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BL短編|「好きって、そういうことか」



まだ恋人ではない二人の、気づいてしまった日の短編です。

「小池さんって、ほんと斉藤さんのこと好きですよねぇ」

冴島さんと二人でランチに入ったカフェで、いきなりそんなことを言われて、俺は思わず手を止めた。

本人は特に変なことを言ったつもりもないらしい。
向かいの席で、メインの肉をフォークで刺して口に運びながら、けろりとした顔をしている。

雑誌をめくっては「ここ行ってみたいです」「次はあそこにしましょう」と楽しそうに誘ってくる冴島さんとランチに出るのは、そう珍しいことじゃない。年下のわりに変に遠慮せず、気を遣いすぎないところが楽だった。

だから、彼女の突拍子もない発言にも、だいぶ慣れたつもりでいたのだけれど。

俺は一度フォークを置いて、水を半分ほど飲み込んだ。

「冴島さん、それどういう意味ですか」
「え? 言葉のままですよ?」
「……そのままだと、だいぶ誤解がある気がするんですが」
「誤解じゃないと思いますけどねぇ」

のんびりした口調で返されて、思わずため息がこぼれる。
冴島さんは付け合わせのポテトを頬張りながら、不思議そうに首を傾げた。

「だって小池さん、斉藤さんに甘いじゃないですか」
「それはあなたもじゃないですか」
「私とは違いますよ。私はただ一緒に仕事してるからですけど、小池さんは仕事抜きでも斉藤さんのこと気にしてるでしょう?」

周りに聞かれたら妙な誤解をされそうな言い方だった。

仕事抜き、と言っても、呼ばれたら飲みに行くだとか、頼まれた資料の確認をつい引き受けるだとか、その程度だ。少なくとも俺の中ではそういう認識だったし、なぜ彼女がそんなふうに言うのかは分からなかった。

けれど、これ以上反論したところでたぶん通じない。
俺はそれ以上言うのを諦めて、黙々と皿を片づけることに集中した。

途中、冴島さんが最近仲良くなった取引先の人の話をしたり、仕事の愚痴をこぼしたりしているうちに、ランチの時間はあっという間に終わった。

支払いはいつも別々だ。
俺が出すと言ったこともあるけれど、レジ前で軽く揉めて、結局そこに落ち着いた。その方が気兼ねなく誘えるのだと、彼女は言う。

冴島さんとのランチは、俺の小さな楽しみのひとつだった。

彼女が支払いをしている間、胸ポケットのスマホが鳴った。
画面には、斉藤の名前。

「はい、小池」
『どこ?』
「どこ、って……外だけど」
『今から打ち合わせしたい』
「は? 予定は十五時からだっただろ」
『今やる気になったから、今やりたいんだよね』
「子どもか、お前は」
『そういうこと言うなら、資料まとめるの小池に全部任せるけど』
「脅しかよ」
『じゃ、よろしく』

言いたいことだけ言って、通話は一方的に切れた。

しばらくスマホの画面を睨んでから、ため息をつく。
まったく、勝手なやつだ。

なのに、そのため息に不快さはあまり混じっていなかった。

「何かありましたか?」

支払いを終えた冴島さんに事情を話すと、二人で関係各所に連絡を取りながら、早足で会社へ戻ることになった。

今日の打ち合わせは人数も少ないし、資料もだいたいそろっている。急げば十分間に合うだろう。そう思いながら歩いていた時、不意に、さっきの冴島さんの言葉が頭をよぎった。

——小池さんって、ほんと斉藤さんのこと好きですよねぇ。

好き、か。

確かに、と思った。

どれだけ振り回されても、いらついても、結局見限らずに隣にいるのは、斉藤と組んでいる時間が嫌いじゃないからだ。
いや、嫌いじゃないどころか、たぶんずっと心地いいと思っている。

あいつは勝手で、思いつきで人を巻き込んで、こっちの段取りを平気で崩してくる。
それなのに、斉藤に頼まれると断れない。
面倒だと思いながらも結局引き受けてしまうし、困っていたら放っておけない。

対等な立場で、同じ仕事をしているだけだと思っていた。
斉藤が相棒みたいなものだから、つい手を貸してしまうんだと。

でも、たぶんそれだけじゃない。

斉藤だからだ。

そう考えたところで、ようやく自分の中で何かがすとんと収まった。

ああ、好きって、そういうことか。

認めてしまうと、拍子抜けするくらいあっさりしていた。
もっと面倒で、もっと厄介なものかと思っていたのに。

「どうかしました?」と、隣を歩く冴島さんが不思議そうにこちらを見る。
「いえ、なんでも」
「ほんとですか? なんかちょっと顔やさしいですけど」
「気のせいです」
「そういうことにしておきます」

くすくすと笑う声を聞きながら、俺は少しだけ歩く速度を上げた。

会議室の扉を開けたら、斉藤はきっと何事もなかったみたいな顔でこちらを見るのだろう。
勝手に人を呼びつけておきながら、悪びれもしない顔で。

それでもたぶん、俺はその顔を見るだけで少し安心してしまう。

本当に、どうしようもない。


※AIの力を借りて、誤字脱字の確認と表現整理を行っています。



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