言っても過言ではないと言われるほどに本の虫だった。
また、そんな私を後押しする存在が身近にいたのだ。近所のお姉さんが出版社へ勤務していて、たくさんの書籍や書類をカバンに入れて、バス停でその書類と睨めっこしてペンで何かを書き足したりしていた。自分の名前が書籍の隅っこでも載った時はすごく嬉しいとも言っていた。知的でかっこよく、目指す理由は浅はかだったが、中学生の自分には充分な理由だった。
私の名前も本に載ったら、両親は喜ぶだろうか。
その本のページを私はめくりたい。
そこから、深い理由はなかったが目指す理由にはなった。
「三留さんどうぞ」
「よろしくお願いします」
最終面接には、編集長も同席していた。
「編集長の早乙女です。よろしく。固くならなくていいらね。」
優しそうな50代くらいのおじさんだった。そのおじさんの質問は、決して難しくなく答えやすいものだった。
最後に来た質問で私は少し戸惑ってしまった。
「最後に、嫌いな季節を教えて」
「あっ、・・・」
春ですと正直に答えるべきか。春はみんな好きだよな。冬とか言えば無難かな。でも、
「春です。春は眩しくて嫌いです。みんなが輝いて見えます。みんながここからスタートだっていう雰囲気も苦手です」
ほぉ。。編集長は、少しうつむいている。いや、笑いを堪えている。
「なるほどね。うん一理ある。スタートの春わかる気もする。眩しいのはあなたが以外が輝いてると感じているからなのかな?」
編集長は、私の目を見てこう言った。
「君が春を好きになる日が来ますように。自分が輝いたと言える日が来ますように。この出版社を一緒に盛り上げていこう」
嘘だ。思わず立ち上がってしまった。
桜の花をたくさんつけた枝が風に揺れるのを、窓の外に見た。案外可愛いじゃん。
たった一個の出来事で、
わたしは春を好きになりそうになっている。
こちらも良かったらよろしくお願いします。
