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【日めくり】一番になれない彼との、「始まりの始まり」でいいんだよね?【4月8日】

牡丹の花びらが、
春の柔らかな風に乗って石段を舞い上がる。
4月8日。
今日は、あの源頼朝が生まれた日だ。
幕府という新しい時代を作った男が産声を上げた、
まさに歴史の「始まりの始まり」。

「……ねえ、俺、やっぱり武士とか向いてないのかな」

隣を歩く源大(げんた)が、消え入るような声でつぶやいた。

彼は今、
鎌倉にこれまで存在しなかった
「武士系メンズコンセプトカフェ」の
オープニングメンバーとして働いている。

頼朝と同じこの街で、
新しい文化を作る「始まりの始まり」の
一人になるはずだった。

けれど現実は甘くなく、
指名数は伸び悩み、
今月のお給料は家賃を払うだけで精一杯。

鏡を見るたびに「クマが消えない」と嘆く彼を励まそうと、
私――政子(まさこ)は、彼の背中を力いっぱい叩いた。

「痛っ……。政子、そんなに強く叩かなくても」
「気合! 頼朝の誕生日なんだから、あやかって運気上げていこうよ。弱音は禁止!」

境内では、今が盛りの春牡丹が競い合うように咲き誇っている。
鮮やかな牡丹色の花びらが、午後の光を浴びて神々しい。

「見て、あの花。あんなに堂々と咲いてるよ」
彼が牡丹をじっと見つめていると、
不意に隣のマダムたちから声が上がった。

「あら、見て! あの子、ボタンが外れそうよ」

見ると、
源大が無理して新調したジャケットのボタンが、
今にも弾け飛びそうにぶら下がっている。

「あ、ヤバッ」

慌てて押さえた瞬間、ボタンは無情にもコロコロと転がり、
牡丹の花壇の中へと消えていった。

「うわああ、俺の運気まで落ちた……!」

頭を抱えてしゃがみ込む彼を見て、
私は思わず吹き出した。

「ちょ、何その展開! 狙いすぎでしょ」

「笑いごとじゃないよ、これ高かったんだから!」

「いいじゃん、古いボタンが取れたのは厄落とし。頼朝だって、最初は負け組から大逆転したんでしょ? 似たようなもんじゃない。ここからが本当の『始まり』だよ」

私たちは改めて、本宮で手を合わせた。
源大は、
これまでにないほど真剣な顔で祈っている。

誰かの一番の「推し」になれるように。

……それは彼の成功を意味するけれど、
彼女としてはやっぱり胸がざわつく。

私だけの源大が、誰かの宝物になっていく。
応援したい気持ちと、独り占めしたい気持ち。
二つの感情が混ざり合って、
喉の奥が少し熱くなった。

参拝を終えた彼の表情は、少しだけ晴れやかだった。
「……よし。俺、明日からまた頑張る。頼朝もこの街から天下取ったんだもんね」

「その意気! 帰りに新しいボタン、私が選んであげるから」

転がったボタンは見つからなかったけれど、
代わりに彼の瞳には、
牡丹の花にも負けない情熱の火が灯っていた。

この先、
彼が「一番」へと駆け上がるステップは、
私との穏やかな日々の「終わりの始まり」を連れてくるのかもしれない。

それでも、
失くしたボタンを新しく付け直すように。
いつか彼と温かい家庭を築く「始まりの始まり」へ、
この道が続いていると信じたい。

舞い散る花びらを見つめながら、
私は少しだけ切ない予感を抱きしめて、
彼の隣を歩き出した。

~あとがき~

今日という日が、あなたにとって、
何かの「始まり」になりますように♥


翌日の物語はこちら:


※本記事は個人の創作によるショートショート小説であり、実在の人物・団体・施設等とは一切関係ありません。


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