「専門性がない」と思っていた僕が、経歴を並べて見つけたもの
主に、何をされてたんですか
「主に、何をされてたんですか」
面接で、そう聞かれたこと、ないでしょうか。
聞いているほうは、たぶん軽い気持ちです。でも、この「主に」で固まる。
なぜなら毎回ちがう仕事をしてきたからです。
数年ごとに、担当がまるごと変わる。去年まで覚えたことが、今年はもう使えない。また新人に戻って、一から覚え直す。そして、やっと慣れたころに、また次へ。
だから、これが自分の仕事です、と言えるものがない。
浅くて、バラバラ。
何かは話せます。でも、どれを話しても「それで?」と返ってきそうで、口が動かない。
——結局、何屋さんなんだろう、この人。
そう思われて終わる気がして、こわい。
「主に、何をされてたんですか」
この質問に、僕も答えられませんでした。
大変ですよね、と言われるたびに
「異動で最初からやり直しだから、大変ですよね」
これも、よく言われました。
言ってくれる人に、悪気はありません。たぶん、ねぎらってくれている。
でも僕は、そのたびに少し黙りました。
大変ですよ、とも言えない。いえ全然、とも言えない。
引っかかっていたのは、大変かどうかじゃなかったからです。
——これ、何も残らないな。
そっちでした。
分厚いファイルを渡されて、また一から。数年かけて、やっと流れが見えてくる。そのころには、もう次の場所にいます。そして前の仕事は、細かいところから順に忘れていく。
覚えては、忘れる。
それだけを繰り返している気がしました。
しかも、当時の僕は非正規でした。僕のいた職場では、任される範囲がはっきり決まっていました。ここからここまでが、僕の仕事。その先の判断は、別の人のところへ行く。
だから、どの仕事も深くなる前に終わってしまう。浅いところを、横に移動しているだけ。当時は、そんなふうに感じていました。
同じころに入った人たちは、少しずつ自分の分野を作っていきます。あの人といえば、これ。そういうものが、できていく。
僕には、それがありませんでした。
あの人といえば——のあとが、続かない。
だから、転職しようと職務経歴書を開いたとき。書く場所はあるのに、書くことがない。
そんな気がして、しばらく動けませんでした。
全部、並べてみた
それでも、書かないと始まりません。
だから、思い出せる仕事を、片っ端から書き出しました。きれいにまとめようとは、しませんでした。やったことを、ただ並べていく。
書き終えて、正直、余計に落ち込みました。
——やっぱり、バラバラじゃないか。
並んでいるだけで、一本の道になっていない。
ただ、そのとき。
一つずつ読み返すのを、やめてみたんです。全部を、いっぺんに眺めてみました。
すると、見えました。
同じものが、混ざっている。
分野は、全部ちがいます。相手も、やり方も、覚えることも、全部ちがう。
それなのに。
僕がやっていたことだけが、毎回そっくり同じでした。
そのときは、まだうまく言葉になりませんでした。でも、たしかに見えたんです。
バラバラだと思っていた経歴に、一本だけ、通っている線が。
分野は変わっても、やることは同じだった
同じだったものが、2つありました。
一つは、これです。
初めてのことを調べて、次の人が困らない形にして残す。
たとえば、前例が見つからない申請が来たことがありました。誰に聞いても、やったことがない。過去の書類をさかのぼっても、似た例が出てきません。
だから、決まりを最初から読み直しました。関係しそうなところに、片っ端から聞いて回りました。そうやって、やることを一つずつ並べていって、最後にそれを書いて残しました。
数年後、僕はまた別の場所へ移ります。そのとき引き継ぐ人が、同じ苦労をしなくて済むように。
これ、その仕事だけの話じゃありませんでした。その前の仕事でも、同じことをやっていたんです。
そして、もう一つ。
面倒な手間を見つけて、減らす。
印鑑を押して、封筒で送る。僕の当時の部署では、それがお決まりの申請書類の処理手続きでした。
どこか一か所でも間違っていれば、封筒ごと戻ってきます。また押して、また送る。そうしているうちに、何日も過ぎていく。
昔からそうだったので、誰も疑っていません。でも、何度も繰り返していると、さすがに思います。
——これ、紙じゃないとダメなのかな。
もちろん、僕一人で決められることではありません。だから、いろんな人に相談しました。協力してもらいながら、やり方を根本から変えていきました。
あの封筒が、戻ってこなくなりました。
新しい場所に行くたびに、まず「なんで、こうなってるんだろう」と思う。そして、気づいたら手をつけている。
——ああ、そうか。
僕はずっと、専門性というのは「詳しさ」のことだと思っていました。この分野に詳しい。この仕事を長くやっている。そういうものだと。
たしかに、それも専門性です。でも、それだけだと、僕には一生ありません。異動のたびに、消えてしまうからです。
なのに、消えなかったものがありました。分野が変わっても、毎回ついてきたものが。
詳しさだけが、専門性じゃなかったんです。
初めての場所に立ったとき、自分が何をするか。
それも、専門性でした。
そう考えると、見え方が変わりました。
数年ごとに、初めての場所へ放り込まれてきた。そのたびに、同じことをやってきた。もう、何度も。
バラバラだったんじゃありません。同じことを、違う場所で、繰り返していただけでした。
だとしたら。
あなたにも、同じものがあるはずです。
で、あの質問には答えられたのか
見つかりました。
でも、正直に言うと。それだけでは、足りませんでした。
面接では、また聞かれます。
「主に、何をされてたんですか」
見つけたからといって、すぐに答えられるわけではありませんでした。
たとえば、こう答えたとします。
「初めてのことを調べて、次の人が困らない形にして残していました」
嘘ではありません。でも、面接官はたぶん、こう思います。
——で、それがうちで何の役に立つの?
これは、僕にとっての発見でした。
でも、相手にとっては、まだ何の意味もない。
自分に見えたものを、相手に見える言葉へ置き直す。それが、もう一つ必要でした。
僕はそこで、もう一度止まりました。
経歴の中に同じ「線」が見つかっても、そのままでは採用側へ伝わりません。
「初めての場所で、散らかったものを整理してきました」と言うだけでは、面接官は、その人が具体的に何をしたのかを想像できないからです。
次に必要なのは、その線が表れた仕事を一つ選び、
何が大変だったのか
自分は何を変えたのか
誰に、どんな変化があったのか
まで具体的にすることでした。
その3つの見つけ方は、こちらにまとめています。
経歴全体から見つけた「線」を、まず一つの具体的な経験へ下ろす。その順番で進めてみてください。
今日、全部並べてみてください
「主に、何をされてたんですか」
今でも、この質問はされます。
うまく答えられているかは、正直まだ分かりません。でも、あのときみたいに黙ることは、なくなりました。
毎回やってきたことなら、話せるからです。
もし、数年ごとに担当が変わる場所にいるなら。任される範囲が決まっていて、これ以上深くなれないと感じているなら。そして、あの質問に詰まったことがあるなら。
たぶん、あなたにも見つかります。
今日、思い出せる仕事を、全部書き出してみてください。きれいでなくて、かまいません。順番も、ばらばらでいい。
書けたら、一つずつ読み返すのは、やめてください。
一つずつ見ると、「これは事務」「これは接客」と、分野の名前がついてしまうからです。そのかわりに、仕事の名前のほうを、いったん忘れてみてください。そこで自分が何をしていたかだけを、思い出す。
わからないことを、調べて回っていたな。
散らかっていたものを、並べ直していたな。
誰かが面倒がることを、代わりにやっていたな。
そうやって眺めていくと、仕事の名前はバラバラなのに、同じことばかり出てきたりします。
それが、あなたの線です。
分野は、たしかにバラバラでした。でも、そこで動いていたのは、毎回あなたです。
線は、これから作るものじゃありません。
もう、引いてあります。
もしこの記事を読んで少しでも役に立てたならスキ・フォローをしていただけると励みになります。

